最終話
僕と髭おじちゃんは火葬場にいた。
火葬場には僕らと係の人以外は誰もいなかった。
係の人は神妙な口調で僕らに言った。
「最後のお別れはいいですか?」
髭おじちゃんは軽く頷いた。
係の人は火葬する入り口を開け、棺桶を入れようとした。その時、僕は思わず「待って」と言った。
僕は棺桶の顔が見える小窓を開けた。
そこには確かに、僕のお母さんがいた。
精神的な病の逃げ道で罪を犯してしまったけど、僕の事を覚えていてくれた。
直接会って話したかったよ。
お母さんの顔を見たら、きっと一瞬で許してしまった気がするよ。
生きてるだけで、よかったのに。
お母さん、ありがとう。
生んでくれて、ありがとう。
夜泣きしても、抱っこしてくれてありがとう。
好き嫌いが多い僕に、頭を悩ませながら料理を作ってくれてありがとう。
お母さんの笑顔が大好きだったよ。
ありがとう。
僕は棺桶に、ジューンベリーの実をひとつ入れた。
梅雨らしい湿めった生温い風が、そっと吹き抜けた。
赤い実 芦田朴 @homesicks
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