箱庭さん

夏伐

密室

 放課後、そのまま家に帰るのちょっと憂鬱だった。

 その日も公園で時間をつぶしてたんだ。


 それなりに時間も早かったから小学生もいっぱいいた。

 近くにいたから話に聞き耳を立てた。



 なんでも今夜「箱庭さん」の家に行くらしい。

 小学生の中に「箱庭さん」を知らない子がいたようで、リーダーらしい子が偉そうに説明した。


 箱庭さんの家は裏路地を通った所にある。

 見ればすぐわかるツタまみれで凄いボロっちい家。

 扉も錆びて開かない。


 何で箱庭さんなのかって言うと、窓からのぞき込むと中に女性がいるらしい。

 その女性が箱庭さん。


 顔は見ないように気を付けて。


 箱庭さんの名前の由来は、どこの扉も開かないけれど、住んでいる人がいるから。


 知ってるか、箱庭っていうのは箱の中に世界を作るんだ!

 だから彼女は家の中に閉じ込められてるようで閉じ込められてない! 家の中だけが彼女の世界だからだ!

 窓も割れない、扉も破れない。

 完全な密室。そこに彼女はいる。



 そしてリーダーは「って兄ちゃんが言ってた!!」とふんぞりかえった。


 暇だったから、それを聞いてすぐに箱庭さんの家に行った。一度行った事がある場所だったからより興味がわいたのだ。


 俺が行った時は、窓が割れてて扉もガタガタ。侵入し放題だった。

 しかも中にいたのは女性じゃなくて老婆だった。



 まだ明るかったからか、窓から覗くと中がよく見えた。


 覗き込むと不思議と割れてた窓も直ってる。

 内装はそれなりに綺麗になっているようだ。


 中に人がいるようで、布団に膨らみがある。


 目を凝らしてみると、枯れ木のようなものが見えた。


「なんで家の中にいるんだ?」


 ちゃんと埋めたのに。


 見ているうちに布団がめくれる、誰かが起きるような緩慢な動き。

 起き上がると、その顔がよく見える。

 女性の服を着たミイラがこちらにゆっくりと歩み寄ってくるところだった。


 俺は急いでその家を離れた。老婆に見えたのはミイラになっていたからか。

 女のミイラと背中を向けていた老婆が俺に向かって振り向こうとしていた。


 思わず公園まで走って戻った。既にあの小学生たちの姿はない。

 箱庭さん――彼女の完璧な密室。ふざけた都市伝説を生んでしまったものだ。


 趣味はほどほどにしよう、俺はそう決意するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

箱庭さん 夏伐 @brs83875an

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ