第4話 蘇生
最初に見えたのは白い天井だった。
まだ目が冴えない。
頭の中のまだ整理されていない記憶が混在していて頭痛がする。
まず思い出したのはクソムカつく王の顔だった。
次にあの聖職者アルベルト・バトラー。
とにかく俺は死んだんだ。
現世のことなんか知ったことか。
「残念だったね、ライオネル」
ひとりの少女が仰向けに寝るライオネルの顔を覗き込んできた。
「、、、どこから来た?」
辺り一面真っ白い空間にぽつんと取り残されたように二人は顔をしばらく見合わせていた。
急な少女の登場にライオネルは驚きが隠せなかった。
「空から来たよ。でもそんなことはどうでもいいの」
「お前は誰だ?」
少女は少し躊躇ったが、口を開いた。
「私の名はタナトスティア。あなた達の言う神」
「あぁ、あの腹黒神官が祀ってるやつか。とんでもない神なんだろうな」
殺された時の怒りの余韻はまだ消えてなかった。
そのため、見ず知らずの少女に八つ当たりしたことに後悔したのはそのすぐ後だった。
「そうなの、そうなの。困るんだよねー、勝手に祀っちゃって」
「神ってそんなもんだろ」
「祈られたところで、何にもしないんだけどね」
「何もしてくれない神なんているのか?どうせ暇なら俺を生き返らせてくれよ。あの国王と神官を殺しにいくからよ」
少女、いや神タナトスティアは腕組みをし、分かりやすく深い思考に入った。
「いいけど、、、」
「いいのか?そもそも人を甦らすことなんて出来るのか?」
「出来るわよ、神だもん。ただ私は死を司る神だから苦手なの、蘇生させるのは」
「なんでもいい、とにかく現世に蘇らせてくれ」
「絶対に後で文句言わないでよ。失敗しても知らないから!」
そこまで言われると不安になってくる。
兎にも角にも、何もしなければ始まらない。
このまま死だけを受け入れるだけなんて考えられない。
ここまで自分の命に縋ったのは何年振りだろう。
自然と自分と対等の
魔王という今まで戦ってきた中で唯一といえる
あの瞬間、現世でやることは終わった。と思った。
やはりあの王国は腐っている。
妻ガルアの行方も気になる。
ライオネルのすべき事は既に決まっていた。
気づけば、ライオネルの全身を光の柱が覆っていた。
その光の柱は無限とも思われる白い天井へと一直線に伸びている。
「蘇らせる代わりに条件があるの!」
タナトスティアは言った。
「何だ?」
「現世での私の名前を勝手に使ってる人が多すぎるの!だから私のイメージを良くして欲しいの」
「お安い御用だ」
ライオネルはタナトスティアの「お願いねー!」という言葉と共に光の柱とともに白い空間から消えた。
「何をしているんだ?タナトスティア」
ライオネルの居なくなった白い空間には入れ替わるように一人の男が現れた。
全身を黒いマントのような装いで覆っている。
「べ、別に、、何も」
怪しすぎるタナトスティアの言動に男は疑いの目を向けたが、それ以上の詮索はしなかった。
目が覚めると、自然の香りがした。
自然の香りというと、草、土、水、猛獣のフン、木、花、葉など様々だが、それらを総統してよいだろう。
どうやらハンモックの上に寝ているようだ。
少し横に身をずらすと、今にも床に落っこちてしまいそうだ。
目を開くと、木目の天井が見える。
今度は現実の天井だ。
あの白い空間は果たして現実なのだろうか、それとも夢なのか。
はっきりとしない記憶が頭の中を回転している。
一度目を擦る。
どうやら現実のようだ。
もう一度目を擦る。
ひとつだけ気になることがある。
皮膚が緑色に変色している。
それどころか体が軽い。
全盛期の10倍以上は軽い。
身を起こし、体全体を見る。
上半身は裸、下半身は魔獣の皮から作ったボロボロの腰巻、右側には短刀が備わっている。
勿論のことだが、肌は全身緑色だった。
「なんなんだ、一体。俺は新種の病原菌に侵されているのか」
いまいち情報が整理できない。
ただハンモックはギシギシと音を立てながら、揺れるだけだった。
「どうした、ライオット。ミカヅキバチにでも刺されたか?」
ミカヅキバチとは三日月のような形をしており、刺されると全身が紫色に変色してしまう強い毒性を持つ魔昆虫の一種だが、今はそんなことはどうでもいい。
一番重要なことは話しかけてきたのが明らかにゴブリンだということだ。
そして名前も変だ。
「ライオットだと?」
「お前のことだろ?そんなことより早く広場に集合だ。ゴブリンロード様が話したいことがあるそうだ」
ライオット、ゴブリンロード、聞きなれない単語が多すぎる。
蘇生先では名前も姿形も変わるのか。
蘇生というものだから、元の勇者ライオネル・ブラッドとして生き返るものだと思っていたが。
とにかく今話しかけてきたゴブリンの言う通りに動こう。
変に目立つのはあまり得策とは言えない。
「すまん、すまん。お前の名前は、、何だっけ?」
「おいおい、寝てる間に頭がイカれたか?アルだよ。アル」
そう言いながら、アルは手を引っ張った。
「そうだ、アルだった。昨日ハンモックから落ちて頭をぶつけたんだよ」
得意の作り笑いはゴブリンのアルに対しても効果覿面だった。
部屋の隅にある端が割れている鏡の前に立ってみた。
やはりゴブリン。
目は上に吊り上がっており、耳も同様、上にピンとはねている。
散々、殺してきたモンスターの姿がそこにはあった。
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