第19話 テレパシー

「あ、山本さんですね。診察室に入ってください。先生はお待ちですよ。」

・・もう、予約を入れて置いて何を遅刻してるんだよ!・・

・・先生は5分も待っているのに・・


「先生、山本さんが来られました。」

・・早く入れよ、もう!・・



「どうぞお掛けになって下さい。で、どのような・・ああそうか、人の声が聞こえるんですね・・。どんな声が聞こえるんですか?」



「話している相手とか・・近くに居る人の声です。いや、話している内容では無くて、言わないで思っていることが聞こえるんですよ。これってテレパシーなんでしょうか?」


「うーん・・どんな時に聞こえるんですか?」

・・テレパス??・・

・・SF小説かよ!・・

・・しかも古いネタだ・・


「今も聞こえるんですよ。先生は今・・テレパスってSF小説かよ!しかも古いネタだ。と思われましたよね。」


「私は統合失調症からくる幻聴なのかと思いましたが。いやいや SF小説って、ちょっとは思ったかな(笑)。テレパスは古いネタですよ。普通はそう思います。・・で、いつからなんですか?」


「先週、電車に乗っていた時からなんです。私は吊革につかまって立っていたんですよ。そうしたら私の前に座っていた、10才位の少年が私の方をまじまじと見たんですよ。その時、彼の心が聞こえたんです。・・チビだなあ・・J喜多川みたいな顔をしている・・キモイんだよ!って。はっきり聞こえたんですよ。」


「喜多川ですか。タイムリーな話ですからね・・あなたがそう思っただけじゃあ無いのですか?ああ、それにあなたは喜多川には似ていませんよ。」

・・いや似ている・・確かに喜田川にそっくりだ(笑)・・


「先生は、僕が思っている事を、他人が思っているように錯覚したというのですか?」


「はい。・・基本、妄想や幻聴とは自分の頭が生み出しているんです。自分で思ったことを他人に投影しているんです。」

・・この程度の事は素人でも知っている事だ・・

・・最近はネットで検索できるので医者もやりにくい・・


「それも考えたんですよ。でも・・10メートル離れていれば聞こえないんですよ。5メートルぐらいに接近すると聞こえだすんです。だからすれ違ったら相手の考えが分かるんですよ。電車とか混雑している場所では同時に何人もの考えが頭の中で反響して・・パニックになりそうなんですよ。」


・・パニックねえ・・

・・まあ、良くある幻聴だな・・

・・今から入院もさせられないし、うん・・どうしたものか・・


「まあ、統合失調症からくる幻聴だと思いますので・・通院と投薬で改善すると思います。心配は要りませんよ、最近多くなっていましてね、情報過多によるストレスが原因でしょうね。今日はお薬を出しておきますね。良く効く薬が有るんですよ。明日には幻聴は無くなると思います。」

・・最近この手の患者が多いなあ・・

・・今日はこの患者で3人目だ・・

・・まあ、例の薬で効くだろう、効かなきゃあ入院だ・・



「あ、看護師さん、いつもの薬だから処方箋打っておいて・・」

・・ちょっと~・・処方箋は先生の仕事でしょうよ!・・

・・看護師が書いたら違法なのに、もう!・・


・・ああこの患者、そこは邪魔なんだよ!・・

「あの、外の待合でお待ちください。処方箋をお渡ししましたら、外来の①番の窓口に出してくださいね。あ、出口は反対ですよ。」

・・この患者、病院に慣れてないのかな・・

・・あと10分か・・

・・今日は朝ご飯を抜いたから、お腹がすいたなあ・・


「山本さん! この処方箋を①番に持っていってくださいね。」


「①番ですね、解りました・・ああ、あの・・朝ご飯は食べた方が良いですよ。NHKの番組でそう言ってました。」


・・??・・

・・何で朝ごはんのこと知ってんのよ。・・

「山本さん、外来窓口はあちらですよ。」

・・そういえば夫も同じような事を言ってたなあ・・

・・NHKの番組がどうとかって・・

・・・・

・・口煩い男は嫌だな・・








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吐息の・・SF短編集 紅色吐息(べにいろといき) @minokkun

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