第10話 俺と旅について
相変わらずこの屋敷は広い。ここに来て二日目だが全然この屋敷の全容が掴めない。
昨日は一つの部屋にしか居なかったのでまぁ当然と言えるだろうが、それにしたって広すぎる。案内がなければ風呂やトイレにすら行けないと言うのはやりすぎではないだろうか。まぁ、そんな屋敷の中を案内を付けずに歩いているのは俺とグレーテなのだが。
「なぁ、旅の準備をするって言ってたけど何をするんだ?」
「んー?私たちのする準備はそう多くはないっす。って言うか旅の準備とは言ったっすけどそれは僕達のではなくお兄さんのでして」
「俺の?」
「ええ、お兄さんは旅をするのは初めてっすよね?この世界の地形と最終目的地、あとは言っておくべき事を今言っちゃおうって感じっすね」
成程。確かにそこら辺は何も聞いてはなかったか。確かにそこには納得する。するがそれとは別にさっきっから気になっている事がある。まさかとは思うがこいつ
「今どこに向かってるんだ?」
「倉庫っす」
「そうかそうか、で?その倉庫はどこにあるんだ?この廊下はさっき通ったと思うが、それについて弁明は?」
「いやーいい景色っすねぇ」
おおよそ十分前に横切った中庭が目の前にある。同じような作りの、同じような景色の中庭がまさか一つの屋敷の中に二つあるはずがない。と、言うことは、だ
「グレーテ。お前、もしかしなくても迷っただろ」
「あはは。行けると思ったんすが、無理でした」
テヘッという効果音が聞こえてきそうなムカつく動きと共に舌を出す彼女。今度はその舌を引っ張ってやろうか
「当たり前だろうがお前も昨日来たばっかなのに何で行けると思ったんだよ」
「このグレーテさんの勘を持ってすれば倉庫の場所など簡単に…」
「そのお前の勘を頼りにした結果がこれだろうが。もうちょっと反省しろ」
「はーい。っということで、そこの権禰宜の人ー!ちょっといいっすか!」
「あ、はい。何でしょうか──
廊下を歩いていた権禰宜の人に連れられたそこは屋敷の離れにある一回り小さい小屋だった。
「ここが倉庫になります」
「ありがとうございます」
「ありがとうっす」
「いえいえ、また何かおありでしたら声をお掛け下さい」
そう言いつつ離れていく権禰宜の人。いやほんとにありがとうございました。
「それで?ここに何が入ってるんだよ」
「まぁ、それは見てもらった方が早いっすね。と言うことでさっさと入っちゃいましょう」
扉を開けて中に入っていく彼女の後を追い中に入る。と、暗いな。
「灯りは置いてないのか?」
「ここに灯りは置いて無いっすよ。灯りが倒れて倉庫が燃えたとしても人があまり来ないここは気付きにくいっすから。危なくて置けないっすよ」
確かにここに来る途中あまり人とすれ違わなかったから燃えていると気づく頃には相当燃えてるだろうな。だとしても暗すぎて何が置いてあるかさっぱり分からんのはどうにかなんないのかね。
「ここに置いてあるって聞いたんすけど…お、あったっすあったっす」
グレーテが探していた御目当ての物を見つけたらしい。暗すぎてよくわからんがうっすらと視認できるシルエットは…樽?
「その樽みたいなものが探していたものか?」
「そうっすよ。この中に入っている物が僕達が旅中の主食になるっす」
樽の蓋が外れて漂ってきた匂い。これは
「漬物?」
「正解っす。ん、問題は無さそうっすね」
ほーん、漬物ねぇ。漬物漬物。漬物???
「おい待てグレーテ。お前さっきなんて言った?」
「ここに僕達の主食になる物があるっす」
「そこにあるのは?」
「漬物っす」
そこまで聞くのが俺には精一杯だった。目の前の樽から全力で目を逸らし、倉庫の中を見渡す。何か、何か別のものがあるはずなんだ。
「そんなに必死になっても現実は変わらないっすよ。大人しく受け入れるっす」
「ふざけんな誰が認めるか馬鹿!絶対に短く無い旅の中で毎日食べるのがソレって認められる訳ねぇだろうが!」
「諦めるのも肝心っすよ。大丈夫っす、五日間も食べ続ければその内体が順応して受けいられるようになるっすから」
ふざけんな、と怒鳴ろうとした俺の口は彼女の死んだ目によって止められた。ふざけない瞬間を見たことがないくらい元気だったはずの彼女がここまでの反応をすると言うことは、本当に食べる物がこれしかないのだと理解した。
その瞬間、俺は四つん這いに崩れ落ちた。
「カレン達のところに戻るか…」
「そうっすね…」
新しく出てきた驚愕の事実から与えられるショックから抜け出すのにはだいぶ時間がかかった。倉庫から出てきた俺達を見た権禰宜の人が小さく悲鳴を上げながら逃げていく。疑問に思ってお互いの顔を見てみたら表情筋が死んでいるグレーテがいた。
「おいおい。顔の表情死んでるぜ?死んだ後の魚かよ」
「そう言うお兄さんも断頭台に立たされた死刑囚みたいな顔してるっすよ?」
どうやらお互い様らしい。そりゃ権禰宜の人もビビって逃げるわ。
「明るい話とかねぇのか?」
「明るい話とはちょっと違うっすけどこの世界の地形の話ならあるっすよ」
「それで」
もう別のこと考えられるなら何でもいい。
「この世界にある大陸は全部で五つ。中心に一番でかい大陸があってその北東、北西、南東、南西にそれぞれ大陸があるっす。中央にある大陸にはカレンちゃんとマレーン、それと僕がいるっす。他の神子はそれぞれ北東、北西、南東の大陸に一人ずついて、南西の大陸は一人ずつローテーションで視る感じっすね」
「何で南西のだけローテーションなんだ?」
「南西の大陸は特別でして、あそこに僕達神子はあんまり必要ないんす」
特別、特別ねぇ?
「ちなみに、どう特別なのか聞いても?」
「別に言っても良いっすがあんまり今話しすぎるとつまんないじゃないっすか」
どうやら教えてくれないらしいが、そこまで重要な情報ってわけじゃ無さそうだな。
「で、僕達は中心の大陸から、北西、北東、南東、南西の順番で回って行くっす。とーちゃく!」
ただいま戻ったすよーと彼女が襖を開けると
「おはよう、で合ってるのかしら?」
と、首をかしげるカレンがいた。
願った先の世界 @jackl
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