第6話 最後までトラブル続き
それから、俺の腕時計を見ると午前十時。呼ばれたのが正午と記憶しているから滞在はあと二時間。
そろそろ村も準備の時間だ。俺は指笛を鳴らした。
三十分ほどしてあの頭領と手下三人がやってきた。だいぶ戦力は削がれたようだ。じゃ、狂人モードに切り替えるか。
「なんだ? 村の様子がおかしい」
「あちこちから火が立っている」
訝しむ賊の前に俺はエアガンを担ぎ立ちはだかった。
「あんまり遅いから俺が先に村を滅ぼしてやったぜ、へっへっへ」
「な……!」
「はったりだ! こいつ一人でできる訳ない!」
その時、大きな爆発音が村のあちこちから聞こえてきた。
「なんだ! あの音は!」
「村のあちこちに爆薬を置いたのさ、お前らも道連れにしてやる、ヒャハハハ!」
嘘である。節を抜かない竹を火の中に投じると中のガスが膨張して破裂する。延焼しないところで焚き火をしてもらい、竹を投げ込むように指示してあるだけだ。もちろん竹の破片から守る盾も作らせてある。
からくりを知ればなんてことはない。しかし、知らないものが見れば本当に爆薬を使って村を焼いているように見える。
「お、親方の言った通りだ。途中の罠といい、コイツ狂ってやがる」
「さーて、お前らはどうしてやろうか? こないだみたいに踊ってもらうか、それともこいつを喰らうか」
俺はポケットからレーザーポインターを出し目潰しを図った。
「うおっ! 目が眩しい!」
「目を瞑って手で隠せ!」
「ひっかかったな、本命はこっちだ」
俺はガスマスクを素早く着け、催涙弾を一つ投げつけた。
「ぐわぁー! 目が、目がぁ!」
「ゲホッ、い、息がっ!」
手下二人が目や口を押さえてうずくまる。
まさかここで某映画のセリフが聞けるとは思わなかった。しかし、頭領だけは素早く目や鼻を布で防護したらしく、そのまま立っていた。
「己、レーザーに催涙弾とはどこまでも卑怯な」
「って、賊に卑怯と言われてもな。って、そんな言葉を知ってるということはあんたも平成から来たのか?」
「ああ、新型インフルエンザから逃れようと神隠しの伝説のある神社へ願ったらここへ飛ばされたのさ」
「なあるほど、だからエアガンや村正のことを見破ったのか。でも現代より衛生が悪い時代に来ちまった訳か。本末転倒だな」
「うるさい」
「じゃ、あんた相手にはハッタリは通用しないと言う訳だ」
「どうせ、お前の装備はサバゲー用のエアガンとナイフくらいだろ。こちらは刀に大鉈、数年過ごしたから筋力もある。どちらが有利かわかるよな?」
「それはどうかな?」
俺はポケットからピンを抜き、手製の手榴弾を何個か投げた。そろそろ俺のタイムリミットが来る。ちょうどめまいの感覚もしてきた。
「手榴弾か! それに貴様の姿が薄くなっているということは現代に帰るのか!」
「あーばよっと」
「そうはさせるか!」
頭領はなんと俺にしがみついてきた。自爆して俺と心中するつもりか! ……ん? 爆破しないということはこいつは手榴弾を持っていない。
「お前とは現代で決着を付ける!」
「そんなこと言って、本当は現代に帰りたいだけだろっ! 知らねーぞ!」
「おお、賊の頭領が竹様と共に消えていく」
「我が身を犠牲にして、竹様……ありがたや、ありがたや」
手榴弾を避けながら拝んでる村人を微かに見ながら俺達は現代に戻った。しかし、街のど真ん中だったのであっという間に頭領は銃刀法違反の現行犯で捕まり、俺も参考人として留置場にぶち込まれた。
村は気になるが、頭領がいなくなればああいうのは瓦解するのが相場だ。
「やっぱ、最後までトラブル続きだなあ」
俺がぼやくと頭領が疑問を投げかけてくる。
「なんで相部屋なのに、床にテープが貼られて距離置けと指示される? それに街の者もお前もマスクを付けてるのは何故だ?」
「あー、平成から来たというのはひっかけだ。実はあれから十年ほど経って元号変わって令和になった途端に、新型インフルエンザとは比べ物にならないヤバいウイルスが蔓延してるからだ」
「嘘だろ? ワクチンや薬は?」
「あるにはあるが、ウイルスがコロコロ変異するからイタチごっこ状態」
「お前、騙したな! 元の時代に帰せ!」
「元って、十年ズレてるけど現代が元の時代だろ!」
今回は最初から最後までトラブル続きだ。俺は隣で元山賊の喚き声をBGMに頭を抱えるのであった。
タイムトラブラー〜タイムスリップしたら「ひとり七人の侍」する羽目になってしまった〜 達見ゆう @tatsumi-12
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