第372話:エピローグ2 それからの話をしよう
俺は、冒険者を休職した。
というのも、王国から、神聖騎士として本格的なお勤めを乞われたからだ。
ラーメ領騒動、その以前からあったスヴェニーツ帝国特務団の起こした事件のおかげで、王都カルムの守護戦力は危険レベルにまで下がった。
セイム騎士団をはじめ、王国軍の主力を失い、再編成が必要となったのだ。いまだ魔王の欠片など、1000年前の闇を利用しようとするスヴェニーツ帝国が、いざ戦争を引き起こしたら、それを守る戦力が必要だった。
すでに敵が準備を整えている段階で、軍備を整えないのは国政としては愚かの極みなのだから。
冒険者は自由ではあったが、家族の未来のためにも、俺は王国の戦力が整うまで、守りの要として軍に籍を置くことにしたのだ。
……だが、ひとたび戦力が整ったら、冒険者に復帰しようと考えている。
もちろん、有事とあれば神聖騎士として動くのだが、小規模な問題解決には、冒険者という身分は実に都合がよい。これにはシンセロ大臣ほか、国王陛下もお認めになられている。
というわけで、俺が王国軍で働いている間、リベルタクランもまた変化を強いられることになった。
一応、クランは存在しているが、その活動は不定期なものとなった。俺が王城務めということもあるんだけど。
当初は、シィラが二代目クランリーダーを務めていた。彼女はやはりというか体を動かしているのが好きで、ときどきクエストをこなしては、修練もまた欠かせなかった。
が、しばらくすると、彼女は俺の子を身籠もったので、いよいよリベルタの活動は低調となった。
なお、身籠もったのは、シィラだけではなく、ルカとヴィオも子を授かった。……やることはやったよ、俺も。
しかしまあ、子供ができたとなると、気持ちが頑張れるから不思議だった。そしてより妻たちが愛しくなる。
ヴィオの父であるマルテディ侯爵も、ルカとシィラの父であるボークスメルチ氏、奥さんのクレハさんやナサキさんも、早く孫の顔がみたいのか、王都にきて色々面倒を見てくれている。こういう助け合いって、家族だよなぁ……。両親がすでにいない俺としては、シミジミと思うところもあるわけで。
……と、リベルタメンバーたちの話だったな。俺が冒険者として休職でも、手伝いというか、俺の部下という扱いで、ついてきたのが何人か。
イラは、世話係、というかメイドさんで俺の補佐をしている。微笑みシスターは、微笑みメイドさんとなり、俺の下で細かな面倒を片付けてくれる。
「誠心誠意、お仕えするのが私の望みです。……甘えてくれてもいいんですよ?」
などと、時々誘うようなことを言ってくる。やれやれ。
セラータは、アラクネから人間に戻ったが、俺に仕えると騎士として、よく働いてくれた。
王国軍の新設騎士団――神聖騎士団の団長ということになっている俺だけど、彼女は副官として、やはり俺の周りで忙しく働いていた。
エルフのファウナも、俺付きの専属魔術師として、補佐を務めている。守護者に仕えるのが使命という彼女は、俺がどこでどうしようと付き従うつもりだった。
なお、ファウナとの契約から、カイジン師匠も神聖騎士団に在籍し、剣術教官として新兵をしごいている。適任だな、ほんと。
白狼族のディーは、俺付きの専属治癒術士として、神聖騎士団に所属している。俺のところにいる、という点ではディーもファウナ同様、尽くしてくれている。
この神聖騎士団には、ヴィオもいて、俺の腹心――参謀兼任護衛というポジションにいる。……参謀と護衛って同時にできるものなのか少々疑問に思うが、俺の周りにいるという意味では、さほど変わらない。彼女は、貴族との付き合い方や軍組織について、俺を助けてくれた。なお、先にも言ったが、身籠もってからは騎士団をお休みするんだけどね。
ヴィオに仕えていた、ガストン、ゴッドフリー、トレは神聖騎士団所属となり、特にガストンは、騎士団では一中隊の長を務めた。
そしてカメリアさん……カメリア・ロンキドは、神聖騎士団では、俺に継ぐナンバー2である副団長となった。元々、王国軍では評価されていた彼女であるが、ラーメ領遠征に従軍したことも加味されて、俺の補佐をしてくれている。
騎士団の副団長といえば、まあ出世コースに乗っているわけで、カメリアさんの副団長就任は、ロンキドさん家族も喜んでいた。
ロンキドさん一家といえば、リベルタクランのSランク魔術師だったニニヤは、クランを脱退した。
元々彼女は、自分の力量を上げるために、アウラに従事していた。だから実力がついた以上、クランに留まる必要はない。本人はまだ残りたいと思っていたようだが――
『開店休業に近いリベルタにいても経験を積めないわよ?』
と、師匠であるアウラに言われ、彼女の薦めもあって、王国の魔術団に入団した。なお先方は、若きSランク魔術師を大歓迎した。
そのアウラは、リベルタ三代目リーダーに就任したが、基本、有事以外はだらけている。
「ダラけていないわよ、失礼ね!」
自身の興味のあることを調べたり、実験したり、気がむいたら冒険者の魔術師組に、魔法教育をしている。
アウラの分裂体であるラウネも同様に、研究活動に没頭している。アウラは冒険者ギルドに顔を出すが、ラウネは引きこもりを決め込んでいる。
「外に出る意味がある? 買い出しなら他がやってくれるし」
引きこもりドリアードといえば、彼女の下で、ペルドル・ホルバが助手として働いている。
ドラゴンオーブの影響で、すっかり改心させられた彼は、毎日の神への祈りと懺悔の心を忘れずに過ごしていた。
錬金術師として研究する一方、王都教会に復帰したメントゥレ神官長から、神の教え学ぶのが日課だった。……ちょっと効き過ぎじゃないかとも思う。
さらに彼の作ったハイブリッドたちも、今ではラウネの研究室の助手である。
さて、残るメンバーだが、ネム、リーリエ、マルモ、ユーニ、カバーンは、ベスティアとゴムの分裂体を連れて、ハクの操る神船で旅をしている。
マルモは、仲間たちと色々な場所を訪ねながら、現地の鍛冶屋巡りをして、鍛冶の腕を鍛えている。
ネムは、『目指せ、シィラ姉さん!』宣言。戦士として高みを目指すらしい。心意気はよし。彼女にとっての自立なのかな。
「オレも修行してきますよっ、兄貴ぃ!」
カバーンはどこまでも熱かった。それに影響されたのか、ユーニもドゥエーリ族の伝統に従い、修行を兼ねて旅に同行した。
リーリエは、外の世界を見たいという目的でリベルタに加わっていた。だから、王都に留まる俺のところより、旅に出る者たちについていくのは当然だったかもしれない。こういうところはハクも似ているかもしれない。
「好奇心だよ。好奇心。人生には好奇心がなくちゃ」
ハクは穏やかにそう言って旅立った。
仲間たちは旅をしているが、転移できるリーリエは、時々俺のもとに戻ってきては、旅の話をしてくれる。
だから今どこにいて、何をしているのか情報交換はできた。俺やルカたちも、その話が楽しみだし、今は皆も元気というので、あまり遠くにいるって認識は薄かったりする。
・ ・ ・
「すっかり大きくなったなぁ……」
俺は、ルカのお腹を見やる。妊婦さんだからね、丁重に丁重に――
「もう、少しは動かないとよくないのよ」
ルカが少しむくれた。あまりに丁寧すぎて、嫌味に感じたのかもしれない。妊娠中は、感情の浮き沈みが激しいから、より気をつけないといけない。
「ゴムちゃん、洗濯物、とってきてもらっていい?」
『いいよー』
黒スライム――ゴムが庭へと出ていく。リベルタホームでの静かな一時。……いや、後ろで、ダイ様とオラクルが何か言い争っている。こりない姉妹だ、今度は何が原因だ?
「賑やかだね」
ルカが目を細める。
「私たちの子供も、あんなふうに仲良く喧嘩したりするのかな?」
「……そう、だな。きっとそうだ」
ルカの子、シィラの子、ヴィオの子。男の子か女の子かはわからないけど、一度も喧嘩せずに大人になる兄弟姉妹もいない。
俺は、子供たちを愛して、いっぱい喜んで、たまに辛くても叱ったりすることもあるんだろう。期待と不安――でも俺以上に、ルカたちお母さんはもっとその思いが強いんだろうな。
「――なあ、聞いてくれよ、ヴィゴ」
「主様よ、姉君のセンスはサイアクなのじゃ――」
歳の離れまくった姉妹がうるさくやってきた。
「ダイ様、それにオラクル、今度はいったい何だ?」
聞いてみれば、真魔剣と神聖剣は答えた。
「生まれてくるヴィゴの――」
「――子どもの名前じゃ!」
お前たち気が早いよ。というか、何をちゃっかり名付け親になろうしているんだ? それは俺と、ルカやシィラ、ヴィオで決めるからさ。
でもまあ、気持ちは嬉しい。お前たちには随分と助けられた。特にダイ様。持てるスキルのおかげではあるんだけど、お前と出会わなければこの幸せもなかった。
ありがとうよ、戦友。そしてありがとう、持てるスキル。おかげで俺、モテる男になれたよ。
――END
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最終話でした。ここまでお付き合い頂き、感謝の極みです。評価やレビューなどいただけましたら、約一年の執筆の苦労が報われます(またこれからの励みになります)。
連載中の作品、ただいま制作中の新作などが出ましたら、またよろしくお願いいたします。ここまで、ありがとうございました!
モテる男になりたいと願ったら、持てる男になりました。あらゆるものを持つスキルで世界最強! 柊遊馬 @umaufo
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