一件の新しいメッセージがあります。/雪六華
名古屋市立大学文藝部
一件の新しいメッセージがあります。
「もしもし。はい、私、経理課の──と申します。──さんはいらっしゃいますでしょうか。はい、はい。では、よろしくお願いします」
電話の向こう側にいる見えない女性社員に軽く会釈すると、受話器から電子音のメロディが流れてきた。電子音というとポップというかテクニカルというか、軽やかで明るいイメージがあるけれど、『保留中』を知らせるためだけに紡がれる機械的な音色は、息が詰まりそうな重苦しさを
取り次ぎ相手は中々出てくれない。はぁ、と相変わらず流れる旋律相手にため息を
ついでに調べた日本語訳の歌詞が、おぼろげに頭の中を駆け巡る。
あぁ、愛する人よ 残酷な人
あなたはつれなく私を捨てた
最初の一節以外は単語程度しか覚えてなかったけど、この後は『あなたが大好き! でもあなたは私を捨てるのね』みたいな、恨みと愛の詰まった言葉が並んでいた気がする。
この歌詞を書いた人も、私と同じ気持ちだったのかな。
ひと月前、結構な振られ方をした。同じ会社に居る年上の上司で、妻子のある人。要するに、禁断の恋ってやつ。
優しい人だった。雰囲気の良いレストランで手を取ってエスコートしてくれた。一度ぽろっと零しただけの誕生日を覚えていてくれた。ラブホテルの真っ白なベッドの上で、何度も愛を
それに比べて、私は
あぁ、愛する人よ 残酷な人
あなたはつれなく私を捨てた
──そうだ。確か、
グリーンスリーブス、っていうんだっけ。この曲。
そう思い至ると同時に、何の前触れもなく旋律が終わりを告げる。私は愛想よく応答するべく、誰に見せるでもない口元を緩やかに
『もしもし、』
一件の新しいメッセージがあります。/雪六華 名古屋市立大学文藝部 @NCUbungei
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