第20話 決着

 状況が徐々に変化していった。相手の動きが明らかに鈍ってきている。こちらの妨害策がうまく機能している。


「あの機体にこんな機能までつけていたのか!」


「妨害も同時にできるんじゃ今度から歯が立たないな。」


 相手の機体がほんの数フレームだけ通信障害で停止するのを見逃さず追い込んでいく。彼女の卓越した操縦技術が可能にしている作戦だ。


「もっと妨害の強度上げられる?ちょっとこのままだと攻めきれないわ。」


「わかった。強度、回数両方上げてみる。」


 相手の通信をモニタリングして暗号の解析を行う。機体には受信装置を仕込んでいて、解析などの負荷のかかる処理は自分が操作しているパソコンで行っている。機体の軽量化のための策だ。


 相手の暗号をおおよそ解析できるようになった。おそらくあちらも妨害されていることに気が付いてはいるだろう。想定内だ。


「相手の操作かく乱をするぞ!」

「打ち合わせ通りにお願いね!」


 こちらの通信規格を切り替えて相手の解析を無効化したうえでかく乱コマンドを打ち込む。これは大学時代に大会で受けたハッキングを戦闘中に行えるように改良したものだ。ついさっき暗号化の解析が完了してので機体からあるデータを相手の機体に忍びこませた。


 自衛隊側に緊張が走る。それもそのはず、機体が妨害で動かなくだけでなく指示を受けつけないようにした。向こうの操作よりこちらの端末での操作を優先するようにしたのだ。おかげで相手の足を止めることに成功した。


しかし向こうも一筋縄ではいかない。急いで通信規格を切り替えたらしく、こちらの遠隔操作が無効化された。だがそれも読み通りだ。スパイウェアから暗号化と通信規格をこちらに送信してきたのでいつでも妨害を再開できる。


「いつでも操作を乗っ取れるけどどうする?」

「じゃあ機体を1秒間だけその場に硬直させて。タイミングはこちらで示すわ。」


おそらく次の瞬間で勝負が決まる。いつその瞬間が来てもいいように操縦権を乗っ取るボタンの上に指を乗せて待機する。


 自分の唾を飲み込む音が聞こえた。


「今よ!」


 間髪入れずに操作系を強奪した。


 そこからは一瞬だった。岩を利用して機体を空中に踊らせ、装甲車の弱点であるトップをレーザで狙い撃ちした。一撃で撃破判定が出た。


 空中では身動きができないため相手の動きを完全に止められるのを見越して動いたのだろう。相手にしてみれば通信規格を変えたばかりで妨害はないと思っていた時の動作停止だったから効果は大きかった。


「ついに勝負がついた…。」


「やったわ!勝ったのよ!もっと喜びなさいよ!」


 いや、俺にはまだやるべきことがある。自衛隊陣営に佇んでいるコクピットへと向かった。

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