第4話 朝食と嘲笑

 二日目。

 昨日の夜中は、別のメイドさんが俺の部屋にいて驚いたが、

 今日の朝は、金髪碧眼完璧メイドさんが俺の耳元で


「おはようございます」


 と囁いて、鳥肌と一緒に飛び起きた。


「はぅう。

 そ、そんな声を出さないでくださいぃ」


「え? 俺はどんな声を出したのか」


 俺は頭を抱えて。

 だが次の瞬間には、メイドさんが俺の着替えと思われる異世界風の衣装を手に持っていたので、別の意味で驚く。


「それは?」


「お貴族様がお好きな一点物のお召し物です」


「一点物とは、俺のために作ったの?」


「いえ。売れ残り? と言われ押しつけられたと聞いています」


「・・・。そりゃあね」


 金ピカスパンコールをたくさん散りばめた、真っ赤なバスローブのような服だ。

 誰が好んで人前に出る格好をするか。


「そ、そうですか? 旦那さまにはお似合いに思います」


「別に、着てもすぐ脱ぐからね」


 煽てられると弱い俺。

 碧眼の羨望と思われるキラキラした瞳。

 俺には眩しすぎた。


 袖を通して、メイドさんが紐を結んでくれて


「お似合いです!!」


 なんて、褒めるもんだから俺はその気になって朝食会場でバカにされた。



「勇者アガミチ殿。

 まずは、レベル上げと戦闘訓練のためにダンジョンへ行かれませんか?」


 魔術師風なローブを纏う男がメガネクイっとトシヤに詰め寄る。

 その詰められた距離分離れていくトシヤは嫌な顔を隠そうともせずに


「俺は男色じゃないから、近づかないでくれる?」


「どうしてですか?」


 と、お尻をすりすり。

 トシヤの手の甲から手を握り


 吐きそうな仕草をするトシヤは、俺たちに助けを求めるが


「また絡まれてる」


「男受けする顔だからなぁ。仕方がない」


 幼馴染組はまたかよとため息。

 そのはずで、学生時代にはたくさんの男がトシヤの後ろを狙って戦っていた。

 

 そんないかつい戦闘をする男子に、爽やかルックスのトシヤの笑顔は刺激物で。

 高校時代には、とても男らしく人間としても部活の先輩としても尊敬する。とまで言わしめたスーパー高校生がいたが、次の大会で全国優勝をしたら結婚してくれ。と迫られて身の危険を感じたトシヤはそれから二度と会ったことはないらしい。


 ちなみに、その彼は幼馴染組も知っているくらい有名で、実際にその大会では優勝したし、今やスポーツ選手で一番有名な選手として日本で知られていたりする。


「今日起きたら添い寝されていたらしい」


「それは引く」


「本気でこの国は勇者に救ってもらいたいのだろうか」


「ヒロはどう? 何かあった?」


「え? 僕?

 僕は何もないよ。ほんと、何もなかったから」


 と、遠い目のヒロ。

 そんな時は、かなりの隠し事をしていると知っている。


「メイドさんに襲われたの?」


「な、知って!?」


「墓穴」


「アテナ!?」


「異世界人との子はかなりの確率で強力なスキルを持っているらしいんだ。

 キヨくんもアテナも気をつけてね。

 特にアテナ」


「変態。信じらんない」


「アテナなんて、顔だけだろ」


「私、キヨは吐血して死んでると思ってた」


「物騒な」


「だって、メイドさんだよ?

 本物のメイドさんがたくさんいたし。私見たけど、

 キヨの部屋に入っていくメイドさん、あの金髪の子。やばいわよ」


 なんて、ヒロに耳打ちする体で聞こえるように


「そう。あの娘はやばい。

 本当に」


「だめだ。キヨはすでに犯されている」


「え?」


 冗談を間に受けて両目からハイライトがなくなり停止するアテナ。 

 アテナは俺を弟か何かと思っているらしいことは、今までで十分に理解できている。

 弟の貞操の危機があると分かれば行動を起こすに違いない。


「いや、頭がおかしいって意味だから。

 メイドさん狂いで、って意味だから」


「あー。そう」


 アテナの視線は俺の遠く後ろに控えているメイドさんに注がれて


 そのエセメイド・アテナの視線に気がついた金髪碧眼完璧メイドさんは身を縮こまらせた。


「というかね。ルッタはいいの?

 あの娘、普通にあんたのこと好きよ」


「それはお客として? ご主人様として? やっぱり、たくさんお金を落とすからかな?」


「別に、恋愛対象としてよ。

 あんたから受け取ったチップもバイト代も、結婚するために貯めてるらしいわ」


「だ、大誤爆だよこれは。

 アテナ。それはあまりにも言ってはいけないと思うんだけど」


「嘘だろ?」


 あの元気っ子メイドさんが俺のことを好きだなんて。

 全く現実味がない。


 後でどうにかして確かめてこよう。

 俺は元の世界に戻る術を持っている。


「本当よ。でも今は確かめようもないわね。

 ここであんな美人のメイドさんに手を出せば、現実に戻ってルッタじゃ物足りないわよ」


「そんなわけない! 俺は結婚してくる。

 それじゃ」


「な、何を言ってるの!?」


 席を立って部屋に戻ろうとする俺を引き止めるアテナ。

 苦笑いをするヒロは座ったままで、トシヤに限っては俺たちの方を向いていない。


「とりま、会ってくる」


 と、朝食会場から出ていく俺。と、それに続くメイドさん。


「待ちなさい! 嘘だから!!

 ほんと、嘘だからぁ!! ルッタはあんたをいい金ズルとしか思ってないからぁ!」


 もう、嘘か本当かもわからない。

 床にへたり込むアテナ。

 その手はカズキヨに伸ばされているが、もう届かない。


「え? 転移って日本に行けるの!?」


 ヒロの何気ない一言だったからか。

 それはトシヤとアテナにしか聞こえなかった。

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