第5話 初めてのカップ


 あれから日本に数回行き来した結果、わかったことは


・ランダムな時間で異世界に戻ってしまうこと。

・手に持っていた物は異世界から日本、日本から異世界に移動すること


 と、異世界で価値があるものを日本に持っていって換金して。

 その逆もできるようになったわけだ。


「しかしなぁ」


 自室のベッドで横になりながら独り言。


「ため息は幸せが逃げますが」


「人体実験のようなものだしなぁ」


 チラリと小柄で大きなメイドさんを見る。


 一瞬嫌な表情を作って小さな反抗をされる。


 壁とタンスの隙間に隠れて。すっかりそこは彼女の居場所になってしまった。

 

 完璧美少女メイドさんと入れ替わりでやってくるこのロリメイドは、俺に全く近づこうともしない。


 俺は特に気にしないというか、メイドさんの自主性に任せているので、

 実際眺めているだけでも満足なのだが、

 ロリメイドは、最低限の仕事はやろうとするので、スカートから覗く太もものチラリズムや、体格にあっていない大きなたわわが揺れるのを見てお金を払いたくなる。


「ど、どうしましたか?」


 ジト目で、変人を見るような表情に変わる。

 心配しているような、そんな曖昧な声音で


「な、なんで私を見るですか?」


「ねぇ、メイドさん」


 ビクッと方を震わせてから、隙間の奥に隠れようと身をかがめるが

 大きなたわわは全く隠れていない。


 それを見てニンマリしながら


「ちょっと、こっちに来てくれる?」


「い、いやです」


 拒否されるとは思わなかった。


「じゃあ、さっき俺のパンツを被ってた写真をばらまく」


「み、見てたですか!?」


「バッチリ動画も撮った」


「ど、どうが??

 お、おおお。……男の人の匂いは、初めてだったので」


「おほぉ、そうなのか。

 野生の変態だね」


 顔は見えないが、手足がバタバタと藻掻いているので

 相当恥ずかしがっているのだろう。

 顔が見えないのが本当に悔やまれる。


「ル、ルーナは変態では、ないです」


「へぇ、メイドさん。ルーナちゃんっていうのかぁ」


「ば、バレやがったです。

 これは従属の契約をされてしまいます!!」


 興奮気味にはぁはぁと吐息が聞こえてくる。


「従属の契約? ってなに?」


「せ、説明をさせるのですか? 

 へ、変態ここに極まれリです」


「じゃあ、それを知ってるルーナちゃんって相当だよね」


「ば、バレ??

 る、ルーナは変態じゃないです。少し興味があるだけで」


「まぁ、それは置いといて」


「興味ないのです?」


「まぁ、今の俺にはルッタちゃんがいるので」


 俺を好き好きなルッタちゃん。

 そうして、日を改めて結婚の申込みをしに行くんだと。

 自分に言い聞かせてから、ロリメイドへの興味を別の場所へと移そうと努力して


「それで、俺の実験に付き合ってほしくて」


「突き合って!?」


「そんなベタな」



 結局、ルーナちゃんはしぶしぶと壁とタンスの隙間から出てきて俺の手を取った。


「これでいいですか?」


「ああ。

 とりあえず、俺の手に触れていると一緒に転移できるみたいなので

 人間でも行けるかなと」


「ひぃ。

 そんな怖いことに…………」


「まぁ、俺の感覚的に成功すると思うけど」


「そんな不確定な情報に踊らされません。

 ああ、拝啓パパ。私、ルーナは転移に失敗してミンチになります。

 掻き集めて回復魔法は効かないと思いますので、海に投げ捨ててください。

 私は、将来海竜になって、異世界の勇者を殺す使命を与えられーーーー」


「何言ってるの?

 はい! 転移!」


 バァっと、視界が暗転してから


「ぶ、ぶはぁ!?

 くっさ!!」


 日本の自室に転移した俺は、ルーナちゃんの自然に出てきたと思われる言葉の棘に突き刺さって瀕死。


 ベッドの上に二人で向かい合って座っている状態。


 目を強く閉じていたルーナちゃんが、数回パチパチと瞬きして

 ここが先程いた王城の一室出ないことを悟る。


「ゴミ捨て場?」


 周りを見渡して、

 確かに、壁際には箱から出していないフィギュアがところ狭しと並んでいるし

 床には着替えやメイド服が散乱している。

 部屋の隅にはゴミ袋がパンパンの状態で放置されている。


 何もないのがデフォルトの異世界の部屋に比べると、物が多すぎるかもしれない。


「なにをするだ!!」


「ルーナをこんなところに連れ込んで、変態するんですね!!」


 大きなたわわの前で腕をぎゅっと握ってから


「だだだ!! ちょ、そこにはあんまり触れないで!」


 壁際に下がるルーナちゃん。

 フィギュアの箱の大きさはそれぞれで

 バラバラなそれをうまく組み合わせて天井付近まで積み上げていたのだ。

 地震など下からの揺れには強いように積み上げたが、

 今のような横からの衝撃は想定されていない。


 壁だと思った箱の山に背中から突っ込んだルーナちゃんの上からフィギュアの箱が沢山雪崩れてきて


「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 未開封が潰れていく。

 美少女が美少女の下敷きに!


「きゃぁ!」


 と、小さく悲鳴を上げてからルーナちゃんは約100個の箱の中に倒れ込んで沈んだ。



「そうですか。

 そうですか。

 貴方様の家、ですか」


「そ、そうなんだ」


 肩を落として、お気に入りのアニメ「ガンメタバトル・ハイド」のプレアデスというメイドキャラフィギュアを膝に抱いて正座。


「それで?

 どうしてルーナを?」


「いや、転移できるかなぁ、って」


「はい。できました。

 すごいですね。これでいいです?」


 卓を囲んで真正面に腕を組んで怒り顔のルーナちゃん。

 本気顔で、茶化す余裕というか、雰囲気じゃなかった。


 あのあと、小柄の女の子だからといって体重が無いわけではないので

 フィギュアの箱を踏み潰しながら這い上がってきたルーナちゃんに

 俺は泣いて土下座をして


「踏めばいいの?」


 と、白ニーソで後頭部をフミフミされてから。


 箱を片付けて今に至る。


「で? これはなんですか?」


 眼の前の卓に置かれた隙間から湯気を立てているカップ。


「お詫びに、この世界のソウルフードをと思いまして」


 軽く、数十万円を使って集めた未開封がその体を成さなくなり、

 いくつかは粉砕された今、俺の精神はずたずたになっていた。


 しかし、目の前にはメイドさん。

 俺の精神はともかく、メイドさんの前で情けない姿を晒すのはプライドが許さなかった。


「確かに。見たことないですね」


 ツンツンと指先で蓋をつついて


「あっつ!?」


 と、指を咥えてペロペロと。


「3分経ったので、はい。フォークをどうぞ」


「あ、ありがとうございます」


 お礼はちゃんと言うんだなと、改めてロリメイドを観察しながら

 今は俺の視線よりも、カップラーメンの方に興味がある様で


「蓋は、こんな感じで取れるので」


 と、ジジジっと紙蓋を切り取って

 

「スープですか」


「ラーメンだね」


「ふん」


 と、フォークの握り方は知っていたようで、スープの中からうまく麺をフォークに絡ませて引き上げて、ふーふーと。


「ズズズッ。…………!?」


 数回咀嚼してから、驚愕に目を見開いてから俺を見て


「新食感」


「それは良う御座んした」


 嬉しそうに続きを食べ続ける彼女を横目に、

 破損した箱。本体。崩れたコレクションのタワーの残骸を見て

 俺は涙を堪えられなかった。


「ちゃんとした、保管をしてればよかった。

 でも、ケースは高いし。棚の中だと見えないし。

 俺は、どうすればよかったんだ」


「おかわりを所望します」


 麺だけを食べたスープの残ったカップを、勢いよく俺の方へ振り渡して

 中身のスープが俺が大事に抱えていたプレアデスにべチャリと。


「うそ、だろ!?」


 せっかく大崩落を免れたと思った矢先に。

 視界が真っ暗になって

 いつの間にか、異世界の方の俺の部屋に戻ってきていた。


「ふむ。精神的なショックも引き金になるか」


 部屋の真ん中で俺の方にカップを向けたまま停止しているルーナちゃんを見て


「へ???」


「俺が戻ると、一緒に来てた人も強制的に帰還に引っ張られる。と。

 それを知るために俺はどれだけの犠牲を払ったんだ」


 と。水分を吸ってシワシワになった箱を抱えていた俺。


「ふーん。そうなんだ」


「ひ、ひぃ!!」


 ルーナちゃんの怯え声。

 俺も声の主の方を向いてから、


「ど、どしたアテナ」


 そこにいたのは、俺もよく知っているメイドさん。


「カップラーメン、豚骨」


「ち、違うんだ。まてアテナ!

 その拳をパーにして!!」


 ドシドシとお構いなしに俺の部屋に堂々と入ってくると


「日本に帰れるんだぁ」


「あ。……えっと。

 はい」


「ふーん」


 仁王立ち。

 アテナがよく使う香水の匂い。ああ、懐かしい。

 じゃない。


「か、帰れるけど、条件があるんだ!!」


「へぇ。どんな?」


「そ、その研究をしているんだ!」


「まぁ、いいわ。

 次は混ぜなさい」


「な、う。

 うん。わ、わかったよ」


「なんか嫌そうね」


「そんなわけないじゃないかぁ」


「だよねぇ」


 ニッコリと。

 俺はその背後に悪魔が見えるが。言わないが吉。


 ルーナちゃんはタンスと壁の隙間に入り込んで、

 チビチビとラーメンのスープを飲んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る