幕間2話 11月11日は勃ッキーの日

 今日も今日とて快晴。


 窓から差し込む太陽の温かさを感じつつ、まどろみを覚え始めたお昼時。


 もはや当たり前のように一緒に机を囲んでいたパコリーヌがこんなことを言い出した。


「ねぇねぇ、みやっち。今日は何の日か知ってる?」


 何の日……? 特別な行事でもあっただろうか?


 誰かの誕生日とも聞いていないし、事前に学園側から連絡事項も言い渡されていない。


 俺が悩みに悩んで眉間にしわを寄せていると、ブッブーとタイムアップが宣告された。


「正解は勃ッキーの日でした」


「ああ、ポッキーの日か」


「ううん、違うよ。勃ッキーの日」


「聞きまちがいじゃなかった、畜生!」


 やはりサキュバス。


 脳味噌ピンク色な方向に改造されていた。


「いい加減あなたも慣れなさいよ。ここで常識を求める方がおかしいから」


「お、お兄ちゃん……ファイト」


「それはそうなんだが……」


 左右から呆れと慰めの声がかかる。


 しかし、クラリアの言う通りに慣れてしまったら俺に残された少ない人間らしさが壊れてしまう気がするのだ。


「もう~、みやっち聞いてる!?」


「聞いてる聞いてる。それで勃ッキーの日がどうしたんだ?」


「そんなの決まってるじゃん! 勃ッキーゲームしよ?」


 もう名前からして嫌な予感しかしないのだが、一応ルールは聞いておく。


「簡単だよ。下の口で勃ッキーしたみやっちのみやっちを中折れさせたらあーしの勝ち。先にイッたらあーしの負け」


「それもうただの本番行為じゃん!」


「あっ、ごめんごめん。上の口が良かった?」


「そういう問題じゃないが!?」


「じゃあ、脱がすね~」


「やめなさい!」


 参加が決定事項になっているのか、ズボンに手をかけるパコリーヌ。


 その手を掴んで阻止させると、渋々ながら彼女は席に戻った。


 こうして意思の疎通ができるようになったのは入学当初を考えれば大きな進歩だろう。


 そう、彼女たちも確実に歩み寄ってくれている。


 はぁ…‥と一つ息を吐いて、ベルトを締め直した。


「もうポッキーも、チョコも関係ないじゃないか……。せめて原型は留めろよ……」


「実質ホワイトチョコかかってるようなもんだし一緒でしょ」


「聞かないからな。ホワイトチョコが何を指しているのか聞かないからな!」


 あーあーと声を出しながら、耳を手でふさぐ。


 クラリアはそんな俺を滑稽なものでも見るように嘲笑を浮かべながら、弁当箱を広げていた。


「とにかく勃ッキーゲームはしないからな」


「ちぇ~……仕方ない。じゃあ、ポッキーゲームしよっか」


 そう言ってパコリーヌはカバンから見慣れたパッケージの赤い箱を取り出した。


 あるんじゃん……なら、最初からそれでいいじゃん……。


「……いや、よくないな!」


「うわっ!? ど、どうしたの、お兄ちゃんいきなり……」


「あ、あぁ、ごめんな、フローラ」


 驚いた彼女を慰めながらも頭では別のことを考えていた。


 そうだよ、よくない。


 勃ッキーゲームじゃなくなって安心していた隙を突かれた。


 だって、ポッキーゲームをするってことはキスする可能性があるということ。


 当然、俺は先手必勝でポッキーを折って敗北を狙うが、果たしてパコリーヌはさせてくれるだろうか。


「よーし。はいっ。反対側咥えてね、みやっち」


「うぐっ」


ふたぁ~とスタート~」


 ポリポリと食べ進めていくパコリーヌ。


 くっ……仕方ない。こうなったらさっさと折って……!?


「んふふ~。みやっちの考えそうなことくらいお見通しだから」


 ニヤリと笑ってみせる彼女は俺の顔が動かないように手で挟み込む。


 う、動けない……!


 これでは歯で噛み切ってもポッキーはパコリーヌに支えられた状態になるからゲームは続行になる。


「か、観念してね。性行為じゃないから……唇……唇だけだから……」


 絶対にそれだけで済まない色気漂う瞳してるんだが!?


 ここまで丁寧に積み立て挙げられたフラグもないだろう。


 今から入れる保険はありませんか……!?


「んっ……」


 どんどんパコリーヌの整った顔が近づいてくる。


 綺麗なまつ毛が一本一本見えるほどに。


 やがて彼女の鼻と触れ合いそうな距離まで近づいて――


「――ふん」


 振り下ろされた箸によってポッキーは真っ二つに折れた。


「あっ、あーっ!? なにするのさ、フローラ!」


 そう。行為を中断させたのはサキュバスであるはずのフローラだった。


 当然パコリーヌは激おこぷんぷん丸である。


「このままキスしたらずるずる本番まで行きそうだったから阻止したのよ。こいつの童貞を奪うのは私だから」


 さらりと髪をなびかせて、堂々と言い放つフローラ。


 サキュバスの体液に媚薬成分があるのは保健室の一件で身をもって味わっている。


 みんなと距離が近くなり、仲良くなっていたせいか思わず頭から抜け落ちていた。


 と、とにかくこれで俺の唇と息子のファーストキスは守られた……。


 ホッと胸をなでおろす。


 すると、同じタイミングで昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。


「あ~、せっかくのチャンスだったのに終わっちゃった~!」


「次は体育だから遅れないようにね。ほら、私たちも着替えに行くわよ」


「この恨みは忘れないからね、フローラ!」


「お、お兄ちゃん……またあとでね?」


 そう告げて、三人は教室から出ていく。


 緊張が抜けたせいなのか、静かになった教室に響く腹の音。


 あ……ごはん、ほとんど食べれてねぇ……。


 こうして俺は空腹のまま体イクっ祭の練習に励むハメになったのであった。



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ようこそサキュバスだらけの天獄学園へ 木の芽 @kinome_mogumogu

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