第16話
「もっ、申し遅れました。私はユーフェミア・シュバイン・アズベルトです」
「アズベルト・・・・・・? 知らない名前だ」
その男性はファミリーネームを聞いて、私を見定めるように見る。
「あなたは、クロムウェル様ですか?」
「他の誰がこの家に住んでいると思っているんだ・・・・・・まったく。まぁ、いい。立ち話もなんだ。中に入れ」
そう言って、扉に開けようとする男性。
「あの、カギは?」
私が質問すると、クロムウェルは振り返り、私を見てニヤッと笑い、
「見てろっ」
と言いながら、ドアノッカーの黒ジャガーの頭を撫でる。すると、先ほどまでただの金属だったはずの黒ジャガーが生きているかのようにあくびをしながら、首を回す。
カチャッ
黒ジャガーの首が一周すると、カギが開いた音がした。そして、重そうな扉は開き、クロムウェルは入っていくので、私も一緒に入る。
「うむ、コソ泥ではないようだな」
チッと舌打ちするクロムウェル。
「どういうことですか?」
「なーに、もし、悪意がある者が扉を通れば、そこの黒ジャガーが喉笛を噛みちぎっていたからだ」
私は背筋がぞっとして、首が涼しく感じた。私は首を擦りながら、クロムウェルとの距離を詰めると、クロムウェルは愉悦を覚えた顔をしていた。
(この人と、都築くんを重ねた私が馬鹿だったわっ)
私はクロムウェルから魔法を教わることなんて忘れて、プンプンしながら彼に着いていった。
「そこに座って構わない」
そう言われた椅子はホコリを被っていた。
(これは・・・・・・踏み絵じゃないわよね?)
私はちらっとクロムウェルを見るが、飲み物の準備をしている様子で、こちらに興味を全く示していない。私はそっと、手で椅子のホコリを払って、綺麗になったところに座る。
「さっ、それで今回はどういった用件だ」
私の前に紅茶のカップを置きながら話すクロムウェル。私は美味しそうだと思って、口元までカップを運ぶと、クロムウェルが笑っているのが目に入った。
(もっ、もしかして・・・毒が入っているんじゃ?)
「どうした? 温かいうちに飲まないのか?」
そう言って、自分の紅茶を飲むクロムウェル。どうやら、紅茶自体には毒はなさそうだけれど、相手は魔法使い。そして、私は魔法の知識0。さっきの黒ジャガーの件もあったし、自分は大丈夫なようになっている罠かもしれないし、もしかしたら・・・・・・
「媚薬とか入ってませんよね?」
ブーーーーッ
うわ、最低だ。
クロムウェルの口に含んだ紅茶が私の髪や、顔を汚した。
大浴場がないってどういうことです? 悪役令嬢は婚約破棄して、僻地でドワーフと温泉を発掘します。 西東友一 @sanadayoshitune
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