十八話 不穏な村・四
「あっ!」
僕にショートソードを一撃叩きつけてきた魔族は、こちらが一瞬押し込まれた隙に方向を変えてサヤちゃんへと突っ込む。
他の魔族のうち、もう一人のショートソードはまっすぐにタロウさんへ向かい、無手の一人は僕らから少し離れた位置で足を止める。
「『炎・圧縮・射出』……火球!」
簡潔な詠唱の後で火の玉を放ってくる。後方支援の魔術師だったみたいだ。
「起動句もなく、詠唱も短いなんてっ! ブート……『炎よ我が意に沿いて魔弾となりて飛び弾けろ』……ファイアボール!」
ナデシコさんが驚いた後で、珍しく愚痴のようなことを言いながら応戦する。
ドオオォォン!
お互いの上方、ややこちら寄りの場所で二つの火の玉が衝突して炸裂した。ここまで届いてくる熱気が、魔術の恐ろしさと放った二人の技量の高さを感じさせる。
そしてそのまま無手の魔族とナデシコさんは射撃戦へと移行した。互いが互いの魔術戦力を封じあったという状況。
ショートソード魔族からの素早い攻撃をうまく躱して反撃を重ねるサヤちゃん。そしてもう一方のショートソード魔族にスピードで大きく劣るもしっかりと超能力で防御に徹して、反撃の機をうかがうタロウさん。
拮抗した状況ながら、どちらかというとこちらに分のある戦況となった。
となると、この場の勝敗を分けるのは僕次第、ということになる。
「おかしな力を使う人族だ……」
対峙した全身鎧魔族は、顔が覆われているためにくぐもった声をしていた。しかしそれでも低くて艶のある美しい男声で、そして憂いを含んでいるように聞こえた。
だけど今は戦闘中で、さっき向こうから仕掛けてきた時点でもう話し合いの余地はない。同じ失敗は繰り返さない!
「そっちから仕掛けてきたんだ!」
超能力による光の軌跡を残しながら突撃する僕のスピードに、全身鎧の魔族は驚いたのか一瞬だけ身を引くような動きを見せる。
だけど、それは本当に微かなもので、接触する時には黒い刀身の剣を抜いて構えていた。
キィィンッ
「くっ」
甲高い音は僕の拳を受け止めるのではなく、受け流された音。鋭い刃の上を流すようにして逸らされたから、超能力を発動して防御力も上がった状態じゃなかったら、これだけで僕の腕は切り裂かれていただろう。
「恐ろしいほどの膂力だが、拙いな」
反撃を避けるために受け流されるままにすれ違ったから、立ち位置は変えて再び距離が開く。それを意図していたのか、払うように剣をひと振りした全身鎧の魔族が話しかけてきた。
「それがしは魔軍にて十天の十を拝命する“武芸闊達”ノートリアスだ」
兜に覆われた顔をまっすぐこちらに向けて、全身鎧の魔族が名乗りを上げる。
「は?」
「貴様は?」
思わず変な声がでたけれど、普通に考えれば相手が名乗ったのだから、こちらも名乗り返すのが礼儀だ。だけど今は戦闘中で、ましてや先に仕掛けてきたのは向こう、礼儀とか関係ないし戸惑うに決まってる。
「……僕はセイギ、冒険者だ」
とりあえずここでの肩書きで名乗った。答えずにいられなかったのは僕がやっぱりまだ自分がヒーローだと心のどこかに決めているからかもしれない。
「……」
口なんて見えないから推測だけど、ノートリアスと名乗ったこの人はまだ何かを言いたそうにしている。
「ここは引きましょうっ」
ナデシコさんが魔術の撃ち合いを続けながら、声を上げた。大きな声を出す程度の余裕はあるにしても、明らかに苦しそうな響きがある。
引く? それはちょっと消極的に過ぎるような……。確かに、勝率が百パーセントの戦いなんてないだろうけど。
こっちの世界で曲がりなりにも冒険者として、僕らは……僕は、やれてきたんだ! もう僕はあの時のような守られるだけの弱い子供じゃない、僕が守る側のヒーローなんだ!
「セイちゃんっ!?」
優位ではありながらまだショートソード魔族と戦っていたサヤちゃんの驚く声を聞きながら、僕は再び突撃した。僕がノートリアスを素早く打ち倒せば、ナデシコさんだって考えをかえるはずだ。
ゴッ!
そして僕の意識は暗転した。
召喚勇者オモテウラ! 回道巡 @kaido-meguru
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