第2話 現在地不明
夜が明けて、昼を過ぎみんなが起きだしてから各々が外周りや会社の中を調べることになった。今俺は2人の社員と玄関前に来ているが正直俺はこの2人が苦手だ。
1人は俺の同期、景山という男だ。随分と他人行儀な言い回しだがそれほどまでに俺はこの男が気に食わない。実は景山とは高校が同じだったのだが、そこでの確執からきているものなので俺たち2人の仲の悪さは今のところ社内で誰も知らないのだ。
仲が悪いがゆえにお互いの就職先を把握なんてしているわけもなく、せめてもの救いはデスクが遠いということだ。
もう1人は、プログラム班で一緒の安原さんという男性の社員でそろそろ40歳になるはずだが、この人の場合嫌いというわけではないし悪い人でもないのだが割と神経質っぽい性格で接しづらい。
「はぁ、、」
俺は2人に聞こえないよう小さくため息をついた。
「じゃあとりあえず外に出てみましょうか」
「大山さん」
安原さんが俺を呼び止めた。なんか顔怖いし、、やりづらいなあ、
「はい?」
「別に3人で動く必要はないでしょう。大山さんは玄関の右側、景山さんが左側、私が社ビルの裏を調べるということでどうですか?」
「で、でも矢野さんが3人で動くようにって」
俺は、早めに起きた十人ほどが集まって話し合った先ほどの会議を思い出して言った。もちろんこっちだって景山なんかと歩くのはごめんだが、矢野さんがそういった理由もわかる。なにせ今この社ビルが建っている場所はどう考えても東京ではないんだ。だが、
「僕も安原さんに賛成ですね。それじゃ安原さん、裏はお願いしますよ」
景山は安原さんに同調すると2人してさっさと外に出て行って各々別れてしまった。
「あーもうったくしゃねえなあ」
矢野さんの言葉も無視して勝手に動き出した2人にモヤモヤしなくもないが、今更だし俺も1人で調べるとするか。
『現在地不明』
スマホに表示されたその文字を見て、俺はため息をつきながらポケットにしまう。
「なんだこれ」
玄関を出ると大草原が広がっていたわけだが、玄関先というものがすっぱりなくなったわけではなく、むしろ歩道と少しだけだがアスファルトの道路までが続いているようだ。境目は円形に社ビルをかこっているようで、そこまで行って見ると少しだけこちら側が高くなっている。
すーっと息を吸い、恐る恐る足を踏み出し草原に降りてみるも特になにも怒らない。社ビルの方を振り返ってみると、大自然の中にぽつんと似合わない人工物が経っていて、足元に目をやるとアスファルトがすぱりとツルツルの断面をさらしているのもますます異様だ。
これじゃまるで、この空間だけコピーし別の世界にペーストしたかのよう。
ふと屋上に目をやると手すりからあちこちを指さしたり双眼鏡で眺めてる人影が数人見えた。おそらく、矢野先輩たちだろう。
彼らが特に見ている方向に俺も目を凝らすと湖が見えた。
100mほど遠くまで歩いてみたり、こんどは別の方角へ向かったりした後境界にそって一周すると駐車場の一部が切り取られたのと玄関の左側も少し道路が付いてきていたこと以外はほぼうちの社ビルだけが範囲になっているようだった。ちなみに2人は早々に帰ってきていたらしい。
だが確かに、少し歩いただけなのに異様に体が重い。かなり疲れてしまったようだ。
俺たちは再び会議室にもどり、社内にいた人全員で大会議が始まった。
「まず、言っておかなければならないことがあります。」
静まり返る部屋の中で、結城さんが口火を切った。
「もしかすると、私たちは生きて家に帰ることはできないかもしれません」
その言葉に、会議室全体がどよめいた。中には罵声めいた声も聞こえる。
「みんな、落ち着いて。私たちは今、そしてこれから、大変な困難や理解できないことに直面するかもしれない。だがたった今から、これは肝に銘じてくれ。迷った者から死ぬ。それほど事態は深刻なんだ。」
と松下部長がおっしゃられる。現状、松下部長は社内地位のもっとも高く人望も経験もある。普段は人当たりがよくおっとりとした彼の真剣な表情に、ざわめく部屋の面々も息をのむしかない。
「矢野君、屋上から見てここの周りはどうだったかい?」
松下部長は矢野先輩に話を促した。
「全く。電波は入らんし、GPSも入らんし、コンパスで方角だけは分かるんですがそれによると玄関がちょうど西に向いているってところですね。でもここがどこかわからない以上知ったところでといったところですが。少なくとも半径十キロ以内には時々小さな樹林や湖、川があるくらいであとは大草原です。北西の遠くに見える湖はかなり大きそうですがね。」
矢野先輩はそう言いながらラップトップに写真を表示した。画面に映るそれはまるで精細な絵かコンピュータグラフィックスのようで、実感が湧かないほどだ。
「矢野さん、俺は付近をかるく散策したんですが、これを見てください」
しゃべりながら、俺もタブレットを前に掲げた。
「どうですか。まるでそとから見れば、この社ビルだけ切り取られて別世界に貼り付けられたかのように、俺には見えます。」
「憶測をさも事実かのように言うのはよくないのではないかな?なぜ君はここが別世界だというんだ。証拠でもあるのかね」
なんだこいつ、と思って視線を向ければ景山、ではなくその隣に座った中年太りの男だった。確か経営関係の人だ。
「いや、そりゃ証拠はないですが、、そう見えたってだけのことで、ここが地球かと言われるとなんとなくしっくり来ないんですよね。」
「君の感想をこう言った場で呼ぶのはやめたまえ。」
その嫌味な言い方もそうだが、なんか腹立つ。横で景山もニヤツいてるのも気に食わない。だが俺の直感、悪く言えば感想に過ぎないことを言ったことは確かで黙るしかなかった。
「直感で感じたことというのは言葉にまとまらない思考ですから、私は無視できないと思います。ですが現状では何とも言えないので、とりあえずここが地球なのかについては保留としましょう。それじゃあ、○○君___」
その後の会議はさっきのモヤモヤがあって、なんとなく上の空になってしまったが、まとめると、転移当時社内にいたであろう人数、つまり今ここにいる人間は34人であること。備蓄は1か月ほどは持つだろうということ。問題は、水道が止まったことと屋上のタンクが破損して漏れていたことによって飲料水はともかくとして水が不足していること。
今後の方針として、まず発電機の使用は極力節約する。これは当然燃料の不足が起きるためだ。次に、水の確保。駐車場と一緒に車が5台ほど転移してきているため、調査も兼ねて遠征に向かう。そして、この場所がどこなのか、可能な限り調べる。その手段は遠征だけでなく天体観測や気候などからおおよその場所を見当つけるということ。電波通信によるSOSも試みる。
だが結果的に、俺の直感は当たっていた。ここは、地球ではなかったのだ。
務めてるゲーム会社が異世界転移しちゃった件 @spring9
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