ハロー、パラレル世界。グッバイ、並行ワールド。

佐々木笹

第1話

 気がつくとそこは名前の無い駅だった。その駅は、いつ列車が来るかも、その列車がどこへ向かうのかもわからない、わかりやすい言葉で表すならそれは、日常にあるような、かといってどこかこの世のものとは思えないような。そんな場所だった。周りには、誰もいなかった。無人駅のようだ。

 俺は切符のようなものを持っていた。切符には何も書かれていない。白紙だ。

 俺は、どこか遠いところ、俺という存在が生きやすい世界、俺を認めてくれる世界、そんなような場所に行きたかった。漠然とした理想論だった。ただの社会不適合者の現実逃避に過ぎなかった。今までの世界から逃げれるのなら、消えれるのなら、俺は死んでもよかった。

 俺は、不規則にやってくる列車の一つに乗った。切符があるなら列車に乗ってもいいだろう。もちろんどこに連れて行かれるかはわからない。ただ、俺が行くべきところに連れて行ってくれる。そう思っていた。

 列車に乗っているのは俺のような人間ではなかった。身体全体が影のようなものだった。列車はそれほど混んではいなかった。俺は、何も映さない列車の窓を眺めて、ただ時が過ぎるのを感じながら自分の過去に浸っていた。

 俺という人間は家族もいない、友達もいない、コミュ障で学校も1人でサボりがち、常人と比べて何一つ誇れるような才能も無い、努力もできない、生きる意味どころか生きる権利すら剥奪されるべき、そんな人間だった。

その列車が何駅か過ぎたところで俺は列車から降りた。そうするべきだと思ったから。

 その駅には見覚えがあった。いつも俺が使っていた駅だ。少し都会で、でも自然が多くて、周りはいつも楽しそうなのに、自分は1人でこそこそ素通りして、たまたま見つかって、少しだけ痛い思いをして。

 俺はなんでこの駅で降りたんだろう。これじゃあ変わらないじゃん。

 俺は泣きそうで、というか泣きながら、見覚えのある町を歩いた。どうやらこの町は俺の知っている町とは少し違うらしい。俺が通っていた学校に行ってみた。知っている人がいなかった。俺の席は無かった。俺の居場所は無かった。嬉しかった。この世界は俺を必要てしてないって思えた。誰も俺を気にしない。誰にも傷つけられない。俺が俺でいられる。俺はこの世界でなら生きていけるかもしれない。

 俺は自分が前の世界で住んでいた家に行った。俺がいた事実が消されたこの世界に自分だけが住んでいた家が残っているのか心配だったが物体として存在していたものはたいていの場合残っているようだ。俺はこの家を拠点に自由気ままに生きていくつもりだ。自分の生きる意味を見つけたい。俺が生きてもいい権利がこの世界にはある。俺は、この世界で、0から生きていく。そう決意した。

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ハロー、パラレル世界。グッバイ、並行ワールド。 佐々木笹 @__sss_05

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