第4話 何を隠してるかですって?

「コホン。さて、じゃあさっそく始めようか」


 いやはや。フフフ。僕としたことが。フフフフフフ。『師匠』と呼ばれただけで取り乱してしまうなんて。フフフフフフフ。


「師匠さん、もしかしてまだ……」


 ジト目を僕に向ける少女。さすがにそろそろ気を引き締めないとまずいですね。


「ん、んん。大丈夫。もう大丈夫だよ」


「……本当ですか?」


「もちろん。そんなことより、さっき、魔法が思ったように出せないって言ってたよね。今は何の魔法を特訓中なの?」


 確か、以前少女に会ったときは、水を操作する魔法や、水の色を変える魔法、風を起こす魔法なんかを特訓してましたね。努力家な少女のことです。きっと、今はもう少し高度な魔法を特訓しているはず。水を特定の形にする魔法でしょうか。それとも、風で物を浮かせる魔法でしょうか。僕が一番得意な壁を作り出す魔法だったら教えやすいのですが……。


 僕の質問に、少女は杖を構えながら答えます。


「私、今は幻影魔法を特訓中なんです」


 …………ん?


「迫力あるドラゴンとか出せたらかっこいいなと思って。で、ドラゴンの幻影を出せるようにはなったんですけど」


 …………んん?


「少し輪郭がぼやけちゃって、本物っぽくないんですよね。それに、もっと大きくもしたいんです」


 …………んんん?


 杖を一振りする少女。次の瞬間、僕の目の前に現れたのは、大きさが二メートルはあろうかというドラゴン。全身を覆う緑の鱗。鋭い爪と巨大な口。こちらを睨む瞳は、まるで僕を獲物であると思っているかのよう。


「どうすれば、思ったように……師匠さん?」


「…………」


「師匠さん、どうかしました?」


「……え? あ、ああ。そ、そうだね」


 僕は、必死で頭を回転させながら言葉を探します。やっとのことで絞り出せたのは、「魔力量の問題かもね」という、ありきたりな回答でした。


「やっぱり、師匠さんもそう思いますよね。魔力量かー」


「う、うん。ま、魔力量、だよ」


 僕は、隠し事がバレないよう、腕組みをしながら大きく頷きます。


 え? 何を隠してるかですって?







 幻影魔法なんて高度すぎるもの、僕が使えるわけないじゃないですか!!

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