第2話 幼なじみ


25歳 会社員 独身

「昨日はすみませんでした!」

「いいよ、お酒弱いんだ」

アルコールは入っていたが昨日の事は覚えている、俺は、Rさんに強引にキスを誘ってしまった。Rさんとの飲み会で緊張をしてそれをアルコールを流して克服しようとしてしまった。

「はい、あの後タクシーまで呼んでいただいて、本当に申し訳ありませんでした」

男として、いいや人としてやってはいけないことだ、セクハラで訴えられてもおかしくなかった。Rさんは失敗は誰にでもあると言って責任を追及しなかった。

「もうすぐお昼終わるよ、また誘ってね」

そう言ってRさんはたばこを灰皿ケースの中に入れ社内に戻っといった。

「子供かよ、俺」

オフィスへ続く階段を降る足どりが重い、寒くも暑くもないどんよりとした空気で息がしずらい。

「あれ、Sじゃん!元気なさそうじゃん」

そう声を掛けてくれたのは昨日意気揚々とRさんを食事に誘ってくるといきまいた相手、小学生からの幼なじみのYだった。

「やっぱり上手くいかなかったかあ」

俺は何も言えず黙った、きっとYの思っている上手くいかなかったは昨日の上手くいかなかったとは違う。

「まあ、どんまい?当たって砕けろってSも言ってたじゃん」

「ありがとう、仕事に戻ろう」

これ以上上手くいかなかったことについて慰められるのは避けたかった、それで吹っ切れやしないし、今は慰められたフリだって出来ない。

「てか今日クリスマスだよ、友達が今日赤ちゃんに洋服をって、聞いてる?」

「え、ごめん、仕事に集中してた」

「んー、今日飲み行こうよ」

「嫌だよ」

昨日の今日で飲みには行きたくない。

「Sが誘いを断る時は大抵落ち込んでる時なの、仕事終わったら行くよ」

こういう時幼なじみと言うのはなんと言うか、おせっかいがきく、初めての彼女に振られて落ち込んでいた時もこうやって拒否権無しの誘いをしてきた。

「あー、やっと終わった」

「こっちもやっと終わったよ」

大量のタスクをこなして一息ついた、おかげで没頭していて落ち込む所ではなかったから助かった。

「よし、今日は金曜だし飲むぞ!」

Yの勢いのまま連れてこられたのは昨日の居酒屋だった、立ち直るにはあまりにも都合が悪い。見た事のある内装、昨日と今日でやっているクリスマス限定メニューもあった。

「あ、注文いいですか、えっと生ふた」

「俺はいい」

「飲まないの?」

「なるほどね、生2つお願いします!」

察したのかYは大丈夫大丈夫と笑いながら次々に注文を済ませていった。

「頼ったでしょ、アルコールに」

「。。うん」

気づかれた、何を言われるか怖い。

「まあ、その」

そういった途端Yは大声でお腹を抱えながら笑いだした、馬鹿にしたような笑いではなくまるでバラエティ番組でも見てるかのように笑った。

「いや、ごめんごめん」

Yは深呼吸をして笑いを沈めた。

「ふー、でなんで悩んでるんだっけ」

「え、だからアルコールに頼ってーー」

「だから、それで、ネガティブじゃん、もっと前向きに行こうよ」

ちょうど届いた生ビールを片手に自分に突き出してきた。

「男だろ、くよくよすんな」

もっと暴言を言われると思っていた、いや言われて当然だと思っていた、でもこいつは言わなかった、後ろめている俺に前を向かせようとしてくれている。

ああ、本当に幼なじみってやつは。

「お前は本当におせっかいなやつだよな」

「ほれ、乾杯」

俺たちはビールジョッキを強めに乾杯をした。

「あー!明日は休みだし飲むぞ!」

「そうそう!その調子!」

今もまだ完全に吹っ切れた訳では無いが、前向きになっていく確信ができた。

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キスマーク たられば @Noah5511

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