務めてるゲーム会社が異世界転移しちゃった件

@spring9

第1話 転移

俺の名は大山弘典、21歳。高校を卒業後あこがれだったゲーム会社に入社、今は下っ端の中の下っ端で残業も多いが上司はいい人だし、後輩もできてなかなか楽しい毎日だ。


「大山君、バグ修正いつ頃に終わりそう?」


今話しかけてきた彼女の名前は結城凛、俺の先輩かつ上司にしてトライアングル社プログラマー部門のエースだ。仕事も出来て頼れるのにたまに見せるかわいらしい姿に社内の男子の多くは恋の病にかかるが、残念ながら彼女はそういったことに全く興味がないらしく、これまで何人もが撃沈している。


「もうしわけありません、70%ほどは完了しているんですが細かいバグが駆逐できてなくて、、」


「実はね、上のほうの人がさ、進捗を見たいって言ってきてるのよ。」


「そ、それっていつ頃ですか?」


俺の脳裏には、まだ人様に見せられないような部分を多く残したプロジェクトのあれやこれやが浮かぶ。


「明日、、とか?」


「あの、マジ話っすかそれ」


「マジです。」


「無理!!絶対無理!!」


横で昼飯を食べながら話を聞いた矢野さんが悲鳴を上げる。彼は結城さんとタメ、同期入社であり彼女と並んで頼りがいがある、まさに兄貴と呼びたくなるような人柄だ。


「そうそう、矢野君にも聞こうと思ってたんだけどモデリングはどんな感じ?」


「そりゃ今上がってる部分+αは完成してっけどなあ、ちょっと裏町に入ればワールドは未完成だしキャラクターのほうに至っちゃまともに見せられるのはメインキャラ数人くらいだよ」


「そうよねえ、、ちょっと昼休憩終わったらみんな集めてもらえる?」


「いいけどどこもこんなもんだぞ」


「わかってるわ、ちょっと作戦が必要だと思ってね」


げ、これは嫌な予感、、


「先に謝っておくわ。ごめんね、そしてよろしく」


「同情するなら帰らせろ」


「それはダメ」


「「はあ、、、」」



「___というわけで、致命的なバグは解消できているみたいなのでバク取りしてた人たちはいったん元の仕事にもどって。大山君って前モデ班にいたんだよね?」


結城さんは前はこのセクションから離れた場所で仕事していたためか確認してきた。

今は昼休みが終わり、小会議室にプロジェクトにかかわる人間が多く集まっている。結城さんはプログラマーだがPMでもあるのでここにいるのはプログラム班だけではなくモデリング班、モーション班、音楽班、デザイン班など様々だ。


「そうですね、プログラムはこのプロジェクト始まってからです」


「じゃあちょっと今は矢野君を手伝ってもらえる?」


「了解です」


「すまんな~、大山」


「いえいえ、入社してからいろいろ教えてもらったじゃないですか!成長ってもんをみせつけてやりますよ」


「服が破綻しない程度にお願いね。それから___」


かくして、このプロジェクトにかかわるすべての人間の貫徹が確定したのだった。



「うおおおおおおお!!!!ああああああああ!!!」


「大丈夫か!!気をしっかりもて!きぃはぁああああら!!死ぬなー!!」


現在時刻は3時半。そこで壊れかけているのは今年で二十歳を迎え無事徹夜組に数えられるようになった後輩、木原君だ。


「大山君、あなたもたいがい壊れかけよ、、少し休憩していいわ。二人で十分だけ休んできなさい、十分だけ」


「「は、はい」」


結城さんは「十分」をやたら強調した。


廊下に出て自販機でコーヒーを購入し、一本を木原に投げる。


「あ、ありがとうございます」


「いいって。ちょっと屋上いかない?」


「ケムリっすか?」


「俺は吸わないよ、こうあったかいとウトウトしてきちゃうだろ」


「なるほど、行きますか」


こうして二人連れだって五階建てビルの屋上に出る。手すりに寄ると、目の前には絶景が、、なんてことはなく、周りの建物の背が高いので見えるのは人が誰もおらず暗い大通りだけだ。


「ん?」


ふと、横で木原が呻く。


「どうした?」


「いや、気のせいですかね?今なんか光った気が」


「雷でも近づいてるのかもなぁ」


刹那、ものすごい光が目の前を包み、耳をつんざくような音とショックが俺たちを襲った。二人は屋上で気を失った。




なんだ、これ___

体が重い、頭がクラクラする。さっきの光はいったいなんだ、、


しばらくして、俺はやっと起き上がることができた。だが隣にはいまだ意識を失っている木原が横たわっている。


「お、おい!大丈夫か?!」


体をゆするとうめき声が聞こえて俺は安心する。


「まったく、なんだったんだ今のは、、、は?」


衝撃と音で鼓膜や三半規管がダメージを追っていたが、なんとか回復してきた俺が立ち上がり目に入ってきたのは、そこにあるはずの大通りではなく草原だった。


ふと、暖かい空気が舐めるように肌を抜けていき髪を揺らす。そういえば、なんだか気温が高い。さっきまで11月の冷たい空気が付近を支配していたのに、どういうことだ?


「おい、木原、起きろ。なんかおかしいぞ」


俺は一層木原を揺り動かし、起こした。


「あ、先輩、、なんだったんすかね今の、、て、え?」


「なんか変なんだ。大通りが見えないし、むしろ草原にしか見えないよな?」


「そ、そうっすね、、信じられないですが。気を失ってる間に運ばれた、とか?」


「いやこの手すりとかさっきのままじゃねえか、ビルの中を、、そうだ、ビルの中はどうなってるんだ?」


「行って見ましょう」


と、俺たちが階段に戻ろうとしたとき結城さんが現れる。


「二人とも、ここにいたの、、でも無事でよかった、すごい音がしたけど雷?ていうか打たれてない?!大丈夫??」


さらに、結城さんに続いて何人かがぞろぞろと屋上に上がってきた。


「俺たちは衝撃で気を失っただけです、打たれてはいないと思います、多分、、でもちょっと変なんです。」


「えぇ、まどから見える外の景色が、、その、バグってるというか、、」


「やっぱりそうですか、見てくださいよ。」


俺は屋上の下を指さした。ちょうど雲から月がでて、いや、あの月もおかしいというか大きくないか?

月明かりで照らされた辺りを目にしみんなはそろえ息をのむのだった。


「な、なんだこれ、、」


全く忘れていたが、ここからなら目に入るはずの町のあかりがどこにも見当たらないのに加え建物どころか草原、たまに木々の密集した林のようなものからさらに奥には湖が見える。


「そういえばビルが停電してませんか?」


「ええ、あの光が収まって気が付いたら社内の電源は全て落ちたわ。」


「うおおおおおおPC全落ちっすか」


「それどころじゃねえぞ、木原。携帯のネットもつながらなくなってる。」


俺たちはポケットからスマホを取り出して画面を見ると、3:57を示す時計の左上には圏外と表示されている。


「もしかしてサーバーも全落ちっすか?」


「そうか、木原はまだ知らなかったな。ここの地下二階にサーバールームがあるんだが、そっちは地下一階の発電機に切り替わるようになってるから今頃復旧してると思うぞ」


「それどれくらい持つんです?」


俺が矢野さんに尋ねた。


「三日くらいじゃないか?」


「ネット、切れてるなら止めたほうがよくありません?」


実は、俺にはとある予感がしている。この状況、ネットが通じないのにサーバーで電力を無駄に消費するのは意味がない。


「そうね、とりあえず下に戻るわよ。ラウンジにみんな集まってるから」



こうして俺たちはいきなりの出来事に疑問を抱きつつも電気が来てない以上仕事はできない。今この会社に残っているのは徹夜組だけなわけで、とりあえず数名はサーバールームを調べたり発電機を止めたりしにいったが基本就寝という運びになった。


だが夜が明けて日が高く昇ってからやっと起きだした社員も、昼頃には全員が外を見て否が応でも理解させられていた。


俺たちは、会社ごとどこかにしてしまったということに___

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