第51話 エピローグ(後)
車に戻ると、運転席から部下が降りてきた。
後続の車からも数人が様子伺いにやってくる。
皆黒スーツの上から武装した嘘花専用の特殊清掃班である。
「確認できた。嘘花と管理者はともにあの家の中だ」
黒いネクタイを緩めながら、瓜生はてきぱきと指示を出した。
「お前は保健所、お前は警察と、念のため消防に連絡を入れておけ。今夜家ごと焼却処分するぞ」
「はい」
短い返事でそれぞれが動きだす。
何もかも予定通りだ。
「良かったんですか」
瓜生の車を運転してきた男が尋ねる。
「脱法葬儀屋は信用が命です。頼ってきた嘘花の情報を官庁に売るなんて」
「いいんだよ」
ぞんざいに言って、瓜生は目をすがめた。
「そもそも特事課にいた二人だ。決め手こそなかったが、うちが脱法葬儀屋であることも知っていた。ここは下手に動かず、各方面に恩を売っておくのが得策だろう」
「囮ということですか」
「かもしれないという話だ」
姦計を疑ったのは本当だが、あの様子では杞憂だったかもしれない。
御堂は妻を愛し、二人は種子の行末を本気で案じているように見えた。
「そうだ。町外れに畑を買ったと言っていたから、誰かやって異変がないか調べさせてくれ。種子を植えるなら土は『いい状態』にしてやらないとな」
「容赦がないですね」
くすりと笑って運転手がその場を離れる。
瓜生の言葉の裏の真意に気づいたのだろう。
足音が遠ざかるのを背後に聞きながら、瓜生は今夜にも火だるまになるコテージを眺めた。
念には念を。
化け物が化物なりに生存本能を示すのは理解できるが、食物連鎖の中にその種子を放り込むわけにはいかない。
それは嘘花に手を貸す脱法葬儀屋の人間としての矜恃であった。
種子を逃してほしいという依頼は、脱法葬儀屋が受ける主たる依頼である。
しかしそのほとんどは実際には廃棄され、ダミーの野菜が用意されていた。
「何が子どもだ、気持ち悪い」
私たちの子、と繰り返した御堂夫婦を思い返して瓜生は吐き捨てるように呟いた。
愛おしそうに妻に触れ、大切そうに種子を拾った御堂を思い出す。
あの男は脳をやられている。とっくに嘘花の洗脳を受けて、だから化け物に愛を注げるのだ。
そこまで考えて、ふと瓜生は言いようのない悪寒を感じた。
念には念を。
呼ばれた脱法葬儀屋。
町外れの畑。
すでに熟れていた果実。
そして庭のプランター。
「待て、待て待て」
──趣味で始めた家庭菜園で今朝採れたものを使ったんです。
御堂の言葉を思い出して、テーブルの上に並べられた料理を思い出す。
「まさか……」
もしやあのプランター。もしやあの昼食。
汗ばむような陽気の中、じっとりとした寒気を覚えながら、瓜生は俄かにむず痒くなった両腕のを掻いた。
嘘花ーusohanaー 風島ゆう @kazeshima
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