頭の上がらない妹に催眠アプリを使ってみた
どくどく
頭の上がらない妹に催眠アプリを使ってみた
『このアプリを使えば、対象の常識を改変することができます』
それはネットでたまたま流れてきたメールから始まった。
どこにでもありそうなジョークアプリだ。対象に向けて画面を見せて命令すれば、相手の常識を狂わせて自分のいいように扱うことができる。そんな『あるわけねーよ、そんな
それをダウンロードしてしまうのは、なんというか男のサガだ。ありえないと分かっていてももしかしたら本当かもしれない。一縷の希望を持ってしまうのはやはりお年ごろと言うか理性が欲望に負けたというか。本当にそういう理由だ。
んでもって、それを使っていろんな女性にアレコレしたいと思うのも男のサガだ。なにせお年ごろの男子。そういう妄想を抱くことにかけては日常茶飯事。男子同士の会話のネタに欠かせないことだ。それを止めることなど誰にもできない。
言うまでもなく、こんなものが効くわけがないということはわかっている。分かってはいるが、興味がないかと言われるとそうでもない。聖人君子じゃないのだから、こういうアプリを見てもしこれがホンモノだったらという期待がゼロなわけがない。
『このアプリを使えば、対象の常識を改変することができます。
★使い方☆
1:アプリを起動して、対象に画面を見せ、音楽を聞かせます。
2:そのまま相手に指示を出します。
注意!
動画と音楽の両方を相手に流してください。片方だけだと、効果は薄いです』
試しにアプリを起動してみたが、幾何学的な図形がぐるぐるぐるぐる回って変形して、ほわわわわぁんと言う感じの音が不規則にスピーカーから流れると言った感じだ。動画を作ってる人なら、すぐに作れそうなちゃちい出来栄え。
「なんだかなぁ」
効くわけがない。効くわけがない。そんなことを思いながらも、でもエロい妄想は止まらなかったりする。もしこれが本物なら。生徒会長の一ノ瀬さんや、同じクラスの十塚さんや、数学担当の百地先生。そういう憧れのあの女性を好き放題できるのだ。あの、カラダを……。
「……まあ、効くわけないけど」
効くわけない。効くわけない。そんなことを思いながら起き上がる。こんなものが効くわけないと思いながら、それでも一縷の望みを持ってしまうのは男のサガ。効くかどうかを試すぐらいはいいじゃないか。
かといっていきなり一ノ瀬さんに向けてこのアプリを使うわけにはいかない。アプリを見せて『ただの冗談でした』と言うことになれば、良くていい笑いもの。下手すると大問題だ。できれば学校外で試したい。
なので最初の対象は妹にすることにした。一つ下の妹。昔は後ろをついてきていた妹も、年をとればそれなりに兄離れする。そして家事を中心にこちらにマウントをとるようになり、今では家でのヒエラルキーは逆転状態。
そんな状況に腹が立ったわけではない。むしろよく家の事をやってくれると尊敬している。でもちょっとあの態度はいただけないんじゃないかな、って思うことは少しある。いやだって、男の威厳と言うか。一緒に過ごしているんだからもう少し手加減をとか。そんな程度の不満は抱いても仕方ない。
「何、お兄ちゃん?」
妹の部屋をノックし、許可をもらってから扉を開ける。勉強中だったのか、閉じたノートと筆記用具。それを邪魔されて不満げな顔でこちらを見ていた。
「ちょっとこれ見てくれるか?」
できるだけ自然を装いながら画面をタップしてアプリを起動。その後で妹に画面を見せた。それをじっと見る妹。その顔が少しずつ不機嫌になっていく。
「お兄ちゃん、なにこれ?」
「いや、その、変な気分になったりしないか? 例えば俺の言うことを聞きたくなったとか。俺の事を好きになってきたとか」
「なにそれ」
「あー、うん。忘れてくれ」
やっぱり効果はない。むしろ不機嫌ゲージがたまっていくのが分かる。爆発する前に撤退しようとしたが、その前に腕をつかまれる。
「正座」
「いやあの」
「正座」
「はい」
妹の圧力に耐えきれず、正座する。妹も正面に正座した。
「さっきの何?」
「あー、いや、きれいかなって思って」
「答えて。さっきのは何?」
「……さ、催眠アプリ」
妹の圧力に耐えきれず、吐露する。催眠アプリの内容を説明させられ、妹の不機嫌ゲージがさらに上昇するのが分かる。
「つまり、お兄ちゃんは妹に催眠アプリを使ってみようとしたのね」
「いろいろすみませんでした」
妹の圧力に耐えきれず、土下座する。強制されたわけではないが、いろいろ培われた何かが体を自然と動かしていた。
「顔上げて」
「はい」
「これ、ほかの人に使った?」
「いいえ」
「もしこれがホンモノだったら、私に何してほしいっていうつもりだったの?」
「いや、その。あくまでアプリが効くかどうかを試そうとしただけで」
うん。そうだ。聞くかどうかを試したかっただけだ。けして妹に対して何かしようとしたわけじゃないぞ。やましい事なんて何一つない――
「本当に?」
「本当だ」
「お兄ちゃんが毎週見ている『イタズラ♡クインテット』の
「なんでオマエ俺が毎週それ見てるの知ってるの!? なんでマヒロちゃんお気に入りなの知ってるの!?」
「答えは?」
「そういう気持ちがあったのは確かです」
妹の圧力に耐えきれず、暴露する。うううううう、そりゃ仮に催眠が効いたらそういうことをしたいと思うのは男のサガじゃないか。
「それだけ?」
「ノーコメントだ」
「お兄ちゃんがこっそり検索してフィルタリングで阻まれているワードのようなことを命令したいとか思わなかったの?」
「やめて! もう俺のライフはゼロよ!」
「答えは?」
「はい。できるならそれも考えてました」
妹の圧力に耐えきれず、涙する。いやだって、その、男の子なんだから仕方ないでしょう!
「あとあまり考えたくないけど、私に効いたら他のヒトにも使う予定だったの?」
「……その、はい。いろいろと」
「誰に?」
「……生徒会長の一ノ瀬さんとか、同じクラスの十塚さんとか、数学担当の百地先生に」
「…………さいてー」
妹の不機嫌ゲージがマックスに達したのを感じる。仕方ないんだよ、だって一ノ瀬さんは清楚でボンッキュッボンッッで、十塚さんは健康的スレンダーで、百地先生は大人の魅力で!
「アプリ消して」
「はい」
妹の圧力に耐えきれず、アプリを削除する。妹の命令に逆う意志は全くない。
「もうこんなこと二度としないって誓って」
「はい」
妹の圧力に耐えきれず、頷く。二度としません。妹の命令に逆らう意志は全くない。
「さっきの三人にそういうことを考えないって誓って」
「はい」
妹の圧力に耐えきれず、頷く。三人の体に対してエロいことを想像しないようになる。妹の命令に逆らう意志は全くない。
「妹キャラを好きになって」
「はい」
妹の圧力に耐えきれず、頷く。妹の命令に逆らう意志は全くない。妹キャラ大好き妹キャラ大好き妹キャラ大好き妹キャラ大好き妹キャラ大好き妹キャラ大好き妹キャラ大好き妹キャラ大好き妹キャラ大好き妹キャラ大好き妹キャラ大好き妹キャラ大好き妹キャラ大好き妹キャラ大好き妹キャラ大好き妹キャラ大好き妹キャラ大好き妹キャラ大好き妹キャラ大好き妹キャラ大好き妹キャラ大好き妹キャラ大好き――
※ ※ ※
お兄ちゃんを返した後、私はため息をついた。まさかあんなことをするなんて。
あんなの効くわけないじゃないの。だってそんなことされなくてもお兄ちゃんの事が好きなんだから。命令されたら、アプリなんてなくてもなんでも聞いてあげるのに。意気地なし。でもそんなところが大好き。
でも他の女の人の事を考えていたのは許せない。しっかり命令して忘れさせることができたのはよかった。
「そろそろ寝たかな」
夜お兄ちゃんが寝たのを見計らって、いつものようにお兄ちゃんの部屋に忍び込んで、アプリを起動する。
さっきお兄ちゃんが使ったのと同じアプリを。
「お兄ちゃんは妹の言うことに逆らえなくなる」
これを使って、今日もお兄ちゃんの常識を崩していかなくちゃ。何年もかけてしっかりしっかりしっかりしっかり刷り込んで、ようやくお兄ちゃんが私に逆らえないようになってきた。
「お兄ちゃんは妹をめちゃくちゃにしたくなる。いつもの復讐とばかりに縛ってその後で体中をめちゃくちゃにして、いろんな道具を使ってイジメて、でも最後には優しくしてくれて。その後でさらに――」
妹キャラ好きも倒錯的な性癖もようやく植え付けられた。私がお兄ちゃんにそうされたい願望。いつかお兄ちゃんからそうしてくれるように、お兄ちゃんに催眠を施してきたのだ。ずっとずっとずっとずっとずっと! 今日来たのはようやくそうしてくれるからだって思ってたのにぃ!
「お兄ちゃんは妹が好きになる」
催眠で自我をなくすなんてヤダ。お兄ちゃんはお兄ちゃんのまま私を好きになってほしい。お兄ちゃんが大好きだから、少しずつ少しずつ常識を崩していかなくちゃ。お兄ちゃんが私を好きになるのが常識だって、心の底からそう思えるように。
大好きだよ。待ってるからね、お兄ちゃん。
頭の上がらない妹に催眠アプリを使ってみた どくどく @dokudoku
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