光の中の確かな事

 ルカと会ったあの踊り場からだいぶ登ってきた。

 サラの息は荒く、持ち上げる足も重そうだ。

「ルカー! 頂上、まだ見えないのー?」

 ルカはサラの数段上を登っている。風に運ばれるサラの大きな声に、ルカは振り返って言った。

「もう少しだよ。門番をしてる騎士たちがいるはずだから、あまり大きな声は出さないでくれよ、サラ」

 そのルカの言葉に、サラは頬を膨らませた。

「ルカに言われると、なんだかムカつくわ」

「いつもと逆ね」

 そう言うピピはケラケラと笑っている。

 サラがドスドスと音を立てるように、何故か立ち止まっているルカに近寄って行くと、ルカは自身の口元に人差し指を当ててサラを見た。

 サラは「何よ」 と言いながら、無愛想な顔をしている。

「着いたぞ、頂上」

 ルカの言葉に、「えっ?」 と声を漏らしたサラが上を見ると、後数段で階段は途切れている。その代わり、空を覆うように雲がそこにだけ広がっていた。

 三人が、階段からそーっと顔を覗かせると、雲の上は煌々と輝きを放つ光に溢れていた。そこだけ、まるで別の空間のように。

「ほら、あそこに騎士がーーって、えっ!? 寝てるー!?」

 サラに大きな声は出すなと言っておきながら、ルカはその光景に驚きのあまり叫んだ。

 ルカが知っている騎士はこうだ。騎士はいつ何時、凛々しく姿勢を保ち、威厳ある振る舞いを怠るな。

 それがどうしたことか……門の手前には二人の騎士がいるというのに、どちらも寝そべって下品ないびきをかいているのだ。

「好都合ね。そして、私は、遂に……長かった……疲れた……やっと……」

 サラはブツブツと言いながら、堂々と門の前に立つとーー

「着いたぁーーーー!!!」

 達成感を爆発させるように、両手を伸ばし叫んだ。

 するとルカが、サラのその様子を見て慌てた様子で駆け寄ってきた。

「ばっ! おいサラ! 起きちゃうだろう!?」

 サラの足元には、例の騎士たち。だが、起きる気配はないどころか、いびきがますます大きくなっている。

 ピピが二人のうち一人の騎士の頬を突きながら言った。

「この人たち、本当に騎士なの? 私のリベス様とは比べ物にならないくらいに品がないわ」

 リベス騎士隊長は、いつからピピのものになったのか……

「そんなことより……」

 サラはそんな騎士には目もくれずに、辺りを包んでいる光の元を見つめている。

 大空の中、雲の上に存在するそれは、国のどの建物よりも遥かに大きい。

「……すごいエネルギー」

 太陽みたいに熱くない。だが太陽みたいに眩しい。

 願いを宿し、国に命を吹き込み、翼に魔力をもたらす門。


ーー空の門は確かに開かれている。


 激しい煌めきは全て魔力。門から生み出される膨大なそれは、圧力のような重さを感じさせられる。

「俺、開いてるところ初めて見た……」

 ルカの塞がらない口の中を光が照らす。

 ピピが騎士を置き去りにし、サラの横へ飛んできた。

「ーーサラ!」

「うん。さあ、行きましょう。人間界へ」


 エメラルドグリーンの瞳は光を宿やどし、灰色がかったブロンド髪は光をまとい、小さな翼は光をあおぐ。

 サラ、ピピ、ルカの三人は、吸い込まれるように空の門へと入っていった。


 この先、法を犯してまで行く価値は証明されるのだろうか。

 鳥の翼は『飛ぶため』 に、前足が発達したものだ。

 三人が切り開いていく未来は、自由に空を飛び交うものなのか。

 それとも、狭いカゴの中で足掻くだけになるのか。

 可能性を信じてその足で進め。

 小さな小さなその翼を思う存分に羽ばたかせるが良い。

 いざ、人間界へ!

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宿命のエンジェルロード/天使の散歩道 〜子守唄でファンファーレ!〜 唯月もみじ @itsuki-momiji

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