第三十話 キャッキャうふふの大ヨクジョー?
カポーン
王宮内にある特別大浴場に、手桶の鳴る小気味良い音が響き渡る。
「じゃあ、サキエルさん。自分たちはお先に入らせていただいてるっスから、お早くどうぞ!」
「え、ええ、ヴェルチェスカさん。……私も、すぐに行きますね」
地下宝物庫でのワイトクイーンとの死闘により、霊体特有のエクトプラズムによる粘液まみれになった
すでにヴォルタ団長に加えて、彼女の妹のヴァニラやヴィヴィアンまでもがその
(うーん……。どうしよ)
「おうサキ、一体どないしたんや。フロ、行かへんのか?」
大浴場へと続く脱衣所で立ちつくしたまま、一人考え込む咲季にカッシュが声をかけた。
「うん。だって、もうこんなに暗くなってきたし。ほら、
気がつけば、あたりはすっかり陽が落ちていた。咲季は、夜になってまたぞろ
「ああ、
咲季が着ていた
「とにかくお
「んー、尻尾もなんだけど、もしかしてさ……」
「なんや?」
「あ、
「そういや、
「サ、サカってって!」
カッシュの言葉に、真っ赤になって反応する咲季。
そのとき、大浴場の扉がガラガラっと開き、中から双子の姉妹が顔をのぞかせた。
「ねえ、なにしてんの? 早く入っておいでよ!」
ほこほことした湯気に顔を
「あら、トラ猫ちゃん。アナタはぁ、ダ・メ・よ」
しれっと咲季について来ようとしていたカッシュの首根っこをつまむと、ヴァニラはやさしく放り出した。
「あー、サキ……大丈夫やろか、ホンマ」
ふたたびピシャリと閉じられた大浴場の引き戸に向かって、カッシュは心配そうにつぶやいた。
「おお、待っていたぞ、サキエル君! 遠慮はいらん、君も入りたまえ」
大浴場の湯船の中に悠然と浸かっていたヴォルタが、咲季の姿を見てうれしそうに声をかけた。
「は、はい……失礼します……」
咲季は掛け湯もそこそこに、バスタオルを体に巻いたまま浴槽のふちに足をかけた。
「ダメっすよサキエルさん! せっかくの風呂場なんすから。女同士、裸の付き合いでよろしくっス!」
そばにいたヴェルチェスカは、そう言いながら咲季のバスタオルを強引に剥ぎ取った。
「ひゃっ!」
「あら〜ぁサキエルさん、モデルさんみたい。とってもステキよぉ」
「ホント! こんなグラマーなエルフの女の子、はじめて見たかも」
「えっ? そ、そんなこと……」
文字通り、一糸まとわぬ生まれたままの姿を披露した咲季。ヴァニラとヴィヴィに両脇をガッチリと固められ、彼女は湯船の中へと連れ込まれた。そういえば家族以外と風呂に入ることなど、親友の
「どうだねサキエル君、この風呂は? 大きさといい湯量といい、なかなかのものだろう」
「そ、そうですね……。
湯船に首までつかった咲季は、周りを見渡しながら答えた。ヴォルタの言うとおり、中世欧州を舞台にした剣と魔法のファンタジーRPGである『ドラゴンファンタジスタ2』の世界観には、ちょっと似つかわしくないと思えるほどの立派な大浴場である。
「このお風呂はね、ヴォルタ姉様がわざわざ天然温泉を引いてきて作らせたのよぉ」
「そうなんですか?」
「ああ。熱い温泉で身体を癒し、常に清めておくことで、さらなる働きができるというものだからな」
「姉様のおかげで、私たちもゆっくりお風呂に浸かれるってわけ。ホント、サイコーよね!」
さすが、
「というわけで……ヴァニラ、ヴィヴィアン、ヴェルチェスカ!」
「はぁい♥」
「うぃーす」
「イアッ!」
ヴォルタの号令により、王国の守りを担う
「えっ? えっ? えっ?」
呆然としている咲季を取り囲むと、三人は浴槽から上がって、洗い場の方へと彼女を連行していく。
「それでは、今回の
「ちょ、ちょっと、ヴォルタさん?」
「
「えっとぉー、それじゃあ私、おっぱい担当ねぇ!」
「あっヴァニラ、ずるーい。私、お尻やっちゃお!」
「それでは自分、前の方を洗わせていただくっス!」
かくして、屈強な
(そ、そんなぁ……私、これからどうなっちゃうの……?)
「エッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ」
ジタバタと脱衣場の床の上で
「なにやってんの? カッシュ」
いちおう断っておくが、大浴場で繰り広げられたここまでの出来事は、すべて
「おお、サキやんけ! ……どやったん?」
四姉妹よりも一足先に上がって体を拭きはじめた咲季に、カッシュは風呂での様子をたずねた。
「どやったんって、べつにどうもないわよ」
「ホンマか? フロでエッロい
「なーんにも。けっきょく、サキュバスの尻尾だってこれっぽっちも出てこないし」
「ほーん、せやったんかいな」
洗濯の終わった
「でも、これでひとつわかった」
「なにがや」
「私、
そう言うと咲季は、ふうっとため息をついた。
「ほんで、どうすんねん?
「そりゃもう、残るは
「やっぱ、
その夜、冒険者の食事処「
続く
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