ゴルゴンゴゴルの呪い

結騎 了

#365日ショートショート 004

「では、記録を取る必要があるため、順を追ってお伺いします。あなたは、ユーザーネーム『びっくりウーマン花子』に対し、当社のSNSサービス・ツイッピピーで計25回の攻撃的な投稿を行い、『びっくりウーマン花子』よりスパム報告を受けました。間違いありませんね」

 今日も今日とて、タイピングを繰り返していく。ほわん、ほわん、ほわんと、必要以上に軽やかな効果音と共に、チャット画面にフキダシが現れる。カスタマーサービス部とはなんと名ばかりか。実態は、スパム報告や削除申請といった誰もやりたがらない問い合わせに朝から晩まで応対するという、完全なるハズレ部署である。特に今日は、ハズレもハズレ。ぴかいちのハズレだ。

「はい、間違いありません」

 ほわん。ディスプレイの向かって左側、応対中のアカウント(の中の人)、ユーザーネーム『カムカム海老フライ』からのフキダシが届く。はーっと溜息をこぼし、打鍵を続ける。やってられるかこんなこと。まったく、よりにもよって。

「令和3年11月26日、この日が『カムカム海老フライ』さんから『びっくりウーマン花子』への初めてのダイレクトメールでした。内容を覚えていますか」

「覚えています」

「ここには文面を書けないほどの強い言葉で、誹謗中傷をされています。きっかけは何ですか」

「その日、『魔法少年ゴリパ』の最終回が放送された日でした」

「『魔法少年ゴリパ』」

「まさか知らないんですか」

「いえ、存じ上げています」

「とにかく、あいつが。花子が、『ゴリパ』は駄作だった、って投稿したんです」

「その投稿は確認しています。こちらです。【2021.11.26 23:45 @bikkurihanako『魔法少年ゴリパ』最終回視聴。稀に見る駄作。2クールかけてこのオチとは信じられない。支離滅裂の脚本、メリハリのない演出、特筆すべき点が皆無の演技。スタッフは猛省すべし。この枠もそろそろ見切りか】。」

「ひどくありませんか」

「作品を酷評する内容ではありますが、『カムカム海老フライ』さんを攻撃している内容には感じられません」

「そういうことじゃないんです。私、ゴリパの相棒のリリオ推しなんです。リリオの石化が解けるシーンは感動して何十回って見ました。アクキーも全部集めたし、円盤も全部予約してます。イベのチケットも確保してるし。『ゴリパ』はリリオのための物語なんです」

「……それが本件とどういった関りがあるのでしょうか」

「だから、花子は『ゴリパ』を批判したんです。最高のはずなのにバカにしたんです。おかしいですよね。ひとこと言いたくなるのは当たり前じゃないですか」

「それで、攻撃的なダイレクトメールを送信した、ということでしょうか」

「そうです!」

「なぜですか」

「批判したからです」

「……ああ、もう、いいですか。我慢なりません。あなたがリリオを好きなのは勝手ですけど、『ゴリパ』が駄作なのは誰がどう見ても明らかです。いいですか。好きなキャラとかどうでもいいんですよ。大事なのは物語、演出、アニメとしての総合力です。好きなキャラが動いて喋って幸せなんてあなたみたいな人はただ盲目になってるだけなんですよ。まったく、理解できませんね。だいたい、リリオの石化が解けるシーンとかもう失笑ものでしたよ。なんですかあれ。ゴルゴンゴゴルの呪いって数千年前からあの世界の厄災として扱われてきて時の権力者が誰もそれを覆せなかった、というのは物語の前提条件じゃないですか。それがなんですか。ゴリパと友情を結べたから石化が解けるって。あり得ないですよ。友情パワーが炸裂すれば全部解決なんですか。石化が解けたロジックを何も説明してないじゃないですか。あんな安っぽいお涙頂戴で感動してるあなたの方がよっぽどひどいですよ。その直後のアクションシーンの作画はまあ悪くなかったですけど、それ以前の石化が解けるシーンがあまりに安易すぎて全く集中できないんですよ。よくあんなシーンで感動できましたね。私にくだらないダイレクトメールを送ってる暇があったらシリーズ最高傑作の『魔法少年ゴペルニオR』でも見たらどうですか」

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