3人目 個人事業主
何度目かのやり取りで大抵の人が「顔は見せないんですか?」と聞いてくる。
この世界では顔見せ必須なのかと少し理解できてきた。
前回、前々回の反省を活かし、やり取りを重ね過ぎずに出会いたい。
雑談だけのやり取りが続く人は時間の無駄だと感じるようになった。
そんな中、一人、良さそうな人を見つけた。
数度、チャットしたあと、オンラインで話せないかとのこと。
なるほど。
電話かオフラインしか頭になかったが、その手もあったか。
すっかり固定観念に囚われていた。
目から取れた鱗の代わりに、その相手との約束を取り付けた。
当日。
仕事でしか使わないオンラインツール。
お互いに顔を見せない状態で出会ったので、顔を見るのは今日が初めてだ。
オンラインで顔を見せるというのは、オフラインで会うのとは違う緊張感がある。
なんだかどきどきする。
時間になり、もらったURLで接続する。
画面がつながると同時に向こうの顔を見つめる。
なかなか自分のタイプじゃないか。
声も割と好きだ。
何より話していて楽しい。これは当たりかもしれない。
話をしているうちにそれぞれの生き方や夢について語るようになった。
人生の優先順位と本当にやりたいことを語っていく中で
「時間やお金に囚われない自由な人生を生きたい」
「会社に勤めながら、個人事業主として稼いでいる」
「考えが自分に近いし、向いていると思う」
会社勤めという生き方しか知らなかった自分にとって
そんな生き方や考え方を知ることはなかなか衝撃的だった。
その日は結局、プライベートの話がほとんどできずに終わった。
そのあとも何度か向こうから誘われる形でオンラインで話をした。
いつも話題はワークライフバランスでもちきりになる。
向こうも特にこちらのプライベートの話を聞いてくることはない。
なんとなく違和感を感じていたころ、ついにそのときがやってきた。
「自分がお世話になっているビジネスパートナーがいるので紹介したい」
おっと、そういうことか。
これは何ていうんだっけ。
マルチ、いやネットワークビジネス。
人を疑うのは良くないとは思いつつ、これまでの言動がすべて腑に落ちた。
同時にとても残念な気持ちになった。
純粋に自分の人生を良くしたいと思ってくれての誘いかもしれない。
ただ、自分に興味があるわけではないのだ。
だからプライベートの話もしないし、聞かなかったのだろう。
とはいえ面白そうな話だと思ったので、「詳細を聞いてから考えたい」と伝えた。
最後まで聞き、悩んだ挙句、今の自分には必要ないという結論に達した。
これまでいろいろと話を聞いてくれ、時間も割いてもらったので申し訳ない。
いや、本当に自分のためを思ってのことなら断るのが礼儀だ。
相手は急に早口になり、あからさまに態度が変わったのが分かった。
その瞬間、何かが終わり、一気に熱が冷めていくのを感じた。
それ以来、お互いに連絡を取り合うことはなかった。
マッチングアプリでとりあえず会ってみた結果 @akai_tomako
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