僕は君の為にパンツを脱ぐ

紫恋 咲

第1話  僕は君の為にパンツを脱ぐ

「ねえ和花奈わかなさん、あの校内最強イケメン一羽かずはくんに、パンツ脱いでって言われたらしいわね」

「ええ!!!何で知ってるの?」

「やっぱ噂は本当だったのね」

「まあ……嘘じゃないけど……」

「で……どうだったの?和花奈さん」

「ええ…………まあ気持ちよかったけど…………」

「そうなんだ」


私は愕然としたが、動揺を見られたくなくてさりげない雑談のように話した。

「次はおそらく希咲きさきさんあたりかしらね」

「どうかなあ……」和花奈さんは恥ずかしそうに俯いた。


ここは自由が谷にある城聖高校、場所柄タレントも多数通う名門高校。

その中でも最強イケメンの西条一羽は群を抜いている。

あの有名なイケメン俳優の西条睦月さいじょうむつきとアイドルだった水菜葵みずなあおいの間に生まれたサラブレッドなのだ。

そんな彼は最近校内の美女を片っ端から口説いていると言う噂だ。

女子生徒の中では声をかけられるのは誇りとさえ言われている。


私は柳原杏香やなぎはらきょうか、校内の美人投票では常に上位に入っている。

しかも一羽くんは私の好みで、告白されたい男子ナンバーワンなのだ。

しかし、今回私に話が来ないのはどう言う事だろう。

私のプライドは少しずつ砕けてしまいそうになっている。


数日後希咲さんに廊下で会ったので、それと無く聞いてみた。

「ねえ希咲さん、一羽くんにパンツ脱いでって言われたらしいわね」

「ええ!!何で知ってるの?」

「あなたも一羽くんの手に落ちたのね」

「まあ…………」

「で……どうだったの?希咲さん」

「ええ…………とっても気持ちよかったわ…………」恥ずかしそうに俯いた。

「そ、そうなんだ」

私は心の中で強烈に嫉妬した、しかし冷静を装った。

廊下に差し込んだ西日は恥ずかしそうな希咲さんの頬をさらに赤く見せた。

何で私に話が来ないの?かなり苛立っている。


そんなある日一羽君から呼び出しがある。

屋上に行くと彼はニッコリ微笑んで待っていた。

「杏香さん、実はお願いがあるんだけど」

キター!!!と思ったが落ち着いたふりをして返す。

「何かしら?」

「実は、僕のためにパンツを脱いで欲しいんだけど」

髪をかきあげ長いまつ毛を揺らし微笑んだ。

カッコいい!!イケメンって罪だわ、そう思ったが落ち着いたフリをした。

「パンツって下着のこと?」

「うん」

「それってどう言う意味?」

「そのまんまの意味だけど」

「そうなの……」

「勿論無理にとは言わない、良ければ今度の日曜の午後2時にここへ来てくれよ」

そう言って住所が書かれたメモを渡される。

「待ってるよ」そう言って彼は手を振って帰っていった。

私は心地良い風を感じてガッツポーズをした。



日曜になって私は出かける準備を始める。

シャワーに入り入念に体を磨き上げる。

下着も可愛さとセクシーさを持ったとっておきのを身につけた。

スマホでナビりながら住所に辿り着く。

「えっ?ホテルじゃないし……彼の部屋でもなさそう?」

キョロキョロと見渡すと、住所はこの銭湯のようだ。


女湯ののれんをくぐって中に入ると同級生の美奈代みなよちゃんが番台にいる。

「いらっしゃいませ、一羽君ならもう男湯に入っているわよ」

「えっ!もう入ってるの」何が何だか解らない。

「はい髪を止めるゴムとタオルはサービスよ」そう言って渡された。

僕の為にパンツを脱いでってそういう事なの、私は状況を飲み込めない。

仕方がないので脱衣所で服を脱いだ、気合を入れて身につけた下着が、ロッカーの中で寂しそうにしている。女湯には誰もいなくて貸切状態だ。

なんかアホらしくなって髪をまとめて湯船に入る。


「ふう〜……………」


男湯から声が聞こえた。

「杏香さん、もう入ってますか?」

「ええ、入ったけど……」

「「「うを〜」」」どよめきが男湯から聞こえてくる。

「杏香さん、来てくれてありがとうございます、杏香さんが一緒にお風呂に入ってくれるって言ったらクラスの男たちはほとんど来てくれました、感謝します」

「ええ???クラスの男たち???」

「「「杏香さ〜ん!!!女湯に杏香さんがいると思うと俺たち幸せで〜す」」」聞き慣れた多数の声が聞こえた。

思わず胸を隠してしまう。

「どう言う事なの?」

「杏香さんとお風呂に入りたいと思ったんですが、まだ高校生なのでこんな事になりました」

「意味わかんない」私は呆れ果てる。

しかし広いお風呂は気持ちよかった。

「そう言えばみん気持ち良かったです……って恥ずかしそうに言ってたけど、こう言う事なの」私は独り言を漏らしてしまう。

私はバッグをブンブン振り回しながら帰った。



俺は今日も銭湯に来ている。

幼馴染の美奈代ちゃんが話しかけた。

「今日も誰か来るの?」

「いや、今日は一人でのんびり入りたいから誰も呼んでない」

「そう、学校の美女達が次々に来るから最近評判でお客さんが増えたよ」

「そう、それは良かったね、みんな銭湯の良さに気がついたんじゃない?」

「そうかなあ?でも学校の美女達はみんな気合を入れてオシャレしてくるよ、銭湯にくる雰囲気じゃない気がするよ」

「いいじゃん、来てくれれば」

「まあ……いいけどさ……どうせ後半年で閉めちゃうからさ……」

「ええ!!!閉めちゃうの?」

「うん、ここはアパートにするんだって」

「じゃあ美奈代ちゃんはどうなるの?」

「卒業したら引っ越すことになると思うわ」

「ええ〜そんな………せっかくお客さんを増やそうと頑張ったのに」俺はガックリと肩を落とした。


「えっ?どう言う事?」

「実は3ヶ月ほど前に近くのカフェで美奈代ちゃんのお父さんの話を聞いてしまったんだ、このままお客が減ったら銭湯をやめるって」

「それで毎日通ってくれてたの?」

「だって美奈代ちゃんと離れたくなかったから」

「ええ???私のことを気にかけてくれてたの?」

「ああ、俺は美奈代が好きだ、だから離れたくなかった」

「ここに来たら裸を見られてしまうのに?」

「ああ、死ぬほど恥ずかしかったさ、でも、僕は君の為にパンツを脱ぐ!!!」

「ばか!!!」

彼女は顔を押さえて奥に逃げていってしまった。


「おっ、一羽くん来てたのかい」お父さんが番台に現れた。

「はい、コーヒー牛乳をください」

俺は受け取ると腰に手を当てて一気に飲み干す。

急激に暑くなった体を冷やした。


学校で美奈代ちゃんは恥ずかしそうにして殆ど話しをしてくれなくなってしまった。やがて卒業すると、美奈代ちゃん一家は引っ越してしまった。

銭湯もなくなった。

俺の青春も終わった。


大学に入るとバッタリ美奈代ちゃんに会う。

「えっ!同じ大学なんだ」

「そうみたいね」恥ずかしそうに微笑んでいる。

「俺一人暮らしを始めたんだ」

「そう、じゃあ遊びに行ってもいい?」

「勿論さ、大歓迎だよ」

桜吹雪の中を二人で歩いた。

まだ青春は終わってないようだ。

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僕は君の為にパンツを脱ぐ 紫恋 咲 @siren_saki

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