最終話 弟子君、早く―
「戻りました……」
「おかえりー。って、何かあった? 元気ないけど」
帰宅した僕を出迎えたのは、真っ黒なパジャマを着た師匠でした。おそらく、ついさっき起きたばかりなのでしょう。頭のてっぺんに、ピョコンと可愛らしい寝癖がついています。
いつもの僕なら、「もっと早起きしてください」と小言を言っていたに違いありません。ですが、落ち込んでいる今は、そんな気分になれませんでした。
「ハハハ。ナンデモナイデスヨ」
僕は、持っていたほうきを玄関に置き、台所へ。ポットにためておいた紅茶をコップに注ぎ、グビリと一口。紅茶の苦みが、僕の口内に広がります。
はあ。
あの子、すごい才能あったんだなあ。僕なんかとは違って。
僕、やっぱり師匠の弟子として……。
「……ねえねえ」
不意に、背後から聞こえた師匠の声。振り返ると、そこにはお腹を押さえる師匠が。
「どうしました?」
「弟子君。お腹すいた」
満面の笑みで告げられた言葉。不思議な温かさのある言葉。子供っぽくて、だけど何か気遣いのようなものを感じる言葉。
それを聞いた僕は、思わず「ふふっ」と声を漏らしてしまいました。
「むむむ。なんで笑うのさ。本当にお腹すいてるんだよ」
「ご、ごめんなさい。つい」
「もー。これはお詫びとして、とびきりおいしいシチューを作ってもらうしかないですなー」
「分かりました」
そう返事をして、僕はコップに残っていた紅茶を飲み干します。口内に広がるのは、先ほどと同じ苦み。けれど、どうしてでしょうか。少し、甘さのようなものを感じるのは。
「弟子君、早く―」
「はいはい。本当に師匠は相変わらずですね」
大人で子供な師匠のことを、つい甘やかす僕がいる。 takemot @takemot123
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