第371話、エピローグ:モテない男が持てる男になったら
祝勝パーティーの後、久しぶりに王都カルムにあるリベルタホームへ帰ってきた。
ラーメ領遠征が終わり、ようやく一息というところだ。久しぶりの家は、少々埃っぽかったので、管理妖精さんに硬貨をお供えし、掃除してもらった。
そして風呂に入って、その日は寝た。
翌日は冒険者ギルドへ報告とご挨拶。俺はSランクの冒険者だからね。ラーメ領遠征の報告はしておかないといけないわけだ。
「おめでとう、ヴィゴ。いや、神聖騎士殿」
「やめてくださいよ、ロンキドさん」
久しぶりといえば、ギルドマスターのロンキドさんと顔を合わせるのもそうだ。ギルドのスタッフも相変わらずのようだったけど。
「討伐ご苦労さま。お前たちが始末してくれてよかった。自分に番が回ってくることがあったら、本当に終わりだと思っていたからな」
「ご謙遜を。ロンキドさんもお強いじゃないですか」
Sランク冒険者。俺はこの人に憧れて上を目指したんだぜ。
「もう年には勝てないよ。短時間ならともかく、戦場に体がついていかない」
ロンキドさんは例によって淡々と言った。俺はラーメ領での行動と報告をしたが……所々、眉をひそめられた。
「やはり魔剣と神聖剣が強いな。それがなければ、まだ討伐遠征は終わっていなかったかもしれない」
「自分で言うのもなんですが、ダイ様とオラクルには助けられました」
そのダイ様とオラクルは、それぞれ剣から出てきてドヤっている。ロンキドさんは言った。
「まあ、お前なら、たとえ聖剣や魔剣がなくとも、持てるスキルで何とかしただろう。それこそ、敵の使っている魔剣を奪い、それでなぎ倒したり」
「確かになぁ」
ダイ様が腕を組んで、考える素振りを見せる。
「ぶっちゃけ素手のほうが自由度高そうなんだよなぁ、ヴィゴは。まあ、我のブラスト系の掃討技にはてんで太刀打ちできぬだろうが、個々の格闘ではむしろ、素手のほうが強かったまである」
なんか早口になってません、ダイ様?
「そうかな」
「そうだぞ」
「ドゥエーリ族の若い衆とやった時など、圧倒的だったではないか」
オラクルも、ダイ様に同意とばかりに言った。あの時はさすがに魔剣も神聖剣も使えなかったけどさ。
「シィラと初めて戦った時も、素手で投げ飛ばしまくっておったろ?」
ダイ様に改めて指摘されると、否定はできないよな。
「適材適所だよ」
「謙虚な奴よのぅ。嫌味じゃ嫌味」
楽しそうなオラクルである。ロンキドさんは咳払いした。
「それで、敵は魔王の娘とスヴェニーツ帝国の特務団だったと」
「はい」
ルースの兄、ペルドルから証言はとっている。竜神の洞窟での白ローブ、そして領主町でラウネたちが遭遇した黒装束など、これまで暗躍していた敵と完全に一致である。
「今回は、そのどちらも討ったことで、魔王絡みの敵の途絶えた。あとは、かの帝国の動きに警戒しなくてはなるまい」
ロンキドさんはそう言った。周辺各国と連携し、帝国への警戒と、場合によっては報復などもあり得るという。
「その時は、神聖騎士殿にも出番があるだろうから、当分、魔剣と神聖剣を手放すなよ」
「はい」
「当然だな」
「まあ、わらわたちがおれば、何とかなるだろう」
オラクルは楽天的だな。今回の騒動は概ね解決だが、世界に目を向ければ、まだまだ安心はしていられない。外交で決着がつけばいいが、そうでなければ、戦争になるんだろうな……。なってほしくないが。
ひと通り報告が終わると、ロンキドさんは改めて「ご苦労だった」と俺を労った。
「しばし休め。心の回復も必要だ。今後の身の振り方を考える意味でもな……」
「今後……」
「そうそう、婚約おめでとう」
「あ、ありがとうございます!」
ちょっと油断していた。俺の婚約話は、昨晩の祝勝パーティーの場で、貴族たちの前に披露されたが……どうやら、王都内にもすでに伝わっていたらしい。
「しかし、いきなり3人か……よくやるよ」
「ロンキドさんだって、奥さんは3人いるじゃないですか」
「でも、一度に結婚したわけじゃないぞ」
ロンキドさんは真面目ぶるが、すぐに表情を崩し、片目を閉じた。
「以前、俺は言ったな。『お前は俺以上の冒険者になれる。そうしたら、女にモテるぞ』って」
叶ったな――というロンキドさんの言葉に、俺は笑みを返した。
「ええ、本当に」
・ ・ ・
後日、俺は、ルカ、シィラ、ヴィオと結婚した。
伯爵になったせいなのか、神聖騎士になったせいか、式はわざわざ王城で開かれた。その後、王都の大通りをパレードと、何とも派手な結婚式となった。
俺の、いや俺を含めてリベルタクランメンバーである妻たちのこれまでの活躍を称え、王都をあげてのお祝い行事となった。……何ともこそばゆい。ある程度目立つのは仕方ないが、限度というものがあるというのだ。
ルカなんてすっかり萎縮してしまっていたが、シィラはいつものように堂々としていたし、ヴィオも侯爵令嬢として慣れた様子で、声援に応えていた。
3人のウェディングドレス姿は、それはそれは綺麗で――俺も正装はしたけど、俺でいいのかなって、ちょっと自信ない。
「ほら、しっかりしろ、お前様」
シィラは、たっぷりあるお胸様を堂々と突き出すように背筋を伸ばす。
「ビシッと決めてくれ」
「ありがとう、シィラ。……綺麗だよ」
「……! そ、そう……」
急に赤くなって小さくなるシィラである。微笑ましいものを見るような目になるヴィオ。ルカも苦笑している。
「もちろん、ヴィオも、ルカも綺麗だ。そのドレス、よく似合っているよ」
「似合っているのはドレスだけ?」
ヴィオが腰に手をあてる。面倒ムーブ。
「まさか、君たちが着てのドレスだろ。ドレスだけ、って言うなら、俺はドレスと結婚しているよ」
「ふふ」
ルカが微笑し、ヴィオも満更でもない顔をした。
「3人とも、ありがとうな。俺についてきてくれて」
感謝してもしきれない。追い出され、ひとりになってから最初に仲間となって、それからずっと過ごしてきたルカ。初遭遇から認められた後は、俺一筋だったシィラ。最初は反目したけど、仲間になってからは支えてくれたヴィオ。お前たちに会えて、本当によかった。
「私も、ヴィゴさんに会えてよかった」
ルカが満面の笑みを浮かべた。
「私、いま、幸せです!」
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次回、最終話。
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