第13話 読みにくい名前

   読みにくい名前


 「じゃあ染谷さんの事を覚えていられるのはそういう事が理由なんだ」

「そう、だから俺の存在を覚えていられるの蓮だけだよ」

「いくら神様でもひどくない」

「なにがだ? 」

「だって自分が殺されたにその恨みを染谷さんに返させてその上他人からも忘れさせるなんて」

「神様は人じゃない。人の価値観で推し量ることは野暮さ」

「でもみんなに、親も友達も嫌っていた人も誰も彼れにも覚えてもらえてないなんて」段々話していくうちになんだが感情が昂ぶってきた。

「おっなんで泣いてるんだ」

「泣いてないし、ゴミが目に入っただけだよ」

「そうか」飄々としているとはこんな感じなのだろうと僕はあの人は優しくにやけた顔を認識した

「だって染谷さんは僕の命を助けてくれた。悪い人たちに責任を取らせた。そらゃずるい事をしてたこもあるけどあくまで普通の人で何にも悪い事してないのに。自分の命をかけて子供を救った人が… その人が大切な人にも、その人を大切に思う人にも忘れられちゃうなんて」今まで会ってきた人達には沢山の知り合いや家族、子供がいる人も。もし生きていたら子供だって居たかも知れないのに。

「お前は本当にいい子に育ったんだな」

「うん? 」

「蓮、お主は人のために正しき涙を流せる。良き青年になったものよ」何も残せなかった俺の生きた証がこの子だ。眼の中にあの見た光が見える

「いい子に育ってくれて俺は本当に嬉しいよ」

「何急にキャラ作ってんだよ、もう」

 僕は立ち漕ぎで坂道を駆け上がり一番上の辺りで大声で叫んだ。その声は森より吸い込まれ、それらの藍より深い所に消えていった。


 朝、お母さんの声で目が覚めた。カーテンを開けると眩しい光で目が痛かった。

「おはよう、お母さん。」

「おはよう蓮。何か怖い夢でも見た。眼が赤いわよ」

「え、そうかな。何も覚えてないけど」

「そう、ならいいけど大学生になったけどまだ子供ね」

「なんだよそれ」少しだけ頭が痛い。昨日のお酒のせいなのか。

「ふたりともおはよう」出張から帰ってきたお父さんが新聞を持って食卓に座った。

「あなた、食事中は読むのは辞めてっていったでしょ」

「そうだった、すまん」いつもと変わらない朝になんとなく安心した。昨日確か伴田さんに大学入学記念で飲みに誘われて、帰り道の記憶が無い。未成年での飲酒を両親にばれない様に気をつけないと。でもどうしてあの有名配信者と知り合えたんだっけ。ずっと長い付き合いの気がする、少し前に知り合ったはずなのに。

 「そうだ、蓮。昨日あのローマンってテレビに出てる人のところで夕飯をご馳走になったのだろう。知り合った経緯聞いたことなかったけどどうだったんだ? 」

「うーん、あんまり覚えてないかも」食パンにマーガリンを塗りながら生返事の様に返した

「そうか。そうだお母さんこの人誰か知ってるかい」お父さんは新聞以外に入っていたいくつかの郵便物からハガキ一つをお母さんに渡した

「うーん、誰だろうね。タニ? ヤ? どっちかしら。蓮知ってる? 」僕が分かる訳ないけど一応渡されたハガキを見る。そこには【故 染谷道浩 十三回忌のお知らせ】

「どうした? 蓮」

「えっ」お父さん自分の目元を指でタップして何かを伝えた。僕は自分の顔を指で触ってわずかに流れる小川を堰き止めた

「なんでもない。知らない人だよ、でもこの人の名前はは分かるよ。この人の名前は… 」


               終わり  

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