夜が来て、夜になります。

F.ニコラス

――

 夜が来ます。


 太陽が昇って、沈んで、その後に夜が来ます。


 ではどこから来るのでしょう。

 朝と昼と夕方は太陽が連れて来るけれど、夜は誰に連れられて来るのでしょう。


 海です。


 夜は海から来ます。


 知っていますか?


 海の底は朝でも昼でも夕方でも暗い。

 それは夜がそこにいるからです。


 夜はだんだん上の方に上がってきます。

 先ほど、太陽がどうのと言いましたが、太陽が動くのは夜から逃げているからです。


 太陽はいつも夜から逃げています。

 夜はいつも手を伸ばします。

 けど、いつも逃がしてしまいます。


 太陽は上手に動くのです。

 夜がしゃがんだ隙に、さっと通り過ぎるのです。


 代わりに、夜は様々なところにいます。


 暗闇は夜です。

 クローゼットの中は夜です。

 箱の中は夜です。

 鞄の中は夜です。

 あなたの体の中だって、夜です。


 夜はそこに佇んでいます。


 でもやっぱり、ほんとうの夜は海にいます。

 海の底からゆっくりと上がって来た夜は、町や山を歩き回ります。

 家の前にだって来ます。


 助けてください。


 中にいる夜と外にいる夜はいっしょになろうとします。

 いっしょになると、間にいる私も夜になります。


 だから東を向きません。

 鏡の前に立ちません。


 夜になると、夜になる人がでてきます。

 言いつけを破ったら夜になります。

 夜になると、夜になる人がでてきます。


 私は違います。

 今日は学校で調理実習がありました。


 夜です。


 もう夜になりました。

 知りません私は夜ではありません。


 お皿を割ってしまいました。


 知らない人が家に来て、お姉ちゃんだと言います。

 割れたお皿を全部なくしました。


 みんな笑顔なので良いことです。

 嫌いです。


 助けなくていいです。


 全部夜です。

 夜になりました。


 海から来ました。

 でも帰りません。

 いつまで経っても帰ってくれません。


 だから夜になりました。


 夜にはなりません。

 万歳!


 夜は睡眠と起床と嘔吐に最も適した時間帯です。

 辺りが暗くなることで(でもそこにあるので)視覚的な情報が減り、夜になるので、したがって人は減ります。


 あのひと嘘つきです。

 死んだくせに。


 異音。


 夜。

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夜が来て、夜になります。 F.ニコラス @F-Nicholas

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