第19話 俺、腹を決める

 辺り一面を覆いつくすオークの海。

 いきなり、オークの大規模襲撃が始まった。


 俺は塀に取りつくオークを殺すのに忙しかった。

 やばいな。

 終わりが見えない。

 前線基地の守りが無くなったら俺の力をもってしても対処できないかも。


「何を呆けているのよ。惜しみなく魔法を撃ちなさい」


 サマンサが兵士達に檄を飛ばす。

 だが、俺は兵士への魔力供給まで手が回らない。


「サマンサ、俺のそばに!」

「分かった。あれをやるのね」


 サマンサが俺のそばに寄ってきた。

 塀にとりつくオークを殺しながらでも、サマンサ一人なら魔力供給が出来る。


 サマンサが火球の魔法を撃ち始めた。

 だが、そんなのは焼け石に水。


 万を超える軍勢というのを舐めてた。


「どうするの。火球ファイヤーボール。このままだと全滅するわ火球ファイヤーボール

「王女様、お待ち下さい!」


 イレーヌがしゃしゃり出て来た。


「門を開けなさい。こんな所にはいられません。帰ります」


 兵士を鼓舞するかと思いきや、逃亡する為に門を開けろと言いやがった。


「開けてやりなさい。火球ファイヤーボール

「聖女様の頼みでもそれは」

「いいから開けなさい! 火球ファイヤーボール。責任は私が取るわ。火球ファイヤーボール

「はい、ただいま」


「どういうつもりだ!?」

「彼女には囮になってもらいましょ。火球ファイヤーボール


 上手く行くだろうか。

 裏門が開いたようだ。

 ここからだと逃げ出すイレーヌ達は見れないけど、敵集団が前線基地を迂回して移動する気配が感じられた。


 上手く行ったのか。

 いくらかは手薄になったようだが、依然として敵の終わりは見えない。


 魔力の圧縮はフル稼働でやっている。

 持ちこたえられているのは、いったん濃くした魔力はしばらくは漂うからだ。

 要するに即死地帯を設置している訳だ。

 ただ、オークが突撃すると魔力を吸い取ったり、魔力を散らしてしまう。

 俺のやっている事は、壁に穴が開いたら、塞ぐ様な作業だ。

 段々と即死地帯の高密度の魔力が剥がされていく。



 仕方ない、オークと心中するつもりで、大技をかましてやるか。

 今までやったのは循環、ポンプ、圧縮だ。

 魔力のバネや大砲なんてのも作った。

 螺旋の循環は面白かった。

 そうだ螺旋を大規模にしたらどうだ。


 大気の魔力を集めて回転し始める。

 魔力は竜巻状になり、オークを巻き込み殺し始めた。

 きつい、これを維持するのはきつい。


「どうしたの魔力供給が途絶えたわ。それに前面以外のオークが塀を壊し始めた」


 分かっているよ。

 話掛けないでくれ。

 集中が途切れる。


「みなさん、頑張りましょう。大精霊が何かするつもりのようです」


 兵士は懸命に魔法を撃つ。

 魔力が切れた兵士はサマンサの周りに立って祈り始めた。

 サマンサもそれにつられて祈り始める。


 竜巻が十分な規模に発達した。

 魔力が見えていれば目の前には轟々と渦巻く竜巻が目に見えたはずだ。


 俺はサマンサに目配せした。


「光あれ、邪悪を退けよ」


 俺は竜巻を解き放った。

 竜巻は一直線に進んで行きオークの死骸で道が出来る。

 よし、この調子で竜巻を作るぞ。


 2つ目の竜巻が出来た。

 サマンサに目配せした。


「道よあれ。道に立ち塞がる邪悪を退けよ」


 オークの死骸でまた道が出来る。

 3つ目の竜巻が出来た。

 サマンサに目配せした。


「平穏よあれ。邪悪は静まれ」


 オークの大群のほとんどは死滅した。

 俺は兵士の間を回ると魔力を供給してやった。

 兵士達がまた魔法を撃ち始める。

 ほどなくして残党も片付いた。


「奇跡だ。聖女様の奇跡だ」

「聖女様万歳」

「万歳」


 万歳の声が辺りを満たした。

 こうして、大規模襲撃は終わった。

 イレーヌはというと、逃げている途中で食われた痕跡が見つかった。


 南無。

 俺は馬車の残骸のところで手を合わせた。


「イレーヌは名誉の戦死よ。逃げ出したんじゃなくて、敵を引きつける囮に志願してくれたの。勇敢な事ね」


 サマンサがそう言った。


「分かってるさ。大人の事情ってやつだろう」

「ええ」


 そして、サマンサに正式な聖女認定が降りた。

 式の後サマンサに呼ばれた


「責任を取るという約束を果たしてもらうわ。あなたは私の婚約者よ」

「なんだってー!」


「聖女になるのに条件を出したの。条件は二つ。ザイクを従者から外さない事。18歳になったら聖女を辞めて結婚させる事。この二つよ」

「分かった。腹を決めたよ。責任の一端は俺にもある。一緒に聖女をやろう」

「そう言ってくれると思ったわ」


 俺達の闘いは、まだまだ続いていく。


――――――――――――――――――――――――

 終りです。

 まだ続く予定でしたが、打ち切りですね。

 ネタ的にはざまぁなしで健闘したかなと。

 いつかリメイクしたいと思います。


 この物語は幼馴染を聖女に仕立てて、裏で活躍するという構図でしたが、素直に活躍しないのはどうもいまいちのようです。

 書いていて裏で活躍するのは意外に面白くなかった。


 それでリメイクするなら女主人公で婚約破棄とかやってみたいですね。

 TSにするかどうかは分かりませんが。






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魔力を体内でひたすらグルグルしてたら無敵になりました 喰寝丸太 @455834

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