第2話生存本能
蜘蛛男が真顔になり、おっそろしい美貌で智也を見詰めてくる。
「だ…だから!なっ…なっ……なんだよ
!」
智也が焦っても、蜘蛛男は更に見てくる
。
「だぁかぁらぁ!」
智也のその叫びと共に…
「ペチャッ」
何かが智也の左頬を素早く撫でた。
酷く、それは濡れてた。
「うぉっ?!」
妙な声を上げた智也が気付けば、それは
、蜘蛛男の細く長い舌だった!
「フフっ…もっと、舐め回したい!…」
そう呟き蜘蛛男は、ニッと嗤い自分の唇を舌なめずりした。
「ざっけんな!」
智也は怒声を上げて、その場を走り逃げ出した。
(喰われる!まっ…間違い無く喰われる
!)
そう焦る智也を、更にニッと嗤い蜘蛛男が後を追う。
蜘蛛男の動きは、勿論人のモノでない。
「ヒュンッ!」
スリムだが、180センチ以上あろう長身で、大きな木の幹に向かい素早く飛ぶ。
そして、四つん這いでそこに張り付く。
「ヒュンッ!」
同じようにまた違う木に移動し追って来る。
しかし、蜘蛛男もさっきの公園での男とのバトルで体力を使い、腹も極限に減っていた。
それらさえなければ、もっと機敏な動きが出来たはずだった。
(やっぱ、あいつ化けモン!あんなイケメンなのに!何なんだよ!何で俺がこんな目に合うんだよ!)
(俺は、まだ、25日のバイト代も下ろしてないんだよ!)
(明日は休みで給料下ろして、宅配でピザ取って、読みかけの、転生したらダンジョンマスターでハーレム無双読んで、やりかけのブラックムーンリリストライデント11面クリアするつもりだったのに
!)
智也が心の中で喚いていると、目の前の木に、追いついた蜘蛛男がサッとへばりつき…
「シュシュッ!」
口から長い粘着質な糸を出した。
「うげっ!」
智也は、逃れようとし体を翻したが、同時に…
目の前の草むらに、ドッチボール程の大きさの、ふわふわした丸い綿のような物が目に入る。
しかもそれは、かわいい目と口、腕があり、智也達が突然現れた事に固まっていた。
「危ない!」
智也は、他を悠長に気にしている場合ではなかったが、自分が避ければ糸が綿に当たると察し、瞬時に綿を抱いて糸もかわす。
「人間、すまない。助かった!」
あろう事か、綿が喋った!
だが、綿を抱き更に逆行し逃げながら息を切らす智也に、驚く事もまともな返事をする余力も無い。
「も…もう、ダメだ!」
智也が、弱音を吐いた。
「どっ、どうした?!」
「もう…はっ…腹減って、」
「なら、あの、赤い花を食べろ!」
丸い綿が、その辺に沢山なっている花を指指し、突拍子の無い事を言った。
「はっ?」
「あの赤い花を食べれば、腹が膨らみ、体力がアップする!」
「そんな!急に食えって言われても!」
智也は迷う。
当たり前だ。
こんな知らない世界の知らない花を、すぐ疑わず食べる奴なんている訳ない!
「あの花は、食っても大丈夫だ!この世界には、己を強くするアイテムが沢山ある!手を伸ばすか伸ばさないか、それは
、己次第。」
綿の説得にも、まだ智也は迷う。
しかし…
ふっと振り返ると、目をギラギラさせて
、蜘蛛男が木々を飛び移り追って来る。
捕まるのは、もう時間の問題だ!
綿が、ダメ押しする。
「手に取れ!それで運命が変わる!」
ハッとなった智也は、走りながら赤い花を沢山乱暴にもぎ取り、一気に口に入れ噛み砕いた。
「うぐっ!」
すぐに口一杯に、苦しい程の酷い苦味と青臭さが溢れた。
こんなマズイものを食べたのは初めてだった。
(こんなモン、食いもんじゃねぇわー!
!!)
智也は、一瞬酷く後悔したかが…
「うぉ!!何んか、みなぎるぅー!」
智也は、急に全身に力が溢れ、丁度空腹と疲れの重なっていた蜘蛛男を振り切り、綿を抱いたまま森に消えて行った。
蟲毒で孤独な世界戦紀 みゃー @ms7777
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。蟲毒で孤独な世界戦紀の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます