第13話 箱の中身はなんだろな?

「しっかりミディアムに焼いてやんよぉ!」


 ティン子を括り付けた木の枝を焚火に投入せんとするその直前、突如として眩い光がオレを包み込んだ。


「ぐお!? 目、目がぁ!」


 まるで天空の城を目指した某大佐のようによろめいたオレは、目を焼かれて腰砕けとなりその場に倒れ込んだ。


「何が起こった!? まさかティン子のやつ、マグネシウムででも出来てやがったのか?」


 マグネシウムは燃焼時に強烈な閃光を生み出すのが特徴だ。

 対テロなどで使用されているスタングレードにはマグネシウムを主とする炸薬が入っている。

 以前アメリカ系マフィアとの抗争の際、米軍から横流しされたそいつを使用されたことがある。これを使われると激しい轟音と閃光によってどんな屈強な男でも行動不能になってしまうのだ。


 しかしあの時と違い、今回は閃光は有れど轟音が無かったような……。

 それともあまりの爆音で瞬時に耳が潰れて音が聞こえなくなったのか?


 くらくらする頭でそんなことを考えながら、近くにあった何かに手をかけ、身を起こした。

 閃光によって戻らぬ視界。何故か聞こえぬ耳。

 仕方がないので手探りによって辺りを探る。


 まずオレがいま手をかけているモノ。

 平らですべすべしている。広い、板のようなものだ。手を伸ばすと縁まで届く。

 一抱えくらいの大きさの板状のモノ。

 それに脚がついているようだ。三方か四方に脚が付いておりこの板を支えている。

 まるでローテーブルのようだ。


 ティン子を焼く焚火の周りにはこんなものは無かったはずだ。いったいどういう事だ?

 警戒心を一段階高める。

 それにあの場にはティン子のほかに黒ネコのタンゴと白ネコのトロがいたはず。

 ティン子はどのみちお仕置きするから放っておくとして、タンゴとトロが巻き込まれていないか心配だ。


「タンゴ! トロ! 無事か!? 近くに居たら返事をしてくれ!」


 呼びかけてみるが、返事どころか一切の音が感じられない。やはり耳がイカレているようだ。

 ローテーブルの真偽は一旦保留として、ゆっくりと周囲を探る。

 周囲に手を伸ばしていると、ちょうどローテーブルの反対側にある何かにぶつかった。

 驚いて手を引っ込める。


「うおっ!? なんだ? クソ、『箱の中身はなんだろな?』じゃねぇんだぞ」


 ローテーブルの上から身を乗り出し、恐る恐るに向かって手を伸ばす。

 どうやらは動いていないようだ。

 指先で何度か突いて安全を確認し、ゆっくりと触れてみる。


 すると何やら長い毛のようなものが感じられる。

 何度か触ってみて分かったことは、毛の長いは木や岩ではなく何かしらの、人間大の生き物。

 それがジッと身じろぎすることなく留まっている。

 

 あの場にいた毛の長い人物はタンゴとトロの二人だ。おそらくコレはあの二人のどちらかで間違いないだろう。

 であればなぜ固まったように身じろぎもしないのか。


 もしや動けない理由があるのか?


 オレは焦りから今までより大胆に目の前のを探った。

 まさぐったと言ってもいいだろう。


 とにかく目の前のを撫でまわすこと数分。

 ようやくモヤモヤと視界が回復しかけてきた時、オレはあることに気が付いた。

 この目の前のには……


「そんなバカな! それならは一体!?」


 その瞬間、第六感とでも言うべき何かがオレの中で弾けた。

 心臓が跳ね上がり、大量の血流が全身を駆け巡る。

 激しく流れる血液か、はたまたいかなる理由か、急速に視覚と聴覚が回復していく!

 そして鮮やかになったオレの視界、オレの眼前に――


「ワシじゃ」


 神様のジジイ、白い空間、ちゃぶ台。


「――URYYYYY!!」


 急激に覚醒する意識。まるで夢から覚めて現実に戻ってきたような違和感。

 目の前では、神様のジジイが、白い空間の中、結跏趺坐で手を合わせ、半眼で悟りを開いていた。


 ズドンッ! オレの右ストレートがジジイの顔面に突き刺さる。しかし皮一枚のところで不可視の障壁に阻まれている。

 ――つまり眩い光は異世界転移の影響のようなものだったんだろう。


 ズブッ! 左手の貫き手による目つぶしがジジイの目を貫く。しかしこれも手応えなし。

 ――ローテーブルはちゃぶ台だったのだ。


 バキィッ! 回し蹴りがキレイに側頭部に入る。しかし羽毛布団を蹴ったような柔らかな感触。

 ――長い毛の正体はジジイのヒゲだ。


 ドドドドドッ! 正中線を穿つ五段突きが正確に人体の急所を打ち抜く。しかし人体の急所と神の急所は同一ではないようだ。

 ――そしてジッと固まったように動かなかった理由は……。


「そうじゃ! この障壁を張るためじゃ!」

「WRYYYYYY!」


 バシュッ! 鋭い肘打ちが鉈のようにジジイの額を抉る。しかしゴム毬のような弾力に押し返された。

 ――やっぱりあらかじめ備えていやがったか。


「いやそれより、さっきから暴力を振るいながら思考するの止めてもらえんかのぉ!?」

「WOOORRREEYYYYYYYY!」

「当たらんと分かっていても怖いもんは怖いんじゃよぉ!」


 バキャッ! UREEYYYYY!

 ――ウリイイイイイイイ!


「だからといって思考をするのを止めろとは言っておらんのじゃよぉ! 恐ろしいケダモノじゃあ!」





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【閃光手榴弾】

閃光手榴弾またはスタングレネード、フラッシュバンと呼ばれる。

大音量や閃光を発する非致死性兵器。手榴弾の一種であり、屋内での近接戦闘や人質救出作戦、さらには暴動鎮圧等に用いられる。

特に屋内等の閉所に突入する際に用いられ、閃光と160デシベル以上の大音量により、効果範囲内の人物に対して眩暈やショック状態を引き起こさせ、その混乱に乗じて作戦を実行する。





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神様この人選って間違ってません? もんもさん @monmosan

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