第21話 自己同一性

 私がなぜ彼を止めたかったのか、それは自分が開発したCIBSは致命的な欠点を抱えていた。


 開発当初は純粋に機体の性能、反応速度を向上させる目的だったが最終的に完全に機体と一心同体になるためにはどうしてもヘッドセットでは厳しかった。人間側の信号に対してハードウェアがついていけなかったのだ。


 そのためエヴァにあったような何かしらの液体に浸かって神経接続をする方法を思いついた。が、しかし皮膚からでは直接神経の信号を取り出すことはできない。装置の実現を追い求めた過去の自分は、一度完全に分解されたのち、人体を再構築するという手法を思いついた。


 完全に視神経でさえも接続することによってまるで自分の魂が乗り移ったかのように操縦できるシステム。初めて操縦する機体であっても思いのままに操れるのは今までになかった新しいシステムだった。


 思いついてしまったのはしょうがないとしてそれを彼に言ったのは間違いだった。彼はその話を聞いて何よりも「機体と一体になれる」という点にとても魅力を感じていた。そしていつの間にかそれの研究データが盗まれていたとしか考えられない。盗まれたことには一切気がつかなかった。


 彼には何度もCIBSの実用化を言われたがその都度自分は断った。やはり一度分解された人は自己同一性、つまり本当にその人なのかの倫理的問題について確証が得られなかったからだ。


 そんな俺に見切りをつけて自衛隊に身を置いてまでそのシステムを完成させた一機にはやはり目を見張るものがある。そしてそんな風になってしまったのは持ちろん私にも責任がある。


 自分は彼にそんな手段を用いなくても人と機械の可能性を見せたかった。そして見せられた。


 今や彼の棺桶となり、新たなゆりかごとなってしまったコクピットに歩み寄る。


「大馬鹿もんだよ。お前は。」


 一度死んでも俺に、俺たちに勝てないようじゃ死んだ意味がないじゃないか。君にもう少し早く人間と機械がそれぞれ補完しながら戦う姿を見せればこんなことにはならなかったのかもな。


 自衛官たちが人体再生成プロトコルを起動して新しい一機が誕生しようとしていた。自分達とは戦っていないはずなのにその記憶を持っている一機。大学時代にともに話し、喧嘩し、喜びを分かち合った一機はもういない。文字通り死んだのだ。


 俺の中ではもう一機は死んだのだ。もうこの一機を見ていてもつらくなるだけだ。



じゃあな。向こうでまた話せるといいな。

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ロボットに取り込まれたあいつは本当にあいつなのか 和音器官 @harmony_C

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