第092話 波紋疾走!
“六竜の試練が始まり、光の至竜アルバーを勇者が鎮め、その勇者が只人の男に敗れた”
突如としてモノワルドに投じられたこの一石は、世界を大いに震撼させた。
否、そのうわさが広まるよりも早く、世界は新たな時代を迎えた。
目覚めし、六竜たちによって。
ウェストル大陸北部、マナルーン魔導国。
地下大魔導研究所。
「……あ」
「おや、どうかなさいましたか? シュラム様」
「えっと……“自由にしていい”って」
「「!?」」
「……起きても、いい?」
「「どうかまだ、今一時お眠りを!!!!」」
「おい、誰か! 魔導王様に緊急連絡!」
「六竜の試練が始まった!! 今、地竜様がお目覚めになると……国が滅ぶぞ!!」
「……ふあ~、む」
ウェストル大陸南部、ドワルフ王国。
ボルケノ山。
(待ってたぜ! この
「ぬぁっ! なんじゃぁこの声は!?」
「ボルケノ山の山頂から響いてきてる……って、まさか!」
(おう! 久しぶりだな!! オレ様の愛する
「ボンバ様! ボンバ様がお目覚めになったぞぉ!!」
「祭りよ! 祭りよーー!!」
「ってことは、あれも……?」
(おう! 今回も開催するぜ! ボンバ・チャレンジ!)
「「うおーーーー!! 炉の火を滾らせろーーーー!!」」
(いい武器作って、いい使い手を呼んで、掛かってこいやぁ!!)
モノワルド南部海域――サウザーン諸島。
北部、アトランティウス大海沖。
「うーい、今日は釣れねぇなぁ」
「こんなにいい天気で、波も安定してるのに……不思議っすねぇ」
「……いや、待て。なんかおかしくねぇか?」
「そういや海鳥もいないし……って、お頭!! あれ!」
「あれ? ただの商船団じゃ……なぁ!?!?」
「で、で、でたぁぁぁ!! ばけものぉぉ!!」
「商船団が一瞬で……ありゃまさか、爺ちゃんの爺ちゃんの爺ちゃんが言ってたっていう、水の至竜様?」
「お頭ぁ! 波がきまぁす! もうダメだぁぁぁ!!」
「ばっきゃろう!! 舵取れ! 生きて帰るぞ! 帰って! 大将に報告だぁぁぁ!!」
イスタン大陸北部、アリアンド王国。
コロン村。
「ぁぁ……ラライ」
「………」
「ラライ、ラライ……ラライ!!」
「諦めろオルスタン。こりゃ、天災だ」
「風の至竜様の気まぐれよ……この村も、ラライも、滅ぶ運命だったんだ」
「ふざけるなぁ! そんな、そんなことが、認められるか!!」
「!?」
「ラライは、優しい子だったんだ。この村で、いつまでも平和に過ごせたら幸せだって、そんなささやかな願いをもった、俺の、恋人だったんだ……こんな運命なんて、受け入れられるか!」
「オルスタン……」
「許さない。ラライをこんな目に遭わせた奴を、俺は絶対に許さない!!」
(………)
「え?」
(力を、与えましょう。その恨みを晴らす、強大な、力を……)
モノワルド北極大陸――ノーズウェルド大島。
闇の神殿。
(……ん? 始まったのか。そうか)
(世界が動く……ならば、我も多少は楽しみを饗しても構わんよな? アルバー?)
(さて、まずは我の使徒となるにふさわしい資質を持った者を探すところから始めよう)
(3年ほど掛ければ、一人くらいは見つかるか、生まれるだろう……どうれ)
(………)
(……あ? 近くに居るだけで3人? それに、これから生まれる子供にも適性あり?)
(は? あ? マジ? 多いのう?)
(……え? じゃあ闇竜教とか簡単に作れちゃう? 暗躍できちゃう?)
(おっほ、これは、たまらんのう!! 我、ワクワクしてきたぞい!)
(そうじゃな、此度の合言葉はこれにしよう)
(――世界に、闇の秩序をもたらさん!)
地が、火が、水が、風が、闇が、世界を変えていく。
混乱を、喜びを、困難を、悲劇を、暗躍を、そのいずれもを竜たちは与えていく。
※ ※ ※
“六竜の試練が始まり、光の至竜アルバーを勇者が鎮め、その勇者が只人の男に敗れた”
うわさが世界に広まっていく。
時代が変わったのだと、人々は否応なく理解させられる。
そして、竜が人々の世を変化させたように、人々もまた、世界に変革をもたらしていく。
モノワルド南部海域――財宝教総本山、ジーナ・イー。
円卓の間。
「由々しき事態ですね」
「「はっ」」
「世界に六竜が解き放たれ、これよりは混沌の時代が訪れるでしょう」
「迫りくる闇など、我が精鋭たる勇者たちが切り裂いてくれましょう。かの光の至竜アルバーを鎮めた勇者テトラがその証に――」
「しかしその勇者テトラは、どこの誰とも知れぬレアアイテムハンターに敗北したと聞きますが?」
「くっ。それはそやつが奇妙な技を用いたと報告が上がっておる!」
「《ブレイク》が通じない相手、ですか……それこそ神の領域の力です。その方はもしや……」
「救世の使徒だと? バカらしい! 寄る辺のない者たちはすぐそうやって懸想する」
「なんですと?」
「静まりなさい、二人とも。……どうあれ、我々の威光を示さねばなりません」
「「はっ」」
「その者を、レアアイテムハンターの白布とやらを捕えなさい。……生死は、問いません」
「「御意に」」
イスタン大陸北部、アリアンド王国。
王城。
「そろそろ、掃除は終わったかしら。ノルド?」
「ハッ。前王派、王弟派の貴族たちもほぼ封じ終えました」
「……楽園は?」
「そちらもほぼ抜かりなく。獣たちはみな、幸せそうにしております」
「うふふ、そっか。ならそろそろ、本腰を入れるときね」
「ですが姫様、今は風の至竜や例の反抗組織が」
「問題ないわ。備えはもう十分だもの。ね?」
「……ハッ」
「むしろ世界が混乱している今こそ好機。打って出るわよ、イスタン大陸制覇!!」
イスタン大陸南部、連環都市同盟第3の都市ロブロイ。
都市長邸、会議室。
「アリアンド王国で風の至竜が暴れているとか」
「これは……好機ですな?」
「ええ、間違いなく」
「商いをするにしても、それ以外をするにしても……」
「むしろ、あの姫様がこれを機に我々にちょっかいを出すという可能性は……」
「はっはっは。パルパラ都市長、貴殿は家に盗人が入られてからすっかり気弱になられましたな!」
「む、そんなことは……というか、いつまでそのネタを擦るつもりで? ガイザン都市長?」
「クッフッフ。いやぁ申し訳ない。だが、今は間違いなく攻め時ですぞ」
「そうだそうだ。今こそ我ら連環都市同盟が動くとき!」
「「大陸を牛耳るのは、我々だ!」」
ウェストル大陸南部、エルフィーヌ王国。
大樹の館。
「ドワルフ王国が騒がしいわね」
「はぁ、なんでも六竜の試練が始まり、ボンバ・チャレンジが始まったんだとか」
「あら、そうなのですか。どうりで……」
「いかがいたしますか? 我らが女王」
「そうですね……六竜の試練が始まったというのなら、いい機会かもしれないですね」
「と、言いますと?」
「『世界樹』……起動させちゃいましょう」
「は? ……なんですとぉおおおおお!?」
投げ込まれた一石が、モノワルドに幾重もの波紋を巻き起こす。
そして……。
???
「――世界変革の波を観測。停止モードから待機モードに移行」
「――適合者発生確率を再計算……計算完了、0%」
「――待機モードから停止モードへ。おやすみなさい」
世界は、激動の時を迎える。
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