第14話 セックスレスにはならないように。

 もう一度同じ言葉を言って、煙を吐いた鷹山は項垂れた。

 鷹山は那智に告白されて交際していたのだそうだ。

 最初はうまく行っていたと言う。彼女はきつそうな見た目に似合わず尽くすタイプらしく、そこが可愛らしく思えてとても気に入っていたんだとか。

 だが、那智と付き合う前から派手に遊んでいた鷹山は、元カノやら過去のオンナやらが多い。そういう女子にずっと嫌がらせを受けていたらしいのだが、那智は自分からそれを鷹山に言ったことは無かった。ずっと黙って我慢していたらしいのだ。

「それにさ、そう言うの気にしなさそうって思ってたから。俺も迂闊だったんだろうな。」

「って、つまり?」

「あることないこと吹き込まれちまって、凄く悩んだ挙句、もう、これ以上続けられそうにないって。」

「それって、彼女の方から別れるってこと?」

「すっげ泣いててさ。悪い事しちまったなーって思った。俺の方はまだ未練あるけど、なんか可哀想で、もう何も言えなくなっちまった。俺がなんか言って女どもを止めても、一時的なもんでどうせまたやられるだろうし。そしたらまた泣かせるんだ。そう言うの、可哀想だからさ。」

 沈んだ声で話す鷹山の言葉を聞いて、身につまされる。

 女子にはそう言うのがあることを雅自身も良く知っている。何故に別れた男の事がそうまで気になるのか、雅には正直理解できない。新しい彼女をいびるくらいなら、別れなければよかったのでは、と思ってしまうのだ。

 しかし、元カレであろうとも、自分の気に入らない女と付き合うのは面白くないという理屈は、雅に理解できなくても存在する。

「なんつーかさ、守ってやれなかったって感じで、俺、すっげーダセェ。別れたいって言われた時は、ショックだったけど・・・色々わけを聞いた今じゃ、仕方ねぇ。」

 鷹山は、もう一度長くため息をついた。

 それからだ、妙に那智の事が気になるようになったのは。


 雅と那智は学部も学年も違うので、同じ授業を取ったりすることが出来ない。だから彼女が教室の外にいる時にはなるべく目の届くところに行くようにしていた。

 偶然を装い、学食にも彼女がいれば足を運び、ソフトボールの練習をしていると見れば、グラウンドへ出る。

 そして、自然に距離を詰めていき、彼女が雅に敬語を使わなくなった頃。

 こっそりと付き合うようになったのだ。

 大学の連中にバレないように、秘密で付き合い始めたのは、勿論。

 那智が雅の過去の女に手出しされないためだった。

 それを最初に那智に説明した時、なんとも妙な顔をしていた。本当は適当に言い訳して言い包めることも出来たけれど、あえて本当の理由を説明した。

「・・・鷹山先輩とのこと、知ってるんだね。」

 何とも言えない複雑そうな顔で、呟いた那智。

「俺って弱いから、守ってやれないかもしれないでしょ。だったら、そうならないよう気を付けるしかないじゃない。それには誰にも知られないのが一番だよ。」

 ワザとそう言って、甘えるように上目遣いで見つめた。那智は、くすくすと笑って、頷いたのだ。

「そっか。そうだね。」

 卒業するまでの三年間隠し通して付き合った後、互いに就職した後も交際は続き、雅は那智と結婚した。



 大きいと気にしている顎を指先で持ち上げて、キスをする。雅は本人が気にするほど大きくないと思うし、ある程度の大きい顎だから、彼女はとても歯並びが綺麗なのだ。

「・・・なっちゃんの唇が、たまらなく甘いところが好き。」

 彼女の柔らかい手が、雅の身体の上を這う。まるで縋るように、時には慈しむように柔らかく触れてくるその手がとても心地いい。

「触ってくれる手の感触が、すごく優しくて好き。」

 その手を取って、自分の身体へ誘導する。

 躊躇いがちに自分の肌に触れてくる指が、痺れるような快感をもたらしてくれるのだ。興奮して一層昂ぶってしまい、洩らしそうになる声を飲み込んだ。

「・・・っ、優しく甘やかしてくれるのが好き。強くて優しくて、好き。」

 布団の中で絡み合うように身体を重ね、体温を与え合う。

 柔らかい那智の身体が好きで、その肢体に自分を埋めるのが好きだ。

「なっちゃんが、大好き。・・・全部、好き。どこと言われても困るくらいに、大好きだよ。」

 耳元で囁けばまた震える。

 照れてその顔を赤くして、自分の胸に埋めてくるところが、可愛いのだ。

 何度でも出来そうな気がする。それほどに那智は雅を刺激する。

「だから、求婚プロポーズしたんだ。」

 恥ずかしがり屋で照れ屋でちょっと弱虫で、・・・凄く優しくて、可愛いから。

 弱い振りをして頼れば、すぐに甘やかしてくれる那智がたまらなく愛おしい。きっと振りであることは彼女もわかっているのだろうけれど、それでも許してくれるのは、那智が強くて優しい人だから。

 照れたように笑った那智が顔を上げてこちらを向いた。

 雅の返答は合っていただろうか。彼女が満足してくれる答えになっていただろうか。

 これが正解だったのなら、雅だって問いたい。

 どんな答えが返ってこようと、雅は嬉しくなるだろうとわかっているけれど。

「じゃあ、なっちゃんはどうして俺と結婚してくれたの?」





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