蟲毒で孤独な世界戦紀
みゃー
第1話年の瀬
日本は、12月の、あと数日で大晦日の夜8時過ぎ。
「お疲れー!本庄ちゃん!」
大手スーパーの裏にある従業員入口に常駐している守衛のおじさんが、受付けの小窓からバイトの終わった智也に声を掛けた。
「あっ!お疲れ様です!」
智也は、斜めに掛けていたバックを開けて、おじさんに簡単に中を見せて持ち物点検終了。
「本当、まだ高校生なのによく働くよな
、本庄ちゃんは!」
おじさんの声に、智也は苦笑いした。
「彼女いないから暇って理由だけです」
「それでも、偉いよ。いつもニコニコしてるし」
「そ…そうかな?」
「そうだよ」
そう言っておじさんが、窓から外を見て続けた。
「あっ、雪、雪、降ってきたよ。本当珍しいよな。傘、カバンに入ってたな。まぁ、都心だから積もらないだろうけど早く帰りな!気を付けてな!」
「ありがとうございます!」
智也は、おじさんに一礼し笑顔で別れた
。
スーパーは、最寄りの駅から徒歩10分程。
しかし、目の前の大きい公園を突っ切ると、5分程で行けた。
公園は、すでに照明があってもかなり暗いし、人気も無い。
しかし、めちゃくちゃ寒いし、雪で傘をさすのは面倒くさいし、今日はなんだか
、我慢出来ない位凄く腹が減って鳴っていた。
迷ったが、男だしと…智也は、今日に限って夜の公園を突っ切る事にした。
暗闇にポツポツと照明の灯りだけが浮かび、吹き荒ぶ風の音だけがする。
(やっぱ、キモ!)
智也は急ぐが、ふと右側遠くに人の気配を感じた。
なんだろう?と一度立ち止まり、電灯の仄かな光だけを頼りに目を眇めて見た。
すると、多分それなりの年齢の男二人が距離は開いていたが向い合っていた。
しかも、片方の黒いコートの男が、片方のスーツの男に白く長い布のような物で体をぐるぐるに巻かれ捕らわれそうになっているのを、必死でその場で踏ん張って阻止していた。
(何?!ケンカ?拉致?)
警察に電話するか、自分で助けに行くか悩んだ瞬間…
突然、男達の居る暗闇から長い、まるで蟲の足のようなものが智也に向かって来てた。
「わっ!!!」
智也は、それに掴まれ大声を上げたが、その次の瞬間にはそのままの状況でコートの男がすぐ背後にいて、距離のあるスーツの男と向い合っていた。
再度よく見ると、やはり気持ちの悪い大きい蟲のような左足4本に体をガッチリ掴まれていた。
そして、右側の視界にも同じ足が蠢いていて、それは明らかにコートの男の人間ぽい胴体から突き出ていた。
「何?!」
智也が戦慄して、そっと後ろを見る。
コートの男は、映像か画像でしか見たことないような、モデルのような顔立ちのイケメンだった。
しかし、顔の一部に、黒い何か禍々しい
、けれど美しい感じの紋様があり、口に鋭い牙もあった。
(ひーっ!蟲男!怖い!!!)
余りの怖さに、智也が声を失っていると
、その蟲男が、とてつもないイケボで叫んだ。
「こいつがどうなってもいいのか?」
「はぁ?」
スーツの男が、冷たく聞き返す。
「貴様と同じ人間のこいつがどうなってもいいのか?と言ってる。俺を離せ!さもなくば、この人間を切り刻む!」
蟲男は、智也を掴む力を強め怒鳴った。
智也の方は苦しみながらも、もう何を言ってるのか理解が追いつかない。
「フン!人間一人、この際どうなろうがどうでもいい!」
スーツの男が、涼し気に笑った。
どう見ても、同じ人間、同胞という男に言われ、智也は絶句した。
すると、スーツの男が、右手を前にし、そこから眩しい光が放たれた。
「ぐぁーっ!」
眩しさの余りに智也は、両目を閉じて叫んだ。
だが、その状況は一瞬で、やがて再び目を開ける。
しかし、よく見ると、さっきまでいた風景と全く違う。
周りは暗くなりかけの夕方で、訳の分からない山中の膝まである草むらだ。
「何?…何処?…ここ…」
智也が呆然と呟くと、蟲男がチっと舌打ちして言った。
「蟲毒の中だよ…」
しかしいつの間にか、蟲男の顔の紋様は消え、両腕も人間のようになっている。
そして、どこから見てもその姿は人そのもので、コートを始め服は、蟲の足が出ていた所だけ穴が開いていた。
「こどく?何、それ?」
その智也の問いに、蟲男が又舌打ちして面倒くさそうに言う。
「蟲の毒と書いて、こどくっつうんだよ。遥か昔、大陸から日本に入って来た呪術の一つで、一つの壺に妖怪や魔物や毒のある蟲を入れて闘わせ、最後に生き残った一匹だけが壺から出られる…あの男、小さい壺を持っていやがった。その中に、あの男に入れられちまったんだ…
」
「はぁ?何それ?冗談でしょ?」
「良く見ろ!ここは、壺の中の蟲毒界だ
」
蟲男は、智也を睨んで言うと続けた。
「俺は、蜘蛛の化身だが、これからおんなじようにここに入れられた化けモノと戦かって生き残らないといけない…でも、運良く壺から出ても、あの男の使役する最強の式神になれるだけで、あの男が死ぬまであの男の為だけに働かされ縛られるだけだがな…」
「え!?」
智也は、一瞬にして蒼白になった。
そして、あ然として又周りを見回したが
…
「はぁ?!ちょっと、何俺の事巻き込みやがって!どうしてくれんだよ!」
智也は、蜘蛛男の襟首を掴んで揺らし叫ぶと、蜘蛛男も智也に同様の事をして怒鳴った。
「はぁ?!折角人質にして逃げようと思ったのに、あいつにどうでもいい扱いされやがって!この役立たずが!」
「はぁ?!お前、何言って…」
と、智也が怒りを更にぶちまけようとすると同時に腹が鳴った。
ギュルギュル~…
一瞬、あ然とした蜘蛛男だったが、次に智也の顔をじ~っと見た。
智也は、こんな時に悔しかったが、蜘蛛男は、よく見れば見る程男前だった。
「なっ…なんだよ?!」
そう言って、今度は智也が蜘蛛男を凝視すると、蜘蛛男は、酷く妖艶な笑みを急に浮かべて呟いた。
「そうだな…俺もそろそろ…腹が減ったな…」
寒い寒い…師走の片隅で、こんな事がありました…
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