第093話 次に目指すは……!
世界が色々と大変なことになっているらしい。
いやまぁ、六竜の試練とか言って、アルバーみてぇのが暴れだしたらそりゃそうもなる。
そして同時にアルバーを鎮めた勇者テトラの功績も世界に響き渡って。
「おい、聞いたぞ。勇者の嬢ちゃんひん剥いたって? バッカじゃねぇかの!?」
「うるせーよ、ドバンの爺さん」
俺こと、レアアイテムハンター白布の噂も、同じように世界に響き渡った。
「どうせお前のこったから、竜の巣にも入れたんだろ? 詳しく教えんかい」
「やなこった。武勇伝ひけらかしても碌なことにならないって、俺は学んだんだよ」
そんなこんなで。
連環都市同盟ガイザンの町まで戻った俺は、ドバンの爺さんの店を訪れていた。
「っていうか、勇者装備って売れんの?」
「普通は売れんなぁ。装備できんし、在庫は財宝教がガッツリ管理しておるわい。じゃが、お主が提供者じゃと名前を貸してくれるなら、今ならオークション青天井じゃぞ?」
「いや、売る気はない」
命張っても買いたいってやべぇ奴がいるのか知りたかっただけ。
「『勇者の剣』に『勇者の服』、財宝教の勇者ブランドへの拘りを感じるぜ」
「まさか、白布。お前さん装備できたりするのか?」
「……へへ」
「とんでもねぇ奴じゃのう」
実物が見たいとか言いだしたドバンの爺さんに勇者シリーズを見せびらかしつつ、俺は物思いにふける。
(当面の目的は、ドラゴンオーブ探しでいいな)
噂じゃ各国の要人が俺を探してるとか言われてるが、向こうから来てくれる分には大歓迎すればいい。
できればレアアイテムの手土産とかあればなおよしだ。
(ウェストル大陸で確認されているのは光の至竜のアルバーと、風の至竜……ラーリエ)
光の至竜の巣にはまた後日遊びに行きたいところだが、ドラゴンオーブはもらっているから後回しでいい。
ならば目指すところは風の至竜ラーリエのところ……ってなるが。
(アリアンド王国、なんだよなぁ)
『勇者の服』を懐に入れようとしていたドバンの爺さんから奪い返して、俺は店を後にする。
(アリアンド王国。メリーの実家があって、ナナの……獣人種を狩る施策が行われている国)
ウェストル大陸一の国力を誇り、風の至竜相手にも堂々と対応しているという強国。
事を構えるにはこっちも相当の力を持ってないといけないわけだが、果たして。
(……いや、深く考えるまでもないか)
ナナが狙われているといっても、ぶっちゃけ今じゃ、俺もお尋ね者みたいなもんだ。
なにしろ勇者を倒した大悪党、全世界に根付いている財宝教に弓引いてしまったわけだから。
対立は仕方なかったとはいえ、立ち回りに大きな影響が出るのは否めない。
でもだからこそ、遠慮はいらなくなったともいえる。
「主様ー!」
「おかえり。ドバンさんは元気だった?」
通りの裏で、ナナとメリーに合流する。
俺がドバンの爺さんに挨拶に行っているあいだに、買い出しをお願いしていたのだ。
「十分量、買いだめできました」
「お、えらいえらい」
「わふふふ」
「この町、いつも以上にギラギラドロドロしてたわよ」
「こういう町は、世界が混乱してるときの方が輝くからな」
「風と水、火の至竜は、すでに各地で派手な動きを見せているとか」
「地と闇の至竜はまだ姿を現してないらしいけど……文献によるとどっちも表に出るタイプじゃないらしいから、裏で何かしてるのかもしれないわね」
「へぇ」
世間話するようなノリで変動する世界について話しながら、俺たちはおやっさんの冒険者の宿に向かう。
白布を名乗った最初の場所であり、その初動でめちゃくちゃ世話になった場所。
そこは――。
「うおおおお、白布にレアアイテムの情報買ってもらえるってのは本当かー!」
「白布に会わせろー!!」
「従者の子がロリだと聞いて来ましたー!」
「うおおおお、お前ら落ちつけぇ! 白布の兄貴は今はいねぇぇぇぇ!!」
案の定、大混雑していた。
※ ※ ※
表の混乱を回避し、俺たちはこっそりと、裏口から入っておやっさんに挨拶する。
「お前、派手にやりすぎだ。バーカ」
「ドバンの爺さんもおやっさんもバカって言いすぎじゃない?」
「そうも言いたくなるくらい大暴れしてんだよ、お前は」
「誉め言葉なのでございますね」
「おう、ナナも元気してたか。ってか、結局まだ一緒なんだな。そこの嬢ちゃんと」
「お久しぶりです、マスター」
「おやっさんでいいぞ、お嬢さん」
やいのやいのとやり合いながら、じっくりたっぷりと集まった情報を精査する。
「SR以上のアイテムの話ならこんだけあって、その中のURだとこれくらい」
「金で買えるならこっから出して回収してくれ」
「は? うおっ!? は? なんだこれ」
「竜の財宝」
もはや買える程度のものなら余裕のよっちゃんなのだ。
まずひとつ、財力に関しては十二分に手に入れられたんじゃないかと思う。
「ったく、規格外にもほどがあるぜ……だがまぁ、なら話はシンプルだ」
SR・URならその多くは金で何とかなるだろう。
だから、俺の目が向くのは次におやっさんが出してくれる、アイテムたちの情報だった。
「これが……今日までに集まったLRの情報だ」
「いやっほぅ!」
俺はその信頼度こそまちまちだったが、たくさんの超レアアイテムについての情報を得た。
まだ見ぬレアアイテムについて話を聞く時間は、新たな情熱を燃やすに十分な材料になった。
そして。
※ ※ ※
「次に目指すのは、アリアンド王国の王都だ」
俺は、次なる目的地を決めた。
「メリーを実家に送り届けるって意味でも、ナナの家族がどうなってるのか確かめるって意味でも、そして何より、風の至竜のドラゴンオーブや、この事件で大陸中の強者がこぞって集まってるって意味でも、ここ以外に選択肢はない」
「もはやわたくしよりも主様の存在の方が、かの国にとっても重要にございましょう。わたくしが居ることで起こる危険など、些末なこととなりました」
胸に手を当てて頷くナナは、出会った頃に比べてかなり落ち着いたように見える。
相変わらず俺との使徒様ごっこは続いているが、主従としてはもう完成している気がしなくもない。
ドラゴティップ村での出来事を越えて、彼女は独り立ちし始めているように見える。
「主様と一緒なら、どこへなりともわたくしは参ります」
その言葉には気負いも、そして迷いもなかった。
「気をつけないといけない状態なのは変わらないけれどね。でも、一緒に来てくれるのなら助かるわ」
「実家を買い戻せるだけの金、ちゃんと回収してたんだな」
「当然よ」
俺がたくさんの財宝を竜の巣から持ち帰ったように、メリーもしっかり金目の物を回収していた。
「億は手に入れたわ。王都に着いたら全部換金して、サウザンド家を取り戻す!」
《神の目》を有効活用し始めてからのメリーは、困難による損失以上に多くを得るようになったようだ。
もとより賢く、度胸も根性もある貴族令嬢。
初めて出会った時よりもその顔は凛々しく見えた。
「……ただ、旅の途中でどんな過酷が私に来るかわからない。すべてをひっくり返してくるような不運が現れるかもしれない。そんなときでも、あなたたちがいてくれたらきっと、私は乗り越えられる気がするの」
自分に何の利もなかった勇者との戦いでも、俺たちの側についてくれたメリー。
「だからこれからも、仲間として、一緒に旅を続けさせてもらえないかしら?」
「「………」」
そんな彼女からの提案、俺たちに否やはなかった。
「そんなわけで、次はアリアンド王国に行くぜ。おやっさん」
「……いいのか、俺にそんな大事な話を聞かせて」
「もちろん。いくらか金積まれたらバシバシ教えてくれていいからな」
「……そいつはやはり」
「レアアイテムが向こうからくるってんなら、大歓迎だからな」
野盗だろうが傭兵だろうが、勇者だろうが大歓迎。
並の奴なら相手にならない。レアアイテム持ちなら格好の獲物だ。
「ナナ、メリー。騒がしい道中になるだろうが、付き合ってくれるよな?」
もうここまで派手に世界に名を叫んだんだ。
どこまでも楽しくやってやろう。
「はい。主様の望まれるままに」
「言っておくけど、限度はあるわよ? げ・ん・ど・は!」
ありがたいことに、仲間と言っていい人がいる。
『千兆様、アデライードもおりますでございますですよー』
道行きを見守ってくれている天使様だっていらっしゃる。
(さぁ、待っていてくれよ。まだ見ぬレアアイテムたち!)
レアアイテムコンプリートに向かって、俺は突き進む!
「いずれ俺は、世界を制する!!」
ゴルドバ爺に誓った俺の夢を、叶えるために!
俺の冒険は、まだまだこれからだ!!
※ ※ ※
アリアンド王国、王都。
とあるコスメショップ。
「はーい、みんな注目。今日からここで働いてくれる子を紹介しま~す」
「初めまして!」
「うおっ、かわいい子」
「サキュバス?」
「え、何歳? 成人したばっかりとか? うっそ、それでこの色香って……」
「ほらほら、黙れ者どもー。この方はさるお方の娘さんでVIP様なんだぞー」
「あはは、店長。それは言わなくていいですよ」
「え? あ、そう? ごめんねー」
「いえいえ。それじゃ改めて自己紹介しますね」
「どうぞー」
「私の名前はミリエラ・クズリュウ。いずれ世界を獲る最高の人の隣に立つ女、です!!」
「……わぉ」
モノワルドに生きる人々の物語は、紡がれていく。
異世界ストリップ~俺はレアアイテムをコンプリートして世界を手にする!~ 夏目八尋 @natsumeya
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