初恋の女の子にフラレた俺、諦めきれず彼女を追いかけ女装して妹になり妹の高校に通う。

五十川紅

俺はわたしくとなりて、かく語りき。

「ごめんなさい。私、本間ほんま君とは付き合えない……ごめんなさい」


 あ〜、あれかな、大切な事だから二回言いましたってやつ?

 とにかく俺はあの日、中学の卒業式の日にずっと片想いしていた女子、笠原葵かさはらあおいに告白して、玉砕した。


 なんてことはない初恋の玉砕だ。飯がうめーだろ?


 元々、笠原とは進学する高校も違う所だったから、もう顔を合わせなくていい、気まずさも感じる事も無いし、この惨めな気持ちも時間や新たな高校生活が埋めてくれる……そうさ、なんなら告って無い事にしたって良いくらいだ。

 壊れた初恋なんて、うたかたの夢の如しってね。



「そう思ってたんだけどなぁ……」



 ――そう、そう思ってた。


 あぁ、その後新しい高校生活も始まって、新しい友達も沢山できたさ。……俺は陽キャって奴だからな。


 でも……、瞼を閉じれば君が居るって、こういう事なんだなってのが分かっちまった。


 クラスのアイドル的な女子を見たって、全然トキメかねぇし、校内を歩けばあっちこっちで見えるパンチラだって、俺に高揚をもたらす事は無い。

 健全な十六歳の男子が、パンチラで昂ぶらないなんてあるか? ねェよなぁ?


 ま、パンツはどーでも良いんだよ。


 とにかく、何を見ても笠原の事ばかり考えちゃう……言うなれば恋の呪いって感じ?

 そんなのに囚われちゃってて、遂には十円玉くらいのハゲまでできちゃうし、ノートにはびっしり笠原って書いてみたり、あ、あの雲、笠原に似てる〜とか言っちゃったりしてたら、気づけば、一学期の終わりと共に自主退学しちゃってたんだよね。


 いや、我ながらイカれてるとは思ってるよ?

 でもほら、『恋は盲目』なんても言うじゃん。ホントそんな感じなのよ。わかる? わかんねーだろうなぁ。この尊い感情。


 そんで、俺は考えた。三日三晩寝ずに……あぁ、嘘。ちょっとだけ寝たかな。ってそれはいいや。


 んでとにかく考えたんだよ。言っとくけど真剣に考えたんだよ? 

 俺が笠原だったらさ、一回フった男が高校中退になっちゃって、でも君と付き合いたいから付き合ってくれ。なんて言われてもそりゃ、即答でごめんなさいだと思うんだよね。


 俺って、身体も小さいし、顔も丸顔で女みてーな顔だし、ついでにいやぁ声変わりしたの? ってレベルで声高いのよね。

 フツーに、黄泉平坂よもつひらさか666とか原曲キーで歌えるもんね。これは自慢じゃないけど自慢なんだよ。


 ってそれもまぁ、どーでも良いんだよ。


 とにかく、俺は男としてのビジュアルに自信は無い訳。

 でも、双子の妹はさ……あ、俺には双子の妹がいんのよ。これがまた生意気でさ……ってそれもまぁいいや。


 とにかくその妹……のぞみは、近所どころかネットで話題になるくらいのカワイ子ちゃんなんだけど、何の偶然か笠原と同じ高校に進学したんだよね。

 んで、これは大変申し訳無いんだけど、俺がハゲ散らかしたりしてる頃、家でも結構な奇行をしてて……ま、ちょっとだけ話すと、希を笠原って呼んで、一人で付き合ってる感を出して接してたんだよね。


「お兄ちゃん、ご飯出来たよ」


「ありがとう、笠原。いつもありがとな。……今日も可愛いよ」


 って感じで、一人で笠原と同棲してるロールプレイに巻き込んでたら、希のやつ、「学校で笠原さんを見る度、キモ兄を思い出す。もう無理」とか言って、登校拒否しちゃってさ。

 いや、俺が悪いのはわかるよ? ついでにキモいのも自覚してるから、言わなくていいから。

 ってか、あの時マジ病んでたからさー。ホントに希が笠原に見えたりとかしてて……いや、クスリとかやってないって。


 んで、妹を病ませちゃってから、俺もやっと正気を取り戻したんだけど、このままだと妹まで高校中退になっちゃうじゃん……って思ったのよ。


 家族は、オヤジもお袋も俺らが中一の時に、トラックに轢かれた時に謎の光に包まれて消えちゃってからというもの、兄妹二人きりで生活してるもんだから、俺がなんとかするしかないって思うじゃん? だって長男だし?  

 あ、金はあるよ? オヤジが消える一ヶ月前、宝くじで七億円当たってたから。


 ほいで引っ張ったけど、三日三晩考えた結果が、『俺が希になる事』だ。

 俺と希は一卵性双生児で、顔も殆ど見分けがつかない。ちょっと化粧して髪ものばせば、自分達でも見分けがつかないくらいだろう。

 だから、俺が女装して希が通っていた高校に通う。

 ――コレには、メリットが二つある。

 一つ、希の出席日数なんかもちゃんと消化できて希は高校を卒業できる……筈。

 二つ、マジモンの笠原をまた間近で見られる。ヒャッハー。


 イッツパーフェクトプラーン? あ、英語は合ってるか分からん。成績表でいつも二だから。


 つまり、そういう事で俺は本間希として高校に通う事にした。……あ、希はこの事は知らないけど、メンタル復活してきたら言うつもり。多分、感謝されて泣かれちゃうかもね。


 幸い今は夏休み中で、髪ものばせるし、化粧の練習も出来る。

 それに夏休み明けなら、「来ちゃった! テヘ」とか言って、クラスにも再度馴染めるだろう。


 とりあえず脛毛から剃っておくか。俺はやれる事からやるタイプ。今日できる事は今日やるのだ。


 あと……問題は胸だな。希は高一にして相当なボインだ。

 しかし、コレは俺の悪魔的発想が、一気に解決へと導いた。

 我が街名物、デカメロンパンを胸に二つ仕込み、ブラを装備すると、我が妹のボインは完全に再現する事が出来た。腹減ったら食えるし、いきなり異世界転移とかしてもバッチリだね。



 ――俺は夏休みの一ヶ月間の間、化粧をしたり、女子の流行りをリサーチしたり、希の制服を着て街を練り歩いてみたり、山で滝に打たれたりと様々な修行を行い、完璧に妹以上の女子校生になる事が出来るようになった。

 

 そして、俺が希としての初登校の日……。

 事前に下見をしておいた為、高校までの道程は迷わなかったのだが……。


「やっべぇ……希って、どこのクラスなんだ……?」


 ついでに言えば、学校の中も分からん……教師や教室も知らんし、コレいきなりチェックメイトじゃん……。


「あれ……? 本間さん?」


 正面から掛けられた声は、女らしく丸みがあって、そう……例えるなら、アレだ、バニラアイス! バニラアイスみたいな声で……俺がずっと想ってきた女の声。

 そう、俺に声を掛けてきたのは笠原葵その人であった。

 俺はテンパって、両腕で胸を挟むようにして、


「お、おいっす〜」


 ……やっちまった。


「なにそれ、……ふふ、変なの。具合はもういいの?」


「う、うん……ちょっとお腹減って、腐ったゆで卵十個食べたら、危うくあの世に行きかけてさ〜。マジ焦ったよ〜」


 ひいぃぃ、何言っちゃってんの俺ェェェ!!


「あはは、大変だったね。……とりあえず教室行こっか?」


 いーや、信じるんかーい! と心の中でツッコミをいれたが……それよりも笠原と希は同じクラスだったのか。

 コレは貴重……もとい最高の情報だ。

 つーか、おひさしブリーフの笠原が天使過ぎて、俺の思考回路死んどる……あぁ、アタマお花畑ってこういう事? 

 しかし、問題はそこでは無い。学校の中の事や、希の友達の事なんかの情報は皆無だ。

 どうする……どうすればいい……。高速で思考を巡らせる俺に、全知全能唯一絶対神からお告げが下った。……クク。なるほど……そいつぁパーフェクトだ。


「実は、腐ったゆで卵食った時に、記憶の一部がぶっ飛んじゃって……高校に入ってからの事が思い出せないんだよね」


 ハーッ! パーフェクト!


「そんな事あるんだ……私も腐ったゆで卵は食べないようにするね。

 じゃあ、私が色々教えてあげるよ。……ていうか私の事は覚えてる?」


 俺が笠原の事を忘れた事など片時も無い!


「勿論覚えてるよ! 笠原葵、十六歳、性別女、好きな食べ物鮭フレーク、嫌いな食べ物コオロギ煎餅、身長……」


「わー! め、めっちゃ覚えてるじゃん……てかそんなに詳しかったっけ……? まぁいいや、教室行こっか」


 ブリリアントォ! 次いでに天使を教師にゲットだぜ。


 笠原の隣で歩きながら教室までの道程を教えてもらう。

 外国人の生徒が多いからなのか、下駄箱とかは無く、下足のまま校内に入っていくスタイルだ……なんだかちょっと悪い事している気分で落ち着かないね。

 途中、購買や自販機の位置なども確認しながらもチラチラと俺は笠原の横顔をなめ回す様にチラ見する。


 (やっぱり可愛いな……)


「あのさ……笠原さんは、彼氏とかいるの?」


 んひぃぃぃ、聞いちゃったよ!


「えぇ? 彼氏? 居ないよ〜」


 はにかみながら指で頬をポリポリ掻いて笠原は言う。


 はああああん! ヨッシャ! こっからもってくで!


「……私は、彼氏とかは、いらないかな」


「はああああん! なんで!? どして!?」


「ひっ!? 本間さん!? 怖いよ!?」


 やべぇ! 精神世界と現実世界が融合しちまった!


「ご、ごめん……」


「びっくりしたよ〜。……っとココが私達の教室だよ。本間さんの席はあそこ」


 笠原は、窓際の一番後ろを指でさすと「じゃ、また後でね」と言って自分の席に座った。

 笠原の席は私の席から、右に二人のゴミの様な男を挟んだ所だった。


「ベルリンの壁かね……」


 俺と笠原の間の二人を睨めつけながら吐き捨てる。


 ……しかし、彼氏が要らないってどういう事だ? 中学の時も、誰とも付き合ったりはしていなかったし、高校にも上がれば、普通、男は鼻息と性欲が荒くなるし、女は周りへの優越感からか男を求める……つまりはウィンウィンなのだ。

 俺のダチとかは、チューしたい! おっぱい! おっぱいおっぱい! 嗚呼おっぱい! って感じで節操なく彼女を作ろうとしていたし。


 ま、その点俺は純愛だがな。俺と笠原の愛は連中のような、下品で下劣なものと違い、高潔で無垢なものだ。

 それ故に報われなければならない、報われるべきなのだ。


「本間〜。久しぶりだな」


 俺が思考に耽っていると、ベルリンの壁一号が話しかけてきた。……チっ、気安いぞ。


「あ〜と、お前誰だっけ?」


「はぁ? 忘れちゃったの? 田中だよ田中。田中アルフォンス」


 マジでベルリン出身みてーな名前だな。


「腐ったゆで卵食ったら記憶ぶっ飛んじゃってよ。ワリーな。アルフォンスな覚えた覚えた」


「お前そんなオラついた感じだったっけ……? まぁいいけどよ」


 あ、やべ。女言葉使うの忘れてたわ。……まぁいっか。


「お前相変わらず、本間さん好きだね〜」


「ウッセ」


 ベルリンの壁二号が、アルフォンスをイジっている。


「俺の事も覚えてない?」


 二号が俺に聞いてくる。……っとちょっとイケメンだなこいつ。笠原の隣だし要注意だな。


「ワリーけど、高校入ってからの事忘れちまってんのよね」


「記憶喪失ってやつ? ホントに実在するんだね……」


 しねーよこのイケメン野郎! と言いたいが我慢だ。俺は淑女。


「俺は、田中バルタザール。アルフォンスの双子の兄だよ。宜しくね」


「いーや、マジでベルリンのカベぇぇ〜!」


 やべ! つい勢いでツッコんでしまった。


「アハハ、なんか夏休み明けたら面白くなったね。本間さん」


 バルタザールは爽やかスマイルで受け入れているが、他のクラスメイトは奇異の視線を送ってきている。

 ま、そうだよな。普通アルフォンスとバルタザールなんて名前のやつクラスにはいねーよ。


「お前ら席に戻れ〜。朝のホームルーム始めっぞ……っと、本間。来たのか〜!」


 あのハゲ茶瓶がこのクラスの教師か。


「おいっす〜」


 俺は手を挙げて応えると、少しいぶかしむ様な目で見てくるが、「お、おぉ、元気そうだな……」と言って、中身の無い話を始めた。


 とりあえず、俺の女装は完璧だ。笠原もベルリンの壁兄弟もハゲ茶瓶も全く違和感を持たずに、俺を希だと思っている。

 ……自分の才能が怖くなるな。将来は俳優でも目指すとしようかね。


 その後、授業は真面目に聞き続け、移動教室は笠原が面倒を見てくれながら問題なく移動し、なんやかんやで昼休みになった。


「なーなー。本間! 一緒飯食わねー?」


「あ、ちょっと男子〜! 本間さんは私達が誘おうとしてたんだから控えなさいよ!」


「ちょっと待てって、本間も困ってんだろ」


「「うるせーよ田中」」


 よく分からんが、俺は昼休みになる頃には何故か人気者になっていた。

 まぁ俺は陽キャだからな。希はいつも少し遠慮がちなところがあって損をしている時もあるから、そういうイメージを俺が払拭してやろう。

 なんたって長男だからな。


「すみませんが、わたくし、笠原さんとランチをしたいと思っていましたの。ごめんあそばせ」


 俺は優雅で見る者を魅了する、完璧なカーテシーを決めると、笠原を誘い購買に向かう。


「本間さん、凄い人気だね。一学期の頃は大人しいイメージだったのに」


「え? アハハ、なーんかサグラダファミリア見たら人生観変わっちゃって……」


 俺と笠原はサンドイッチとジュースを買い、屋上に出ると、並んで座った。


「気持ちいいね〜」


 夏のわりに今日は涼しく、頬を薙ぐ風が心地良い。

 風上に座った笠原の方から漂う、シャンプーと笠原自身の匂いが混じったなんとも言えない匂いをクンクンしていると、アドレナリンが出すぎて耳から変な汁が出だした。


「食べよっか」


 笠原はおしぼりで手を拭きサンドイッチをその小さい口でハムハムと食べ出した。笠原に習い、俺はおしぼりで手と耳を拭くと、サンドイッチをがっつく。


「お、結構うめーな」


「アハハ、美味しいよね。……なんかその口調も慣れてきたら面白いね」


 笠原は俺の方を見ながら微笑んだ。


「本間さん、ほっぺたにタマゴついてるよ」


 笠原は俺の頬を指でなぞり、付着していたタマゴを掬うと、あろう事かぺろりと舐めた。


 ハアアッ! なにこれ、間接タマゴ!? 


「んま」


 はぃぃ! 決定〜! 俺の事好きぃ〜!!


「お、こんなとこにいたのか」


 俺と笠原がイチャコラしていると、アルフォンスとバルタザールが寄ってきた。


「寄ってくんな! シッシッ!」


「まぁいーじゃない、一緒に食べようよ」


 俺がベルリンブラザーズに嫌な顔をして手を払うと、イケメンバルタザールがめげずに寄ってきて、隣に腰掛けた。アルフォンスもモジモジしながら、その横に座る。


「本間、お前なんかはっちゃけたな……なんつーかその……良いと思うぜ」


 アルフォンスは顔を赤くしながらそんな事を言ってくる。


「あぁ? まさかお前、俺に惚れたんじゃねーだろうな」


「な、何言ってんだよお前! んな訳……ねーにきまってんだろ……」


 俺がイジるとアルフォンスは否定しながらも後半は聞き取れないような呟きになっていった。

 ハッ! モテ期到来ってか? だが、オメーにモテてもしかたねーんだよな。俺は笠原一筋だからよ。ワリーな。


「本間さん、流石に俺って……一応女子なんだからさ」


 苦笑いしながらイケメンバルタザールが俺に言ってくるが、


「別に俺がそれで良けりゃそれで良いんだよ。個性ってそういうもんだろ」


「そうか……そうだね。……その通りだ」


 俺の持論を言えば、バルタザールも引き下がった。


「本間さん、すごいね。もっと儚い感じの、深窓の令嬢って感じだと思ってたけど」


「そ、そんなこと無いよ……」


 笠原に言われれば、俺も引っ込んでしまう。このボケ共相手の時と違って口が回らない。……まぁしょーがねーよな。愛してるんだし。


 そうこうしていると、午後の予鈴が鳴った。


「じゃ、午後からも頑張ろっか」


 笠原が立ち上がって背伸びをすると、俺達も立ち上がってあとに続く。

 中々楽しいじゃねーか。希の学校も。


 そんな感じで、なんとなくこの四人でつるむ様になり、休みの日に近くのデパートに出掛けたり、花火を見に行ったり、……びっくりしたのは、アルフォンスに告られたりした事だな。……ま、断ったけど。

 そんな感じで色々な事をして、楽しい日々は目まぐるしく過ぎ去っていった。


 季節も変わり、秋も深めいた頃になった。

 

 ある日、笠原から電話が来た。


「あのね……本間さんに、話したいことがあるんだけど、今から会えないかな」


 俺は了承の意を示し、近くの公園で待ち合わせる事になった。

 俺が先に着き、ベンチに座って待っていると、


「おまたせ……」


 笠原がやって来て、俺の隣に座った。


「ううん、今来たとこ」


 俺はニッと笑うと、笠原も薄く微笑む。


 しかし、なんとなく空気が重い。……まさか、俺の女装がついにバレたのか? やべぇ、冷や汗出てきた。


「あれ? 暑い? すごい汗かいてるけど、大丈夫?」


「う、うん……ここに来るまで六十キロくらい全力疾走してたから、汗かいちゃってさ〜アハハ」


「六十キロとか、流石だね……」


 笠原は、若干引き気味に笑うと、視線を自らの膝に落とした。

 

「あのね……。私、本間さんに謝らなければいけない事があるんだ」


「え……?」


 なんだ? 笠原が俺に謝る? 


「あのね……実は……ずっと誰にも秘密にしてたんだけど、こんなに仲良くなった人が出来たの初めてだし、ずっと嘘ついてるみたいで苦しくて……」


「う、うん……大丈夫だよ。ゆっくりでいいよ」


 俺は紳士らしく笠原を気遣う。


「あのね……実は」


「うん」


!」


「うん」


 ――うん? へ? は? ほ?


「男?」


 俺が聞き返せば、笠原は頷きながら繰り返す。


「男……」


 はい? ぱぴぷぺぽ。


「実は、ちっちゃい頃女装したら、思いの外ハマっちゃって、それからずっと女装して学校に通ってたんだ。男子に告白されたりとかもしたけど、さすがに受け入れる訳にもいかないし……でも、段々自分が男なのか女なのか分かんなくなってきて、なんかもう内面的には女っていうか……。

 あ、先生達は知ってるんだよ? 多様性の容認化された時代だからって。トイレとかも職員用使わせてもらったり、身体測定とかも個別に呼んでもらったりとかしてもらってるし……」


 ――その後も笠原の独白は続いた。

 俺も笠原の方を見れなかったが、笠原も俺を見れていなかったと思う。


「……ごめんね? 気持ち悪いよね……こんな私なんて」


 気持ち悪い? 気持ち悪い事なんてないさ。それを言ったら俺の方が一万倍は気持ち悪いだろう。


 確かにショックはショックだよ? でも……そんな事じゃない。そんな事じゃないんだよ。


 俺が好きになったのは、『笠原』だ。そうだよ、男だからとか女だからとかじゃなく、『笠原』が好きなんだ。

 そうだよ。俺はいつだって笠原が好きだった。その気持ちは今更変わるものでもなんでもない。

 男だろうが、男の娘だろうがなんだって言うんだ。『笠原』である事に変わりはない。……それなら、答えは一つだろ?


「気持ち悪いなんて言わなくていい。それも含めて笠原なんだ。

 俺の、俺が好きな笠原は男だとか、女だとかじゃない。……誰でもない、今のお前自身だ」


 俺の言葉を聞いた笠原が、瞳を大きく見開いた。


「ありがとう……。ありがとう、洋平ようへい君……」


 いいってことよ……ん? 今、笠原は名前で呼んだような……。


「ようへい……?」


「……フフ。バレてないと思ってた? 夏休み明けに会ったときから気付いたよ。……でも、何か事情があるのかなって思って、気付かないふりしてたんだ」


 うそ……だろ……。


「ハハ……そっか……それこそ、俺こそ気持ち悪いだろ? 言っちゃなんだけど中々変態度たけーと思うぜ。我ながら」


 自嘲気味に口から出た言葉は、俺の本心でもある。


「変態でも……それも含めてだよ。こんな私でも、まるごと認めてくれた貴方だから……だから、そんなの関係無く、私は貴方が好きです」


「えっ?」


「えっ?」


 俺達は今度こそ顔を合わせて笑った。喉が枯れ、涙がデカメロンパンを濡らすくらいに。笑い泣きした。


 少しして、俺達の情緒が落ち着いて、

「――とりあえず、この事は二人の秘密だよ?」


「だな。流石に誰かに言う気はしねぇや」


 身体は男、見た目は女、内面的には男と女? まぁよく分かんねーけど、俺の初恋は成就した。


 初恋淡く切ないもの。なんて言うけど、俺のこれは、チャーシュー背脂マッシマシのギトギトの初恋だ。

 でもなんだろうと、誰が何を言おうと俺はこれからもこの想いを大切にしていこうと思う。


「――だって、愛ってそういうもんだろ?」


「誰に言ってるの?」


 きょとんとした顔で隣の笠原が、のぞき込んでくる。


「ハッ、誰でもねぇ……俺自身への言葉だ」

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