第18話 サマンサ、嫌がらせをされる

「これ捨てて来て」


 サマンサに用事を言いつけられた。

 ゴミを見ると制服の残骸だった。

 ズタズタに刃物で切られている。


「どうしたんだ」

「イレーヌの報復よ」


 ああ、虐めというか嫌がらせか。


「ハデスに警戒するように言っておくよ。俺も暇な時はサマンサのテントを見張る」

「ええ、お願い」


「久しぶりに村娘だった時の服を見たよ。懐かしいな」

「私服がこれしかなかったのよ」


「お届け物です」


 サマンサに贈り物が届いた。

 贈り物が届くのは珍しい事じゃない。

 聖女と呼ばれるようになってからは毎日だ。


「えっ、いいタイミングね」

「ドレスじゃないか。誰が贈ったんだろう。兵士にしては高そうだな」

「送り主は書いてないわ。メッセージカードには麗しいあなたにとしか」


「カードも高級そうな感じだ。貴族だな。惚れられたかも。大人だとするとロリコンかも知れない。気をつけろよ」

「分かっているわ。ドレス着たいから出てって」


 ゴミを捨てに行く。

 貴族から贈られたドレスを切り刻まれたら、ややこしい事になるんじゃないか。

 ありえるな。

 次の犯行は阻止しないと。


 サマンサは犯人がイレーヌだと思っているが、どうなんだろ。

 そう単純な話かな。

 イレーヌ側に探りを入れたい。

 イレーヌはパスだな。

 話すのならメイドだ。


 俺は食堂に行った。


「悪いけどお菓子を作ってくれないか」


 料理人にそう注文した。


「聖女様が召し上がるのですか? やった、故郷に帰ったら自慢が出来る」


 イレーヌのメイドが食べるんだが、言わぬが花だな。


「なるべく早く頼むよ」

「はい」


 お菓子が出来上がる間に考える。

 サマンサのテントの一角は女性がかたまって暮らしている。

 理由は防犯の為だが。

 夜、男が出歩いていれば警備の兵士に見つかる可能性が高い。

 ハデスみたいな特殊な能力がない限りだ。


 犯人は女だな。

 イレーヌ本人が夜に出歩くだろうか。

 それはなさそうだな。

 やっぱりメイドが怪しい。


「できました」


 お菓子が出来上がったみたいだ。


「早いな」

「ドーナツです」


 美味そうなドーナツだな。

 一つ味見を。


「いくら聖女様の従者でも許せません」

「あー、これはあれだ。毒見という奴だ。君を信用しているが、毒の混入は一瞬で出来る」

「なるほど、すいません」

「いや良いんだ。分かってくれれば」


 ボロが出ないうちに退散しよう。

 メイド達は水場にいた。


「お菓子を貰ったんだ。一緒にどう?」

「まあ」

「頂きましょ」

「どう、イレーヌ様の手駒にならない?」


「考えておくよ」


 つかみはなんとかなった。

 さて、犯人捜しだが、どうやって切り出そう。


 こうするか。


「前線基地には男が一杯いて、もてるんじゃない」

「まあね」

「ええ」

「それほどでも」


「でも逢引きなんかできないでしょ」

「そうでもないわ。やる気になれば、テントからこっそり出て行けるわ」


「三人はこの前線基地で良い相手がいるのかな」

「口説いてるの」

「年下はちょっとね」

「イレーヌ様の手駒になったら考えてあげるわ」

「考えてみるよ。あんまりサマンサを待たせるといけないから、もう行くよ」


「ごちそうさま」

「美味しかったわ」

「またね」


 夜、俺はメイドのテントのそばで張り込みを開始した。

 昼間の会話はなんだというと、アリバイ工作だ。

 なんのアリバイかというと、俺がメイドに惚れたという設定だ。

 好きになって、居ても立っても居られなくなって、こうしてストーカーもどきの態度を取ってしまったという設定だ。


 おっ、メイドの一人が出て来たぞ。

 そしてなぜかイレーヌが出て来た。

 悪だくみか。

 物陰に潜んで会話を聞く。


「こんな夜更けにどこに行くのです」

「それは……」


「言えない事なのですか。男ですか?」


 メイドの逢引きを邪魔する主人か。

 今回はハズレか。


「何をぼやぼやしてる」


 黒ずくめの男が現れた。

 あれっ、話が変な方向に。


「曲者ですわ」


 イレーヌが騒ぐ。


「ええい、こうなったら始末を」


 黒ずくめは短剣を抜くとイレーヌに襲い掛かった。


「ひっ」

「尻尾を出したな」


 ジェムスが現れて阻止した。

 どうなっているんだ。


 俺も出て行くとしよう。

 登場人物はメイド、イレーヌ、黒ずくめ、ジェムス、俺。


 ジェムスは黒ずくめを取り押さえるとどこかに連れて行った。

 イレーヌを見るとまた腰を抜かして漏らしている。

 締まりのない女だな。


 とりあえずイレーヌを立たせ、テントに放り込んだ。

 メイドと俺は向き合う。


「言わなくても分かる。スパイにそそのかされたな。分からないのは、制服を切り裂いた事だ。スパイと制服にどんな関係が」

「あれは」

「言いたくなければ良い」


「そうはいかん」


 ジェムスが戻ってきた。


「説明してくれ」

「サマンサの暗殺命令が出た。スパイはこの女に殺せと吹き込んだが。躊躇ちゅうちょしてしまった。妥協の産物が制服の残骸だ」


 ああ、そうか。

 サマンサを殺そうとしたが、ためらった。

 それで何かしないとと考えて制服か。

 分かってみれば、ありえそうな話だ。

 しかし、サマンサの警備体制を見直さないとな。

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