第6話

「その進軍待ったあ!!」

 アルクはミッキュの背に乗り先回りして行く手を遮った。


「これは兄上。地下暮らしはもうよろしいので」

 戦装束の弟は大臣らとともに嫌味な顔を向けて、微笑んだ。


「あぁ、おかげさまで、大満足だガッハッハッ!」


 第2王子はその奇妙な笑い声に少したじろぐも、近くの兵士に命令をくだした。


「そうですか。やれ!」


「で、ですが!」


「奴は反逆者です。それとも、あなた方が牢屋に入りますか?」


「は、はい!!」


 兵士たちが一斉に剣を振りかざし、こちらに向かってくる。杖を抜き、さきほど、さちよから教わった魔法を使う。


「生い茂る木々よ。我が呼び掛けに答え、敵を拘束せよ。樹木牢《グリーンロック》」


 兵士らの足元からつるが伸び、彼らを絡みとっていく。大臣や弟諸共、我が国の兵士らを宙につるし上げる。


「は?」


 呆然とする弟に杖を向ける。


「我が国は、隣国を救援する!!良いな!!」


 動揺が兵たちに伝わる中、ただ1人弟だけが、もがいていた。


「何をしている!兵共!早くやつを!拘束せよ!」


 そんな彼を近くにいた将軍が首を振って諌める。


「弟君。今回はこちらの負けです。今のアルク様はこちらを殺そうと思えば簡単に殺せるほどのお力があります。この短期間にどうやったのか」


 その問いに答える。豪快な彼女の事を思い出しながら。


「牢屋に魔女がいたのさ。赤髪の魔女が」





「お、帰ってきたか。ミッキュ」


 森を抜ける小道の先に、赤髪の魔女がいた。緑の大鹿。いまは一回り小さくなった鹿が駆け寄る。


「よかったのですか?サチヨ?あの若造、あなたに恋したかもしれませんよ」


「んー」


 何やら歯切れが悪い。


「?珍しいですね。しばらく居候して、食っちゃ寝して、飽きたら国を出ると思ったのに」


「はじめはそのつもりだったんだがな。なんというか。」


 彼女は山高帽子を深く被り、表情を隠した。


「ミッキュを助けようとする姿がすこし、ほんの少しだけ、その、かっこよくてよ」


 もごもごと喋る相棒に驚き、声をかける。


「まさか、恥ずかしいから出てきたとかですか?天下のさちよさんがですか?!」


 天下の大魔道士が耳まで真っ赤にして叫ぶ。


「う、うるせい!ガッハッハッ!なんか体が暑いなぁ、今度は涼しい北の方に行くか!な、ミッキュ!ガッハッハッ!!」


 豪快な笑い声が森に響く。彼女の悩み事が解決するのは、もうしばらく先のようだ。

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超絶最強!豪快無敵!赫の魔導士さちよさんの最弱すぎる悩みごと[カクヨムWeb小説短編賞2021参加作品] お花畑ラブ子 @sonic0227

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