第6話 3人の運命

親父は温厚で怒ることもほとんどない人間だ。


「そうか。わかった。」


何を言ってもそう一言だけ返事をする。

そしてどんな時でも冷静で落ち着いている。

昨日愛美が拐われた時でもそうだった。

俺が焦ったり困ったときも口数は少ないがしっかりと支えてくれる。

一緒に遊んだり出かけたりすることもほとんどなかったが、俺は親父のことが好きだったし尊敬もしていた。


でも、別の世界のことや異能(脳)の事。そして親父自身が異能(脳)者であるということ。

俺には何一つ話してくれることはなかった。

毎日顔を合わせていたのに。

親父が異能(脳)者って・・・なんで何も話してくれなかったんだ・・・・



「おじさまは16歳の時に別の世界へ干渉する異能(脳)に目覚めたと言っていたわ。最初のうちは別の世界の音や景色が見えるぐらいだった力も、次第に強くなって別の世界の物を触れることができるぐらいになったらしいわ。

でも、大輝くんのお母さんが亡くなってすぐぐらいのころかしら、おじさまは別の世界へと移動することが出来る様になったらしいの。そしてそこで私たちの世界が他世界と衝突して消滅する危機に瀕していることを知ったそうよ。」


「じゃあそれまでは別の世界のことも何も知らなかったの?」


珍しく静かに聞いていた信が七海さんにそう問いかけた。


「いいえ、別の世界のことや異能(脳)のことは昔から分かっていたことよ。

そして私たちの世界が何らかの脅威に晒されることも。

でも、それが別の世界と衝突して消滅するという事まではわからなかった。

まさか世界そのもののがなくなる様なことが起こるなんて誰も予想すらしていなかったわ。

そしておじさまはその危険がそう遠くないうちに起こる事、そしてそれにあなたたち3人が大きく関わるだろうって言ってたわ。

特に愛美ちゃん、そして大輝くんは異能(脳)に目覚めてその出来事に深く関わるだろうって。」


「俺が異能(脳)の能力に目覚める!?俺たち3人が関わるって!?どういう事なんです!?」


俺は七海さんに問い詰めた。


「大輝くんと愛美ちゃんは今日の誕生日で15歳になったわよね。

実は異能(脳)の能力は15歳〜18歳の間で目覚めて発現するそうよ。

異能(脳)っていう能力は脳の中の通常は発達しない細胞同士が、脳の中に新しいシナプスネットワークを作ることで目覚める力だそうよ。私もそんなに詳しいわけじゃないけど、そのネットワークが形成されて機能するの15年ぐらいかかるらしいわ。だから、愛美ちゃんと大輝くんはいつ異能(脳)の能力が発現してもおかしくない状況ってことね。」


「七海さん・・・話の内容的に僕はその異能(脳)みたいな力はないってこと?」


信が七海さんに尋ねた。

確かに七海さんの話だと、俺と愛美は異能(脳)の能力が目覚めるって話だけど、信に関しては何も言っていない。


「そうね。信くんには異能(脳)の力はないでしょうね。でも、あなたたち3人が世界の危機に関わるのは間違いわ。

大輝くん、小さい時に月の出てくる昔話か何か聞いてない?」


「月・・・・あっ!それって子供の時に母さんが話してくれた話しだ!」


そう、俺には心あたりがあった。まだ俺が小さい頃に母さんがいつも話してくれていた話だ。


「それって大輝くんの家に昔からずっと残ってる碑文を基に作られた話で、世界の危機を予言した話なの。

碑文には最後どうなるかまでは書かれていないけれど、黒い月がもたらす世界の危機に4人が立ち向かうことまでがはっきりと書かれているの。

そしてその4人のうち3人があなたたちだとおじさまは信じているの。」


「でもなんでその4人のうち3人が僕たちだってわかるんです?人数も合わないし何か根拠があるんですか?」


「確かになんで大輝のお父さんは私たち3人がって思ったんだろう・・・・」


信と愛美の疑問は当然だと思う。


「私もその根拠や確信はわからないわ。でも私はおじさまを信じている。

それに本当におじさまのいう通りならしっかり対応していれば世界を救えるかもしれないじゃない!何もしないよりそっちの方がいいと思わない!!」


七海さんはそういうと立ち上がった。


「ということで、今から3人には私と一緒に来てもらうわ!!」


『えっ!?』


俺たち3人の声がはもった。


「だってこれから世界を救うかもしれない大仕事が待ってるかもしれないのよ!ぐずぐずしてられないわよ!」

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異能(脳) らっと @tarmomo

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