国家機関所属の魔法少女ですが、子供食堂を魔物から護りましたッ♡

国家機関所属の魔法少女ですが、子供食堂を魔物から護りましたッ♡

「そ……そんな……」

　悲痛な声をあげた彼女を、魔法少女の事を良く知らない人は「マスコット」「妖精」「使い魔」だと思っているだろう。

　しかし、本当は分析系の魔法を得意とする「魔法少女」の実体化したアストラル体だ。

　あたしと、この「相棒（バディ）」は、運良く魔物がこの「子供食堂」を襲撃する直前に間に合う事が出来た。

「この魔物は具現化呪詛……そして……呪詛しているのは普通の人間。この魔物を倒せば……魔物の『本体』は『呪詛返し』で死ぬ」

　いつの頃からだろう……突如として全世界で「魔法」の効力が上がった。

　つまり……本人が無意識の内にやっている「呪詛」でも、このように具現化し「魔物」と化して他人に害を与える可能性が高くなってしまったのだ。

「手順通り、呪詛者の個人情報を探って」

「わかったわ……三十代……独身……男性……サラリーマン……名前と住所は……」

『こちら北九州市第２支部。呪詛者は……本人の自己評価は高くＢクラスまで行けると思ってるようだが……死ぬまでの推定国家貢献値は８５％の確率でＤ……良くてＣ−（マイナス）だ。あと、本人は気付いていないが……遺伝的に問題有り。ＳＥＸしても健康な子供を作れる可能性は低い。「呪詛返し」を許可する』

　本当は、人に等級を付ける考えに馴染めない。

　そして……人を物扱いするのも……。そう……今や、誰かを高く評価する際でも、等級付けやその人を「物扱い」するような表現が当り前になってしまっている。

　あたしが……小学校低学年ぐらいまでは、そうじゃなかった気がするけど……もう、日本の常識そのものが変ってしまった。

　全世界で魔法の効果が上がる前から、日本では、社会的弱者や……社会的弱者を助けようとする人達……そして、社会的弱者が互いに助け合う事そのものに敵意を向ける人達が増え続けていた。

　今や、そんな人達の「呪詛」は具現化し、社会的弱者やそれを助けようとする人達を襲うようになっている。

　でも、健康な子供は……この日本にとって重要で貴重な資源。そして日本の未来そのもの。……いや、こんな言い方は好きじゃないけど……学校なんかでは、これ以外の「子供を大切に」を意味する表現は習った事はないし……ネット上にも「健康な子供は日本にとって重要で貴重な資源」に似た意味で、より子供を「物扱い」しない表現は見当らなくなっている。

　そんな「子供の命」に比べれば、三十代独身で……子供を作れないＤ評価のサラリーマンの命の価値は……いや……本当は、こんな考えそのものが嫌だ。

　十八歳の「定年」になったら……魔法少女としての任務の記憶を消してもらう事にしよう……。

　こんな記憶を抱えて生きていかねばならない何十年もの人生なんて、今のあたしには、あまりに長い地獄だ。

「クリムゾン・サンシャイン‼」

　あたしは必殺技の名前を叫び……魔物が消滅すると共に……会った事もない無能だろうけど、多分、平凡なサラリーマンの命も消えた。

「みなさん……もう安全ですよ」

　だが……子供たちも、「子供食堂」の責任者らしい中年女性も怯えていた。

「どうしました？」

「あ……あの……」

　あたしからすれば、小さい頃から「魔法」や「魔法少女」は当り前に存在していたけど……この中年の女性からすれば「つい最近、突然現われた謎の超常現象」にしか思えないのだろう……。

　感覚的には理解出来ないが……そう思う人が居るのは知識として知ってはいる。

「あ……あの……あなたは……何故……あ（﹅）の（﹅）魔（﹅）物（﹅）が（﹅）現（﹅）わ（﹅）れ（﹅）る（﹅）前（﹅）に（﹅）ここに来たんですか？」

「ああ……その事ですか……この中に山田太一郎くんと云うお子さんが居ますよね？」

　その名前を聞いた途端、中年の女性は１人の子供を抱き締めて……あたしを睨み付けた。

「山田太一郎くん。君の助けを必要としている人が居ます。お姉さんと一緒に来てくれるよね？」

　望ましいとは言えないが……「精神支配」の「言霊」を使用。

「ぎゃあッ‼ 駄目……行っちゃ……行っちゃ駄目ええええッ‼」

　あたし達にとって極めて残念な事だが、魔法学では「女性は男性に比べて感情に支配されやすく、理性的・合理的な判断が出来ない」とされている。

　この中年の女性の様子を見る限り、それは真実のようだ。

　あたし達「魔法少女隊」の指揮官が男性ばかりなのも仕方ないだろう。

　山田太一郎くんは……自分を抱き締めていた中年女性に噛み付き、その腕を振り解いて、あたしの元にやって来た。

　今や１人当りのＧＤＰが日本の５倍になっている某新興国……その国の基準でも「大富豪」に属するある人物が高齢による多臓器不全で死にかけている。

　その人は、今や臓器移植における「超高級ブランド品」となっている「健康な日本人の子供」の臓器を希望した。

　日本政府への多額の寄付と引き換えに……。

　全国民に義務付けられているＤＮＡその他の生体情報登録を調べた結果、最も移植の成功率が高い子供が……この山田太一郎くんだ。

　こんな言い方は、本当は好きじゃない。けれど……似たような意味で、それに代る言葉は日本語から消えつつ有る。

　健康な子供は……この日本にとって重要で貴重な資源。そして日本の未来そのもの。

　だから、あたし達「魔法少女」は、子供を護り続けるのだ。