第10話 帰宅

 その日も、父の葬儀火葬を行った日のように空の高い晴天だった。祖母はほぼ天寿を全うしたというぐらいの97歳で亡くなった。

 近い親族だけの小さな葬儀を終えた私と叔母は、祖母の家へと戻った。


「ばあちゃんは、父さんと違ってちゃんと生命保険にも入ってくれてたから助かったわ」

「本当だよー。あんたの父さんが亡くなった時、結構かかったもんねぇ」

「ホント、ホント。一気に貯金なくなったわ。結局相続放棄も自分でやったけど、裁判所へ出すもののお金とかもかかって40万だよ、払ったの」

「未来はそんなこと言うけど、その後お寺さんに埋葬してもらうのと戒名と位牌でばあちゃん100万ぐらい払ったって言ってたよ」

「うわぁ。ホントに親不孝に子不幸者だし」

「まぁ、それね」


 掃除をしがてら、数年前に済ませた父の話で盛り上がっていた。

 そんな私の視界に、ふいに外の人影に気づく。祖母の家は元々商売をしていて、一階ガラス張りのショーウインドウのようになっている。

 掃除のためにシャッターを開けたため、そこから外が見えるのだ。


「え?」


 店の前にはいつも商売をしていた若い頃の祖母が、割烹着に身を包み立っていた。そして祖母は小学生ぐらいの小さな野球帽をかぶった少年の手を握っている。


「ばあちゃん……」


 時が止まり、音も止まる。

 起きているのに金縛りにあったかのように、私は動けない。

 ほんの数秒。

 おばあちゃんはその男の子の手を引き、中に入ってきた。下を向いたままのその少年が、一度だけチラリと私に視線を向ける。

 どこか見覚えのある顔。やや不満げにふて腐れながらも、少年は祖母の手をしっかり握っていた。


「やっと帰ってきたの……」

「未来?」


 声が出ると同時に、私は叔母に声をかけられ振り返った。時計の音、風の音。全てが元のように聞こえる。


「今、今ばあちゃんが……」


 ショーウインドウはしっかりと閉まっていた。もちろん祖母たちの姿もない。


「あんた大丈夫?」

「今、ばあちゃんが父さん連れて帰ってきてたわ。父さん、随分とふて腐れた顔してた」

「なにそれ。怖いわね」

「そう? 父さんとばあちゃんなんだから、別にいいんじゃない?」

「あんた、ホント昔からテキトーだね」

「あはははは。まあね。それがとりえだもん」


 私は店に出ると、ショーウインドウのドアを開けた。さわやかな風が中まで入ってくる。あれからも父はこの家に帰って来ないのに業を煮やして、祖母が迎えに行ったのだろう。勘当されたとはいえ、死んでからも帰りたがらないとは、ある意味頑固というか何というか……。


「骨の量、やっぱり関係ないし」

「は?」


 ぽかんと口を開け、私の発言に驚く叔母を見ながら私は笑い出す。

 父が帰ってきたことで、それよりも父の顔を少しでも見れたことで、心の中に残っていたわだかまりが風と共に飛んで行ったような気がした。


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孤独死~引き取り料金、ハウマッチ~ 美杉。節約令嬢、書籍化進行中 @yy_misugi

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