第3話 師匠さん

 まさか、僕が誰かに魔法を教えてくれと頼まれるなんて。こんな経験初めてです。今まで、魔法を教わる側だったはずなのに。


「ほ、本当に僕なんかでいいの?」


「はい。もちろんです」


「本当の本当に?」


「だからそう言ってるじゃないですか」


 少女の顔は真剣でした。そこに、嘘偽りなど微塵も感じられません。


 ああ。


 今日は、やっぱりいい日だなあ。


「わ、分かった。頑張って教えるよ」


「やった! ありがとうございます。お弟子さん!」


 両手を上げて飛び跳ねる少女。


 そこまで喜ばれると、さすがに照れくさいですね。気を抜くと、ニヤニヤ顔になってしまいそうです。我慢我慢。


「じゃあ、さっそく……あ、その前に。『お弟子さん』って呼ぶのも何だか変ですよね」


「え?」


「『お弟子さん』改め、今日は『師匠さん』って呼ばせてください」


 純粋無垢な少女の言葉。


 ガチリと。僕の体が確かに固まるのが分かりました。


「…………」


「師匠さん?」


「…………」


「おーい。師匠さーん」


「……もう一回」


「? 師匠さん?」


「……ワンモア」


「師匠さん」


 あ、もう無理。


「ふ……ふふふフフフフフ」


 あらあら。一体どうしてしまったんでしょうね。僕の口は。よく分からない言葉が飛び出しちゃってますよ。フフフフフフ。


「し、師匠さんが壊れた!?」


 僕が冷静さを取り戻したのは、困惑が頂点へ達した少女に、頭を叩かれた後のことでした。

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