第3話 ユーズ新調!

 本部、魔人専門科・・・俗に言う犯罪対策本部である。対策は出来ていないが。

 魔人が出現してから、人間の犯罪は激減した為に存在意義が皆無になったのが犯罪対策本部である。紆余曲折あり、魔人専門に代わり現在に至る。実態としては魔人が出現した際の討伐、捕獲、管理である。

 だが、現実はそう簡単に討伐出来る程相手は軟弱ではなく、簡単に討伐出来る程の力を有していないのが現実であった。


 変わったのはつい最近の事である。魔人専門科に一つの報告が上がった。それは「魔人を一人仲間に入れた」である。

 基本的に魔人の処理は魔人専門科に分布されている特務魔人化第一班が当たっているのだが、いかんせん人数が少ない。あたる人が少ないのに相手する魔人は一筋縄ではいかなく、その関係で魔人以外の雑用を押し付けられていたのだが・・・急遽入った『L』の活躍により『A』の討伐が完了したのだ。

 圧倒的な短いスパンでの二体の魔人参入である。本部としては戦力が増すのは願ったり叶ったりなのだが、それは表面上の願いである。本音は自力でなんとか出来る範囲で力を持って欲しい、と叛逆を怖がる人間らしい考えだ。


 そんな本部長である、吉崎に呼び出されたのがユーズである。『A』の吸収により、拘束具が増え、夏であるのに場違いな感じに厚着になった彼女が彼と対峙する。ローブだけだったのが厚手の手袋までさせられている現状は極度の寒がりですと言っても誤魔化し切れないほどの違和感があるだろう。


「でだ。正直言って君が『A』を取り込んで力を増すのは別に良い。本題は彼、『L』の事だ」


「ライフ君ですか」


「そうだ。君の報告書を読んだ。・・・アレを君は制御できるのか? 私の判断だとギリギリのように見えたのだが」


 報告書、ライフが『A』を討伐し、暴走したライフを抑えたものの十数分後に呼び出しを食らった訳である。向かう車の中で簡易であるが文章を纏め、送信する形で報告書を認めた訳であるが。

 ユーズから見る吉崎の表情的に、報告書だけではなく映像も見て判断しているのだろうと理解できる。どこからの映像を見られたかは分からないので変な事は言えないだろう。

 特に緊張する意味はないな、と判断したユーズはガンガンに冷房の効いたこの部屋に心の中で感謝を述べながら口を開く。


「制御はできます。先の戦いで二つ目を解放しましたが、まだ三つは能力を隠しています。確かに彼の力は私が想定していたよりも遥かに上のものですが・・・吉崎の目的を考えると手駒は増えて困る事はないのでは?」


「吉崎さん、な。別に年下に呼び捨てで呼ばれて嬉しくはないな」


 ユーズの言葉に少し微笑んだ表情を見せる。

 吉崎の目的は限られた人にしか話していないものである。そして、その目的はユーズにすら話していない。どこから情報が漏れたのか考えをめぐらせるが・・・まあ、時間が経てば話す話題であったのだと諦める。


「だが、まあ、そうだな。君が制御できるなら私も目を瞑ろう」


「はい、では私はこれで・・・」


 と、頭を下げ、部屋を後にしようとするユーズを呼び止める。


「そういえば、君の『A』吸収に当たって一つ昇進だ。その関係で拘束具の新調があるから、帰りにでも技術部によると良い。要望通りのものが揃っている筈だ」


「そう言うのはもう少し早めに・・・」


 新事実を聞き、今度こそ部屋を後にするユーズ。

 昇進ということは現場に向かえなくなった訳である。一つ階級が上がるだけでここまで行動に制限をかけられるのか? と疑問に思ってしまうが本部の優秀な人材は中で確保しておこう、との考えであるのだ。先の話で『L』の制御の件で話し合っていたのに昇進とは。

 些か疑問が残る次第であるが・・・まあ、次の魔人が出る前になんとかすれば良いだろう、と歩きながら考える。


「彼の自我を持たせる方法ね・・・」


 最初の調べ物で何通りかの実験をしたのだが、それで自我を取り戻せる気配はなかったのだ。そう簡単に自由に能力を使って戦ってくれるとは思えない。ましてや初戦であるのに対し、初めて戦った時よりも格段に戦闘能力が向上していたのだ。それも相まって不安感しか残らないが。


 昇進、という事は今までの自分の立ち位置に誰かが入り、その上にユーズが来るって事になるのだ。誰が入るのだろうか? とワクワクする心で誤魔化す。そういえば殉職の件を話すの忘れてたなー、と思い出していると久しぶりの顔に出会った。


「ゆ、ユーズさん!! どうして『L』の野郎と一緒に行動してるんですか!!?? アイツはフェイルズさんを殺したんですよ!!」


 随分真新しい制服に身を包んだリックが叫ぶ。

 あー、そう言えばこの子達が居たのか・・・と、忘れていた事実に気づきを得るが。


「ん、リック配属先変わったの?」


 黒を基調とした制服のデザインは特務魔人化第一班のものではない。そもそもそんなお洒落な制服は支給されていないのが第一班である。そこまでお金が回らないんだね、と数年前から思っていた訳である。

 また話を逸らして・・・と愚痴るリックだが、随分前から同じような態度であるので直ぐに適応する。


「ええ、変わりましたよ!! 特務部隊の三班に再配属してもらいました! 流石に俺でもあんな事があってから、また元に戻るのは無理っす」


「ふーん、そっか。がんばってね」


 再配属かぁ。とそんな事が出来るほどホワイトになったのか、と感心しながら技術部に向かう。リックの静止の声が聞こえるがユーズは進む足を止めない。前までは同じ部署で、部下だったのだが。現在は違う。確かに同僚の死は堪えるものがあるが、それが原因で仕事に支障が出てしまっては意味がないのだ。

 部下の情緒は新しく配属されたって言う上司にお任せして内心ルンルン気分で技術部に向かう。要望が通っているって事はもっと利便性に考慮した、最先端ファッションを取り込んだ良い感じのものに違いない。感情が水平飛行なユーズであるが、乙女心は一応持ち合わせているのだ。



 チョーカーとバンクルだった。

 しかも爆破機能が備わったものらしいと技術部の人から聞いてユーズに対する殺意をひしひしと、質感を伴って感じるものになった。季節外れのコートと革手袋よりはマシなので体温的な問題はゼロになった。

 意外と心境はプラスよりなユーズであった。足は特務魔人化第一班がある別棟の一階に向かう。

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AZ 椎木結 @TSman

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