第6話 夢を見た

「へぇ、異世界に行けるんだぁ」


「そうなんだ。もっと俺の能力の研究が進めば、レベルアップすれば自由に行き来できるかもしれないんだよ」


 娘々カフェにやってきた俺はルッタちゃんを横に座らせてから鼻息荒く語り続けていた。


「そうなんだぁ。アテナが居なくなっててんちょーも私達もバイト代の計算から仕入れまでを誰がやるかたくさん話し合って大変だったけど、

 アテナもご主人もテーマパーク? に行って楽しいそぉ」


「え、っと。本当に異世界でね」


「そんなわけないじゃん! 魔法なんてこの世界にはないんだよぉ」


 と、ルッタちゃんは俺の頭をなでなでしながら


「ぐへへへ」


 俺は気持ち悪い声で鳴いて、それを恍惚な表情で眺めているルッタちゃん。


「ご主人さまきもちわるーい」


 くそ。メイドAめ。

 配膳をしながら俺に向かってそんな言葉を投げつけるやつの名前はトリシュ。

 覚えたぞ。今度無限にチェキを撮って疲労させてやる。


「ああ。ごめんルッタちゃん。もう時間が」


「えぇー、さっき来たばっかりじゃん!」


「俺の魔法には制限時間が」


 と、言いかけた瞬間に暗転。

 そうして明点すると、やはりそこは異世界の俺の部屋。


「おかえりなさいませ。今日はどちらへ行かれていたのでしょうか?」


「お嫁さんのところへ」


「旦那様はご結婚されているのですか?」


 と、お目々をパチパチとさせて興味津々で聞いてくる完璧美少女メイドさん。


「いいや、したいなぁと思ってるけど」


「先程お嫁さんに会っていらしたのでは?」


「未来のね」


「??」


 困惑した表情で頭を捻るメイドさんを見て俺の精神が浄化される。


 その時、勢いよく扉が開かれて

 ビクッとメイドさんの肩が跳ねる。

 同時に胸も揺れる。

 俺はそれを見逃さない。


 なかなかの大きさで。


「こらぁ、また日本に戻ったでしょ!!」


「クッソ、なんで分かるんだ!?」


 やってきたアテナとその仲間たち。

 いや、ヒロとトシヤ。


「甘ったるい匂いがプンプンするの! 

 あのルッタの匂いが!」


「うっそぉ。

 ルッタちゃんの匂いが! 俺に!」


 と、ニコニコの俺に

 メイドさんが表情を曇らせてから


「この匂いは別の女性のものだったのですね。

 いつも戻っていらして漂っていたのですが。

 あちらの世界の匂いとばかり」


 と、メイドさんの言葉に

 アテナが肩を抱き寄せながらメイドさんの頭を撫でる。


「この変態。こんな美少女が目の前に二人もいるのに

 どうしてルッタなの?」


「アテナさん。そういえば最近ルナマリアがやたらと旦那様にベッタリなのです。

 よく、早く替わってください。と私を急かしてくるようになりました」


「ルナマリアって、ちびっこメイドのルーナちゃん?」


 アテナの後ろから、つまりトシヤから


「俺のルーナちゃんを取るのか! トシヤ!!」


「残念なことに俺はロリはあまり。

 この間じゃが○こを食べながら歩いているのを見つけたんだ。

 だからキット○ットをあげた」


「この前買ってこいって言ったくせに、どうして人にあげるんだ!」


 俺はトシヤに詰め寄ろうとしたが、その間には完璧美少女金髪碧眼メイドさんとエセメイドのアテナがいるために近づけない。


「へぇ、餌付けしたんだぁ」


「そうなのですね。だからルナマリアは。

 私も日本のお菓子が欲しいです」


「え? リシテア、何も貰ってないの?」


「はい。旦那様が目の前にいらしているのに言うのは少し抵抗といいますか、嫉妬といいますか。少し感じるものがありますが。

 旦那様はルナマリアにはお土産を持ってきますが、私には一度も・・・」


「ひっどい。

 見損なったわ、」


「う、嘘だろ・・・」


 お菓子より写真とか置物とか形に残るものが良いって言ったじゃないか。


「………………え、まって。

 待って待って。

 リシテア? 誰それ、って。名前??

 メイドさんの名前?」


 指差し確認。

 美少女完璧碧眼メイドさんはアテナの胸元に顔を埋めながら泣いているのか、うんと肯いてから。


「カズ、リシテアの名前まで知らなかったの?

 あのルナマリアってメイドには愛称をつけて可愛がっているのに?」


「それはひどいと思うな」


「流石に俺もそこまで忖度はしないさ」


 ちょっと、ちょっと待て待て待て。


 俺の頭の中は「?」でいっぱい。


 





 ■


 ガバッと、俺はベッドから飛び起きて、今何時かを確認する。


「ど、どうかされましたか、旦那様」


 メイドさんが俺の顔を覗いている。


「ゆ、夢?」


「どのような夢を見られていましたか?

 旦那様はお疲れでしたか? 他の皆様と一緒にダンジョンへ行かれてから

 戻ってきたあとすぐに寝てしまわれて」


「ダンジョン? 何回目?」


「えっと、先ほどが初めてのダンジョンだと伺っていますが」


「3日目? だったらあの夢は??」


「どの夢でしょうか?」


「どこから・・・

 ちょっと、メイドさん。

 あなたの名前は、「リシテア」」


「ち、違いますが………」


「な!?」


「少し、つかぬことをお聞きしますが、

 旦那様。粗相をされ………」


 と、メイドさんの視線は俺の股間へと


 ――――濡れていた。


 と言うか、漏れていた。

 疲労感がすごい。思い出したかのように、体がダルい。


「ふ、風呂入ってくる」


「せ、背中をお流し――――」


「いや、いい。一人でいいから」


 少しだけ早足で脱衣所へ向かう。

 この不快感は、あれだ。ちゃんと処理せずにパンツを履いてどうしようもなくなった。そんな感じ。


 



 そんな背中を窓の外から眺める女がいた。


「リシテアさん、何をしているのですか?」


 ベランダの下から呼ぶ声がして、女はそれに返事をする。


「ちょっと遊んでただけ。

 とっても良い精気を貰えたの!」


「なんですか? 精気って」


「まぁまぁ、ルーナさんって初心なのね。

 精子よ」


「はぁぁぁぁ」


 顔を赤らめるロリメイド。

 

「こら、リシテア、ルナマリア!」


 と部屋の中から自分たちを呼ぶ声がする。


「あなたの旦那様、いい男だと思う」


 と、去り際にリシテアが言って、

 同時に背中にコウモリのような翼が生えた。


「あ、ああ。私のせいじゃないのですぅ!」


 膝を抱えてうずくまるルーナをよそに、空へ舞い上がるリシテア。

 彼女は月の光に照らされて、黒い影になりながら

 ギュッと小さく丸まって、完璧美少女碧眼メイドさんの胸に飛び込んだ。

 それは、溶け込むように消えてしまって


「あまり、勝手にしないでください」


 胸に手をあてて、少し恍惚そうなとろけた表情を浮かべたメイドさんは


「ああ、旦那様を飼いたい」


 と、空を見上げた。

 メイドさんは変態だった。

 

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異世界に召喚されたけど城にいるメイドから懐かれた! 藤乃宮遊 @Fuji_yuu

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