第17話 平和爆弾


今年も暑い夏だったが、盆が過ぎるとさすがに朝夕は過ごしやすくなる。

私は大学時代の後輩を家に呼んで、屋上のベランダでビールを飲んでいた。

彼は防衛研究所の外部機関である民間の研究室に勤務している。


扇風機を回し、蚊取り線香を炊きながら二人でビールを飲む。

そして私が言った。

「もしもだよ・・もし平和爆弾が有ったとしたらどう思うよ。」


「平和爆弾ですか?」


「うん・・戦争の現場でボンッってやると平和になるんだよ。」


「いやいや、いくら吐息博士でもそんな物は作れないでしょう。」


「それがそうでもないんだよ。攻撃本能を解除してしまう薬品を入れた爆弾をだよ・・それが爆発すると薬品が気化して、それをほんの微量吸い込むとだね・・10日ほど攻撃本能が無くなってしまうんだ。これなら全く作れないとも言いきれないだろう?」


「なるほど・・で、攻撃本能が無くなったらどうなるんですか?」


「そうだなあ・・性欲とか食欲とか攻撃本能と関連が有るものは無くなるから 戦争もセックスも・・食事とか飲み会とか、会議なども続行出来ないだろうね。」


「なるほどね・・しかしですよ、戦争当事国のどちらかがこれを持てばやばくないですか? 戦わないで敵を制圧できますから、平和爆弾と言っても脅威ですよね・・」


「そうなんだよ・・今は、原爆は報復が怖くて現実には使えない兵器になってしまったからな。実際、現在では原爆を持った国同士は戦争は出来ないだろう? でも平和爆弾なら使えるぞ。ドローンで空中散布すれば無抵抗で制圧できるだろう!?」


「ですねえ、ある意味原爆より怖いかもですね・・」

と友人も真面目に話に乗ってきた。


私は話しを続けた。

「それどころかね・・もしテロリストが手に入れたらだよ。飛行機からこの薬品を霧状に噴霧したら軍人も政治家も市民も無力化出来るだろう。」


「そうかあ、それはまずいなあ・・」


「そうだろう? もし君がアメリカの大統領だとしたら・・私が平和爆弾の製造法を発明したと聞いたらどうるよ?」


「そうですね、特許を買い取りますね・・いや吐息さんを拉致させますね。」


「拉致!? それだけで安心出来るのか?」


「いや・・吐息さんや、平和爆弾の情報を漏らした可能性のある人を全て暗殺するでしょうね。いやいやこれは笑えますよハハハハハ実におかしいハハハハ」


「恐れるのはアメリカだけでは無いぞ。ロシアや中国や・・いや日本だって、私を消そうとするだろうな。」



「えーまさか!吐息さんが実際に作ったんじゃあ無いですよね。いや、作ったのなら笑えますよ。いやいや、これは笑える。はははは・・絶対笑えますよ。キャッハッハッハ」


「いやいや、まさか・・これはお酒の上の話だよ。」


「ですよね、吐息博士は冗談きついからなあ。キャッハッハッハッ本当にやめてくださいよ。ハッハッハッッハ笑いが止まらないじゃあないですかウイヒッヒッヒッヒ・・いやーまいった・・」



ほんの0.0000001グラム・・

私は平和爆弾の成分を彼のワインに混入しただけなのだ。


彼は今日から10日ほど、無力感に囚われて闘争心も性欲も無くなる。

もう少し時間がたてば笑う気力も失せるだろう・・


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