第三十一話 冒険は続く! 新たなる旅立ちの時
「なんですと?
「は、はいっ。ぜひとも、ご教授お願いします!」
昨日、
「ふぅむ、そうですなあ……」
ドワーフと
(それにしても、さすが
(うん! まさか、学長
カッシュと咲季は、ひそひそ声で言葉を交わした。咲季は悪霊退治を成功させた
なんといっても王国の英雄、ヴォルタージェ・ヴェルサーチの名前は絶大である。ついこの前は軽く門前払いを食った二人であったが、今回は紹介状の表書きを見せただけで、すぐさま王立魔法学術アカデミーの学長室にまで丁重に案内されたのだから。
「ほかでもない、ヴォルタ騎士団長のご友人の方々ですからなぁ。お役に立って差し上げたいのはやまやまだが……」
「やはり、難しいでしょうか?」
「
「
「この
そう言って学長は、おどけたように大声で笑った。咲季はそれを聞いて、落胆のため息をつくしかなかった。ゆうに数百年は生きてそうな、この王立魔法学術アカデミーの学長が覚えられないほど高度な魔法を、若輩者の自分が一体どうすれば使えるようになるというのか。
「オホン! ——しかし、サキエル殿。あきらめるのは、まだ
「えっ?」
そう言って、学長は机の
「こ、これは……」
「マジかいや、学長はん!」
「
老ドワーフの学長は少女と猫に、茶目っ気たっぷりなウインクを投げかけた。
記事の
「——未確認の
最上階には希少
「ヴォルタさん、みなさん。いろいろとお世話になりました!」
ここは、かつて咲季たちがアリアスティーンに降り立ったときの
「こちらこそ、困難な任務に付き合ってくれて助かった。君の働きには感謝しているぞ、サキエル君!」
咲季と固い握手を交わしながら、ヴォルタは優しく微笑みかけた。彼女と過ごした時間はわずか二日ほどにすぎなかったが、咲季はさまざまな表情のヴォルタ騎士団長を目にしてきた。そしてやはり、この笑顔こそがもっとも可憐で美しく、なによりも頼もしさに満ちあふれていると感じていた。
「もっとお話ししたかったわぁ、サキエルさん。それから
「ねえ、いっそこのままさ、王宮付きの
それぞれが咲季の手を取りつつ、ヴァニラとヴィヴィアンは名残惜しそうに別れの言葉を述べた。歴戦の
「いやー、
「本当にありがとうございました、ヴァニラさんも、ヴィヴィさんも。それに——」
咲季がそう言ったとき、四姉妹の末娘であるヴェルチェスカが無言のまま咲季に抱きついてきた。
「え、ヴェルチェスカさん?」
「うぐ……ひっ、ひっく……」
驚いたことにヴェルチェスカは、咲季の身をぎゅっと抱き締めたまま
「ど、どうしたんですか?」
「い、いえ、サキエルさんに助けてもらったときのことを思い出したら、なんだか悲しくなってしまったんっス。……う、うああああああああ〜ん!」
大号泣しているヴェルチェスカの、頭頂部に生えたトラ耳を優しくなでながら、咲季もまたこれまでの冒険を思い起こしていた。悪霊に取り憑かれ、意のままに操られるという恐ろしい経験は、ヴェルチェスカにとって想像以上に深い心の傷となってしまっていたのかもしれない。
「大丈夫ですよ、ヴェルチェスカさん。私、ヴェルチェスカさんに会いに必ずまた帰ってくるから」
「……ホントっスか?」
「あ、そうだ。前から思ってたんだけど、ヴェルチェスカさんって名前、ちょっと長くて言いづらいから『ヴェルチ』って呼ばせてもらってもいい?」
咲季にとって、相手を愛称で呼ぶのは最上級の親愛の証である。
「はー、なるほど……。うん、シンプルでいいっスね! 尊敬するサキエルさんの言うとおり、これからは『ヴェルチ・ヴェルサーチ』で行かせてもらうっス!」
ヴェルチェスカ改めヴェルチと
「それでは、つぎのお客様! 行き先はどちらまで?」
探索者ギルドの
「は、はい! ……えっと、サ、サトゥリア東部、トポポの街、で」
咲季は、ギルドの
「トポポ、お一人だけ? じゃ、魔法陣の中にどうぞ。その線からはみ出さないように、ネコちゃんしっかり抱っこしてて」
チケットを無造作に引きちぎりながら、係員は淡々と
(なんやねん、ワイを
(しっ、黙って。しゃべれるってわかったら、使用料二人分取られちゃうんだから)
腕に抱いたカッシュの口元を手のひらで抑えながら、咲季は小声で言った。そして、複雑に描かれた円形の文様の中心で百八十度振り向き、自分を見守る四人に最後の会釈をした。
すると、彼女らは一斉に
「我らが戦友の武運長久を祈り、全員敬礼ッ!」
「イアッ!」
ヴォルタの掛け声に合わせて、右手の拳を左胸に当てた敬礼を捧げる
すこしだけ地響きが起こった感覚があったが、それも一時。咲季とカッシュは白い光に包まれ、そしてつぎの瞬間、二人の姿は魔法陣から消え失せた。
「いい
「んー、また会えるかな」
番屋の扉を開け、
「行くぞ!
だれもいない
「はいっ! 団長閣下!」
雲ひとつない澄みきった青空は、まさに旅立ち
第二部へ続く
純情エルフは今夜も眠れない。~ダイヤモンド並みの堅物乙女が猫助けしたら剣と魔法のファンタジーRPGの世界に飛ばされて最強魔導師のエルフに転生して無双しまくりと思いきやとんでもなくヤバいことになった件~ 猫とトランジスタ @digiman
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