音は翼
食連星
第1話
心が飛んでいき、跳ね上がる。
木人財団から,私にお届け物.
待ちに待ってた.
訳では無い.
すっかり忘れていた.
本当に珍しく,生きているうちに
そうそうお目にかかれない.
段ボールは大きかったが,
それなりに重くて,
予想よりも軽かった.
親の世代が子どもが生まれた時に
記念に申し込む.
子どもが生きているうちに届けば
早い方だ.
親もいない年代になった.
うわぁ
本当に存在したんだ.
仕事して,
親の面倒を見て,
1人.
悠々自適.
体のあちこちにガタがきてる.
それなりに,お付き合いもあって,
何だか,いい感じの人もいたけれど.
これっていう決定打 が無くて,
何となく独身.
今朝は,燃えるゴミ出してきた.
洗い物も好きな時にして,
ウォーキング始めてみようかなって
思いながら,まだ.
走ったら転びそう.
何となく.
適当にテレビ見て,ネット見て,
何となく毎日が過ぎてく.
時々,病院通い.
まぁ,いいか.
開封の儀.
段ボールにガムテープぎちぎち.
几帳面な人が封したのか.
とっかかりが…
引っ張ったらガムテが斜めって破れて外れて,
落ち着いてやりたいのに.
焦ってんのかな.
素焼きの大きな鉢に,
何の変哲もない土に,
まぁるい虹色の種.
一円玉の半分位?
小さなビニールに入った種を大切に取り出す.
後の物は,どれも替えがきくから,
どうでもいいといえば,どうでもいい.
…はず.
こんな大きな素焼きは,
どこで買うんだ.
特注かな?
割ったら最後か.
いっそ,バスタブで育てるしかない.
ローテーブルの上に種を,
そっと置く.
腐葉土って書いた
ぎゅうぎゅうに押し込まれた土を取り出す.
取り出すと嵩が増し,
また入れ込むことが難しそう.
最後に,素焼きの大きな鉢を取り出す.
誰かいたら,段ボールを持って貰えるのに.
きつきつに入った鉢は,
めちゃくちゃはまり込んでる.
両手で掴んで引っ張り出し,
足で段ボールを押さえる.
片足立ちで,よろけるなんて
ひどい様だ.
絶対,割る事なんて出来ない.
気合と気力と意地で
踏みとどまる.
説明書は奥底.
屈むと腰が…
指先にあたるけれど,
端が分からない.
少し格闘した後…
何だ逆さにすりゃいいんじゃん.
馬鹿だ.
箱を逆さにすると,
ひらひらっと出てきた.
面白がられてるのか…
紙に被害妄想.
段ボールの底を切って下に?
ほうほう.
切り取り線はあるけれど
切り込みは無くて…
これ…
カッターとかで切れと…
そういう事?
手を切らないか?
指示が多すぎて
大変.
めんどくさがって投げてもいいけど.
投げたところで,他にやりたい事もない.
お付き合いしますよ.
とことん.
音は翼 食連星 @kakumi
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